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【第1部完結】野良犬ガンスリンガー ――転生したから今度こそ平和に暮らしたいのに、死を望む神が俺を逃がしてくれない――  作者: 石和¥


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第18話 誘うもの

「バレットくん、ちょっといいかしら」


 朝の冒険者ギルドで掲示板の依頼書を眺めていた俺は、受付嬢のカエラさんから声を掛けられた。


「はい、もちろん」


 笑顔で答えてはみたものの、わざわざベテラン受付嬢が俺を呼び止めることに違和感がある。まだ混みあう時間には早いものの、仕事を求める冒険者たちが集まり始めているのだ。

 カウンターにも列ができ始めているが、カエラさんは他の受付嬢に任せて俺をカウンターの奥に導く。

 連れられて向かったのはギルドの二階だった。前に来た応接室ではなく、ギルドマスターの執務室だ。カエラ嬢がノックをすると、すぐに入れとの返答がある。


「おう、来たか」


 事務作業を行っていたらしい傷面のギルドマスターは、書類を机に放り出して非常に微妙な顔をする。その後は俺を見て、少し探るような目つきになった。


「お前、王都に行ったことは」

「俺は孤児院育ちですよ?」


 バレットの知識は大人たちからの聞きかじりでしかないが、王国の北西部にあるコンドミア子爵領から中央に近い王都までは騎馬で七日、馬車ではその倍以上掛かるらしい。こっちの世界の移動速度はわからんが……不整地を馬車で、となると日に二、三十キロがせいぜいだろう。距離でいうと、四百キロ前後か。

 そんな遥か彼方まで孤児には行けないし、行く用もない。


「だよな」

「王都が、どうかしたんですか」

「お前に、王都の研究機関から指名依頼が出ている」


 誰が、なんの依頼を、どんな理由で出した? 

 なにをさせるつもりか知らんが、中堅上位(Cランク)になったとはいえ、単身(ソロ)の初心者でしかない俺に戦力としての価値はない。


「指名依頼の遂行義務を負うのは練達上位(Aランク)からです。いまのバレットくんに受ける義務はありませんよ」


 カエラ嬢が俺にアドバイスをくれる。やんわりと、断った方が良いと言ってくれているのだ。俺の勘なんてもんが出るまでもなく、(ハタ)から見てふつうに怪しいってことだ。


「断ってください」

「だよな。向こうは、お前の採取実績を評価しているって話だが……」


 バカ言ってんじゃねえ。バレットは食い扶持を稼ぐために薬草を摘み続けてきただけの仮登録(木札)だぞ? そんなガキのなにを評価するっていうんだ。

 なにが目的か知らんけど、どっからどう考えても罠じゃねえか。そんな丸見えの地雷を踏み抜く趣味はねえよ。


「失礼」


 ノックと同時にドアを開けて、入ってきた者がいた。こっちの世界でも不躾らしく、ギルドマスターは不快そうな顔で相手を睨みつけた。


「入って良いとは言ってない。誰だお前は」

「ああ、申し訳ない。急ぎの要件だったのでね」


 まったく悪いとは思っていない顔で、男は笑う。

 中肉中背で、これといって特徴のない顔。着衣からは高位貴族家の使用人という印象を受けるが、それを意図した偽装に思える。こいつがどこの誰だろうと、信用できないことに変わりはない。


「やあ、バレットくん。わたしはエルデバイン。とあるお方からの要請で、君に指名依頼を出した者なんだがね」

「お断りします」

「ああ、そう言うと思って直接ここまで足を運んだわけだ」


 エルデバインは笑顔のまま俺を見据える。唇だけは笑みを形づくるけれども、爬虫類のような目は全く笑っていない。俺がガキだと軽く見てるのかもしれんが、交渉役としては三流だな。


「駆け出しの冒険者に何を望んでいるのか知りませんが、それに応える実力はないですよ」

「オークを三体も倒しておいて?」


 ボソリと告げた声は、俺の耳にしか入らないほどに低い。

 それでわかった。孤児院に監視をつけていたってことは、“沈黙の森”で“魔物の過剰湧出(スタンピード)()()()を起こした張本人、おそらくは“天の狩人”の関係者だ。


「領府からの増援を止めさせたのも、あなたがたですか」


 見返して言うと、無言のまま唇が弧を描く。

 目的は、目障りな者たちの始末。それは孤児院かシスターかと思っていたが、もしかしたら俺だったのかもな。

 なんにしろ、わざわざ接触してくるとは、ずいぶんナメられたもんだ。


「おい、なにをコソコソ話している」


 ギルドマスターが割って入り、俺と男を引き離す。


「大したことじゃありません。断るのは条件を聞いてからでも遅くないと伝えたんですよ」

「指名依頼の報酬は、金貨二十枚だったな。依頼の内容は直接伝えると書いてあったが」

「“沈黙の地下迷宮(ダンジョン)”の案内だ」


 この男、いきなりなにを言い出した。

 俺はもちろんバレットも、ダンジョンに入ったことなどない。今後も入る気はなかったので、経験だけでなく知識もない。


「無理ですね」

「案内といっても道案内じゃない。君の“天恵職”を司る神がいる場所を示してくれれば、それでいい」

「……おい」


 またも口を挟んできたのはギルドマスター。呆れたような口調ではあるが、怒りの表情を浮かべてエルデバインを睨みつける。


「まさかそれは、あちこちにバラまかれた噂の“邪神”か?」

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