Ⅱ そんな、普通の一日。
「おと~さん」
舌ったらずな甘い声が、耳の中に響いてくる。
空は快晴。
風は温かく、差し込む日差しが眠りを誘う。
そんな、晴れた日の午後。
俺はただひたすら歩いていた。
後ろから聞こえてくる、トコトコという足音と、それと共に繰り返される声。
「おと~さん、ねぇねぇ、おと~さんってば」
そんな声を聞き流しながら、歩く歩く歩く。
「おと~さんってば!!」
あまりにも無視する俺にいらだったのだろう。
思いっきり大きな声が、町の中に響き渡った。
やれやれというため息をつきながら振り返る俺。
その視線の先では、幼稚園の年長くらいのおこちゃまがこっちをにらんでいた。
にらむ、といっても、もとがちっちゃくてなかなか可愛いだけあって、怒りを抱えることは難しい。
むしろ、萌え~ってなりそうなかわいさだったりする。
が、俺にはきかない。
毎日毎日そんな姿見せられたら、んで、そんな姿で俺の心を振り回されたら、いやでもなれるってもんでしょうが。
「・・・どしたん、ちびっこ?おもらしでもしたか??」
「そ、そんなことするわけないでしょ!?れでぃに対して失礼なこと言わないの!!」
大人ぶって怒っても、やっぱりかわいい。
うむ、ちょっと和んだ。
「幼稚園児が、なにをいうかな、まったく。レディって、なに?くえんの?」
「もっぉぉぉぉぉぉぅ!!ちゃんと聞いてよ!ははさまに言いつけるよ?」
その声に、さっきまでの余裕は一瞬で吹き飛ぶ。
脳裏によぎるのは恐怖。
背筋が、ぞぞぞぞぞぞってなる・・・お化け見たときみたいだな、こりゃ。
かなり失礼な想像をし、ははさまと呼ばれた相手に対して心の中で土下座しながら、俺はちびっこの目線にあわせるようにかがみこんだ。
「あのなぁ・・・いっくら言ってもわかんないん?俺は、お前のおと~さんじゃないって。そもそも、俺、結婚した覚えが無いんだが??さらにいうと、20にもなってないんだが??」
20才前だったり、結婚してなかったりする世の中のお父さんお母さんにそっと謝りながら、上目遣いににらむちびっこの頭を優しくなでた。
俺の名前は、ミカヅチ。
変な名前だと思ったそこのお前、いますぐぶっ飛ばすぞ?
剣と雷をつかさどる神様からとったって言いながら大笑いしやがったじいちゃんと同じ目にあわせるぞ??
一人で怒っている俺のことなんぞまったく知らないで、ちびっこは膨れた。
「ちびっこちびっこ言わないで!!私には、チルっていう名前がちゃんとあるんだから!!」
うぉ!?こいつ、心読みやがった!?
ま、まぁ、人間じゃないし、それくらいはできる・・・か??
うむぅうむぅうなっている俺を見上げるチル。
その目にはさっきまでと違って心配そうな光が浮かぶ。
「だいじょうぶ、おと~さん?どこか痛いの??」
さすがにこんな姿を見せられたら、もう、あきらめるしかないでしょう。
負けだ、負け。
おと~さんとでも、かと~さんとでも、好きに呼んでくれ。
「あ~、なんでもないって。んで、どしたん?俺になんか用?」
さっきまでと違ってにっこりと笑った俺。
それをみて恥ずかしそうにもじもじしながらうつむいて、そして、思い切りよく顔上げて、その顔に咲く笑顔。
「えっとね、手!!手をつなごう!!」
満面の笑みにやれやれと苦笑を返すと、彼女の小さな手を包み込んだ。
ぎゅっと握って。
「んじゃ、せっかくだから、ちょっと散歩してくか?で、本屋に行くつもりだったから、なんか買ってあげよう」
「えっとねえっとね、わたし、もぐらくんの本がいい!!」
「へ~・・・もぐらくんかぁ。チル、好きだよな、あのお話。そんなに気に入った??」
「うん、もぐらくん、大好き!!」
「そかそか・・・あ~、ははさまには内緒だぞ?また、部屋中を転がりまくられて家が壊されたら困る」
「・・・・・そうだね」
手をつないで、話しかけて。
自分にこんな日が来るとは思わなかった。
自分には幸せなんていらないって思った。
血にまみれたこの手に、そんなもんつかむ資格なんて・・・ないとおもった。
だけど。
だけどさ。
俺を必要としてくれる人がいた。
俺を好きって言ってくれる人がいた。
俺が守りたいって人がいた。
それはただのわがままで、そんなこと思っちゃいけないのかもしれないけど、だけど、罪深い俺の手は、この暖かい手を離せない。
離すもんかよ。
だから、神様。
闇にまみれた俺は、地獄に落ちてもいい。
だから、お願いだから・・・この暖かい手を、守ってください。
内容がないよ~ヾ(゜Д゜)ノ ウケケケ・・ケーッケケケケケ