第5話 レベル4
「……マジで?」
「うん、マジマジ。なんなら見てみる?」
はい――と言って俺にタブレットを渡すキズナ。
俺はこれをどうすべきなんだろう?
キズナによれば、過去の検索履歴はアーカイブ化されているため、いつでも閲覧可能とのことだ。
キズナの勧めに従い見るべきなのだろうか、自分の未来を。
《パンドラの箱》という話もある。
人は自分の未来を知らないから、希望を持って生きていけるのだ。
希望の正体が希望のままならいい。
俺は素晴らしい気分で人生を送ることができる。
だけどその正体が絶望だったら?
キズナの言ったことが本当だったら?
俺が「お友達でいましょう」みたいな感じでフられるとしたら?
俺の未来に希望などなく、ただただ絶望のみが存在していたとしたら?
「………………」
はっきり言おう。俺は知るのが怖い。
自分の未来など知らないほうがいいと昔の偉い人が言っていたが、本当にそうだと思う。
怖い。
知りたくない。
完全にビビり散らかしている。
……よし、決めた。
やっぱりこれは見ないことにしよう。
「キズナ、やっぱいいわ。自分の未来なんて知らないほうが幸せだし」
「ボクもそう思うけど、見てもらわないことには話しが進まないからさっさと見ろ」
俺の希望は秒で却下された。
キズナは俺にタブレットを持たせたままタッチパネルを操作すると、無理やり俺の目を開けようとする。
「見たくないって言ってんだろ! なのに無理矢理見せようとするなや!」
「見ないことには話が進まないって言ってるでしょ! 覚悟決めてちゃんと見なさい!」
「ああああぁぁぁぁぁーーーーっ! やめろおおおぉぉぉーーっ!」
この天使力強ぇ!
見た目に反してパワーキャラすぎる!
やはりこいつの正体TSしたジャ〇アンじゃないの!?
……
…………
………………
「………………………………終わってた、俺の人生」
抵抗空しく、俺は天使を名乗るTSしたジャイ〇ンに、自分の未来を見せられてしまった。
こんな未来なら知りたくなかった。
何だよコレ!?
大学入学まではいいとして、卒業してからが地獄じゃねえか!
数年間のニート生活に、その間に親が事故で死亡。
残した遺産を食い潰しつつ生活し、28歳で賭けにでて企業設立。
しかしそれも軌道に乗らず30歳で会社は倒産、
32歳で腎臓一個、肝臓の半分を売ってまともな生活ができなくなり、その後数ヶ月で死亡。
生涯全く女っ気がなく童貞のまま人生を終えるだと……!?
「ふざけんなクソがああぁぁぁっ! 俺が一体何したっていうんだボケエエェェェーーッ!」
「ちょ!? 太陽、ちょっと落ち着いて!」
「これが落ち着いていられるか!」
大学入学までじゃねえか俺のまともな人生!
そこから先は生身で大気圏から落下するくらい真っ逆さまの転落人生じゃねえか!
おまけに一生童貞とかふざけんじゃねえ!
「何かの冗談じゃないのか!? こんな目に会うような人生送ってねえぞ!
「うん、そうだね。太陽は基本善人だから、男女ともに友達も多い。好意と悪意を比較したら、圧倒的に好意を向けられる回数の方が多い。やったね太陽! 死後は間違いなく天国行きだよっ♪」
「死んでから幸せになるより今幸せになりたいんだよ俺は!」
「うーん。見ての通りそれは厳しいかなー?」
「くそ……こうなったらもうヤケだ! 悪の限りを尽くして無理矢理幸せになってやる! 人生転落するのは大学卒業以降だ。なら、逆に考えればそれ以前なら不幸にはならねえ……魔王と化してこの世のすべてを手に入れてくれる!」
「具体的にはまず何から?」
「とりあえずピンポンダッシュ百件だな」
「それ、太陽は幸せなの?」
「……いいえ、全く」
魔王になると決めたところで、俺の本質は小市民であり善人なのだ。
誰かが泣いているのを見るのも嫌だし、俺が傍若無人な魔王などになれるわけがない。
「はぁ……結局俺に悪事なんてできるわけがねえんだよな。悪いこととか一ミリも楽しくねえもん。無関係な他人傷つけて笑う奴の神経が理解できねえ」
さっき言ったピンポンダッシュが、俺にできる悪事の限界値だ。
それでも迷惑になるからやりたくないけど。
「詰みを受け入れるしかないってことか……」
「安心して、そんなことないから。善人が詰みにならないようにするために、ボクたち天使は存在するんだから」
そう言ってキズナは胸をドンと叩いた。
叩いた衝撃により、キズナのたわわ様がプリンのように激しく揺れた。
ちょっとだけ幸せな気持ちになった。
「ボクもこの辺を引き継いだばかりで詳しくはないんだけど、前任者の話だとさ、1年前まではこんなじゃなかったみたいなんだよね。太陽の人生」
キズナの話によれば、俺は本来なら大学卒業後、一流企業に就職して実力を積み、28歳で独立するらしい。
その会社は軌道に乗って会社は成長。
32歳をすぎるころには社員数300名規模の大会社に成長して、
55歳で引退するころには世界有数の大企業にまで発展するはずだったとか。
恋愛運も順調。
高校3年時に恋人ができて、その子と起業時にゴールイン。
子供も男女2人ずつの合わせて4人。
両親も俺が60歳になるまで生きるはずだったとのこと。
完全勝ち組人生じゃねーか。
現状と天地の差があるぞ。
「それが真実なら、何でこんなことになってるんだ?」
「バグだよ」
「バグ?」
バグって、コンピューターとかの専門用語で使われるあの?
「似たようなものかな。アカシックレコードに記録されている情報が不安定になり、運命にマイナスの変化を与えることを、ボクたち天使はバグって呼んでいるんだ」
俺からタブレットを受け取ると、キズナはそう言ってリングにしまった。
「バグは4段階に分かれていてね、1ほど軽くて4ほど重い。頻発する度合いも1ほど多くて4ほど少ない」
レベル1は1ヶ月に数百件で2が数件。
3にもなると数年に1回程度で、4は数十年に1回起こるか起こらないかだそうだ。
「一か月に数百件って、天使の仕事大変だな」
「そうでもないよ? 低レベルのバグは発生頻度が高いけど、今じゃ修正バッチを当てるだけだから」
その結果、新たなバグを生むわけか。
まるで結果ゲームの運営だな。
修正とバグのイタチごっこすぎる。
「ってことは、天使が直接来たわけだから、俺のバグは……」
「うん、最高レベルの4だね」
やっぱりか。
内容もひどすぎるし、なんとなくそうじゃないかと思ったんだよなあ。
あれ以上不幸な人がいたら、ぜひとも俺に教えて欲しい。
「で、俺のバグってどんなバグなんだ?」
「バグの名前はヴォイド。どんなに頑張ってもその結果が実ることはない、一生懸命努力して何かのフラグを立てようとしても絶対立たない。名前の通りあらゆる努力、あらゆるフラグがゼロ、無になるバグだよ。個人に引き起こされるバグの中では最低最悪のものなんじゃない?」
「本当に最悪すぎるすぎるバグだな!」
努力が実らない上にフラグも立たないって、そんなの生きてて何も楽しくないだろ!
「死ぬほど努力しても無理なのか?」
「無理。過去に同じバグを抱えた人の中で、血を吐いて倒れるほど努力した人が何人かいるけど、その全ての人に努力が実ることはなかったね」
「努力した人がかわいそうすぎる。天使名乗るなら止めろよお前ら」
「止めたよ! でも聞いてくれなかったんだよ! さっきまでの太陽みたいに!」
なるほど、そりゃそうか。
見知らぬ他人どころか、天使を名乗る電波なやつが努力を辞めろって言っても聞くわけないもんな。
納得しかない。
「じゃあ、俺は結局不幸から逃れられないってこと?」
「大丈夫、そんなことにはならないから」
そのためにボクたち天使がいる――と、キズナは再び胸を叩いた。
そして俺は再びちょっと幸せになった。
「ボクたち天使の仕事は、そういったバグを修正して人々を救うこと」
だから安心してボクに任せて。
俺の手を握ってキズナはそう言った。
任せてみようと俺は思った。
《あとがき》
結構この部分は修正しました。
今見ると余計な修飾語多すぎたなあ。