第23話 神の敵の敵
名前:バレット
天恵職:銃器使いLV3
所有ポイント:645P(LV4の必要ポイント:128P)
天恵技能:忍び寄り、押さえ込み、雲隠れ
天恵神器1:隠し持つための銃
所有弾薬:21(弾薬購入ポイント:1P/一発)
天恵神器2:粉砕するための銃
所有弾薬:5(弾薬購入ポイント:10P/一発)
天恵神器3:掃き清めるための銃
所有弾薬:0(弾薬購入ポイント:5P/一発)
天恵神託:神敵を滅せよ
レベルが上がった“天恵の掲示板”を眺めながら、俺は小さくため息を吐く。
神敵を滅せよ、って誰のことだよ。むしろ“ガンスリンガーの神”の方が、教会が信仰する“一般的な神”にとっての敵なんじゃないかと思い始めているんだがな。
おまけに、今度は掃き清めるための銃、か。その名だけで、どんなもんかは想像がつく。俺が前世でそう呼んでいた銃器があったからな。
「天恵神器」
期待半分不安半分で唱えた俺の手に収まったのは、アホみたいにゴツくてデカいSPAS12だった。
おそらく散弾銃であろうことは、わかっていたけどな。
「……よりによって、なんでこれなんだよ⁉」
スパス12は、軍用に設計されたイタリアの自動式散弾銃だ。ムービー・スターに持たせれば見栄えはするかもしれんが、実戦で使いたいなんて奴は聞いたことがない。なにせ俺が前世で愛用していた手動装填式ショットガンよりも1キロ以上重いのだ。
まあ、いい。文句を言ったところで、我らが“ガンスリンガーの神”は返品交換に応じてはくれんだろう。
使うときに備えて散弾実包を20発購入してスパスの銃身下の直列式弾倉に7発フル装填、薬室に送り込んでさらに一発を追加する。
所有ポイントは100減って545。
弾薬の購入ポイントは威力と比例しているのか、市場価格ベースだと少しばかり高価えな。元いた世界で広く普及していた12ゲージの散弾は安いものだと一発50セント前後、38スペシャルの弾薬と大差ない価格だった。
言ってもしょうがない話だな。いまの俺は仕入れ先を選べない。せいぜい神の意思に沿って足掻くだけだ。
その代わり、雲隠れの天恵技能の恩恵はすぐに実感できた。転送ゲート近くでモタモタしていた俺は、黒装束の新手が配置につくのを見て慌てて岩陰に身を隠す。ステータスボードを見ていて反応が遅れたものの、スキルのおかげか発見は免れたようだ。
あいつら、エルデバインを追って二階層に現れるであろう俺を待ち受けていたらしい。一階層目にいた集団と見た目は同じ黒装束だが、印象は少し違っていた。
今度の敵の方が、行動に落ち着きが感じられた。対処する俺からすると、良くない兆候だ。
前衛と思われる男たちが手にしている武器は120センチほどの手槍。左腕には楕円形の盾を装備していた。こっちの天恵神器を知って対策を取ったか。きちんと遮蔽を利用して、二人一組で援護し合いながら迅速に展開してくる。
その数、八名。一階層で当たった連中はエルデバインを含めて二十三名だった。今度も同規模だとすると、八名分隊が後衛に二個控えていることになる。
正直、ここで音が出る銃器は使いたくねえな。まして散弾銃となると、拳銃よりも派手な音が鳴る。
葉陰が多い森の一階層と違って、起伏と岩が点在するだけの二階層は見通しが良すぎる。開けた場所は銃に向いているが、相手が多いと厄介だ。数で押し込まれると押さえきれない。周囲に魔物の気配もないので、遠吠えで魔物を呼ぶという手も上手くいく気がしない。
銃を仕舞った俺は、短刀だけを手にして物陰から物陰へと移動する。大きく外周を回り込んで奥へと向かいながら、いったん撤収するべきか迷う。
こいつらが“ガンスリンガーの神”にとっての“神敵”なのだとしたら、それを“滅する”ことが俺に課せられた神託なのかもしれんが。おそらく相手はまた冒険者でいうと練達上位相当の精鋭戦闘集団だ。手負いのガキに単身で殲滅しろなんてのは、いくらなんでも無茶が過ぎるというものだろ。
いきなり高まった奇妙な圧が、ぞわりと背筋を凍り付かせる。
頭と心に神の意思を、直接ねじ込んでくるような感覚。
「……わかった、わかったよ。……逃げずに戦えっていうんだろ」
“神敵を滅せよ”か。なんで俺が邪神の手先にさせられたんだ。心のなかでボヤく俺を、もう一人の俺が嗤う。
前世でよほど悪行を積んだからだろうよ。
「違いねえ」
いきなり目の前に現れた男が、無言で手槍を突き出してくる。危うく逃れて飛び退った場所に、第二第三の刺突が繰り出される。
ダメだ。囲まれてる。大きく敵を迂回したつもりが、殲滅用地点に誘い込まれたってことか。
相手の策に嵌まった。もう逃れられない。全力で遮蔽まで飛び込むと、俺は込み上げる笑いとともに己の業を呪った。
「天恵神器!」
手のなかに収まったスパスの重さが、いまは心を落ち着かせる。
やってやろうじゃねえか。お前らは、“神の敵”である“邪神の僕”の敵だ。
せいぜい足掻いて、我が神の糧となるが良い。




