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鼓動140  作者: 楪葉夢芽
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Ⅲ #31〜46『星、目指すひと』(2024.5.10〜5.29)

#31『星、目指すひと』



 一歩たりとも停滞は許されない。

 歩かなければ価値はない。歩かなければ忘れられる。

 目の前が暗闇だとしても、歩け。進め。

 留まり続けたいなら、走り続けろ。

 その先に、溢れんばかりの輝く星があると信じて。



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#32『報福』



 生きていたくはないけど、永遠に書き続けていたい。

 矛盾だらけの願いすら、叶えてやれなかったな。

 せめて、おまえたちがおまえたちらしく生きられるように。

 おまえがすべてを(なげう)ち、それを成し遂げる覚悟があるのなら、俺もそれに報いてやる。

 地位も権力も失ったとて、おまえたちを(うしな)うよりは遥かにマシだ。



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#33『思い出すら哀愁の(うち)



 写真はいい。一瞬を永遠のものにできる。

 今はもう会えない人にも、写真の中でなら会える。

 ……まあ、その人が写真に写ればの話だが。

 まったく、思い出のひとつすら遺してくれやしない。三千年前の憎しみが(くすぶ)り出しそうだ。

 こんな私如きに守れたものが、いま写真に写る全てなのだろう。



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#34『値を張る』



 自分なんかが誰かに影響を与えるなんて恐れ多いし、恐ろしい。

 それをするのは、義弟妹たちが相応しい。あの子たちは、そうしなければ生きられないのだから。

 でも私の心臓ではもう欠けすぎていて、彼ら彼女らの命は(まかな)えない。

 私で賄えないのなら、別の命を使う。それだけだ。



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#35『いっしょ』



 ああ、こうなるのが正解なのか。

 産まれてすぐにあなたを見た瞬間、私はそう思った。

 だから、あなたの背を追った。あなたを(なら)った。

 あなたはきっと間違えない。心のどこかでそう信じていた。

 だから。

 私は、すべて間違えた。

 私が本当にすべきだったのは、あなたと一緒に荷物を背負うことだったんだ。



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#36『同胞』



「あれの遺骸は私が回収する」

 同胞だからね、と微かに笑ったけれど、その瞳は未来(さき)を見ていた。

 片や紀元前より人類を静観し続け、片や人類の祖先として罪を招いた者。

 終わりを終わりが迎えに行く。とてもうつくしい終焉だ。

「いいよ。ただし、条件がある────」



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#37『インタープレネット』



 この海には、かつて純然たる色を持たない水で満ちていた。

 単一的で整然とした、人らしいひとはいなくとも、とても澄んでいて美しかった。

 いつからか、この海には整理できない色とりどりの水が流れ込んだ。

 処理できないほどの人口で溢れ、この海は汚された。

 ああ、きれいな海を、私にかえして。



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#38『繭のパズル』



 あなたはちょっとでも立ち止まって休憩しようっていう考えがないひとだから。

 しゃーないから、俺らが見守っててやんなきゃな。

 ええ、私たちを書ききる前に倒れられでもしたら困るので。

 ね。あたしたちにひろい世界をくれるって約束したもの。

 あーあ。はやく起きないかなぁ。



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#39『複製世界』



 ……。うん、泣いてるね。あなたが死んじゃったから?

 ……。どうしてそんな顔をするの? あなたが死ぬまで(かえり)みなかった人たちなのに。

 ……。血の繋がりってそんなに重要?

 ……。わからない。わたしが人間じゃないから?

 ねぇ、今ならもどせるけど、どうする?



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#40『救征首』



 身分も名前も忘れて生きてみたい。

 責任すら投げ捨てて、ひろい世界を見に行けたら。

 どれだけすくわれるだろう。

 あと、どれだけ救わなくてはならないのだろう。

 自分を救えるのは、自分だけなのに。

 なら…………ならば、私が(あまね)く全ての敵であれますよう。



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#41『忘却死』



 言葉にしなければ伝わらない。

 なら、私はそれ以上の言葉を文字として送り出そう。

 私が死んでも、風化しても、あなたたちが死ぬことはない。

 あなたたちにとっての、唯一の死は忘れられること。

 あなたたちを死なせないためなら、私はどんなことだってする。

 どんな手段だって選ぶ。

 それが、あなたたちを不幸にすることでも。



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#42『人工的滅亡』



 自然は人間と敵対し続けた。……いや、自然はかくあるべくしてそう在っただけか。

 生き残りをかけて自然に適応する進化を遂げるはずが、いつしか自然を排除する動きへと変貌していった。

 自然自体に意志はない。敵と見做(みな)されようが構いはしない。

 そこに、人工的な意識が介在しなければ。



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#43『不変』



 私だけは、何があっても変わってはいけない。

 私が変わってしまったら、あの子はどうなる?

 きっと、何処へ行けばいいのかわからなくなってしまうに違いない。

 あの子がいつか帰ってくるこの場所がどれだけ変わっても、私だけは変わらずにいよう。

 冬の終わりを告げる春が来るまで。



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#44『めーでーめーでー』



 私は、一体誰のふりをしたかったのだろうか。

 手遅れとなった今では、もう何も思い出せない。

 今の私にあるのは、尽きない、満たされない、果てへ、果てへ、果てへ。

 何処までだって行きたい。何だって欲しい。

 減る、経る、へる。

 人間の器に()れられていようと、その思考は既に獣のそれであった。

 狂気の、果てへ。



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#45『罪を。』



 人間と対立する獣。

 その生まれた意味は、消滅すること。

 産まれたときから死が定められている、人間じみた存在。

 けれども、彼らは人間に非ず。人類を清算し、払拭する者。

 獣とは言っても、人間より遥かに理性的で理想的な存在にして、人間とは相容れないもの。

 彼らには生も死もなく、ただ再生と消滅を繰り返すのみ。



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#46『To be……』



 現状でしあわせになれるのはあなただけだった。

 あなたのしあわせには、私たちは必要ない。

 私たちがいなくても、あなたは自力でそれを掴み取れる。

 私たちは、あなたに道を譲ることを厭わない。

 だけど。

「もしも、来世なんてものがあったなら…………また、私のお姉ちゃんやってよ」



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#47『欠合』



 かけていても、それを補ってしまえば何ら問題はない。

 また元通りに機能するだろう。

 ついではいで、原型がなくなったとしても。

 補い続け、円滑に廻るようにすること。

 当機に与えられた責務を果たすまで。



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#48『番人』



 彼の神への干渉、接近を禁ず。

 なるべく、思考することも避けるべし。

 まだ、自分が可愛いのなら。

 この宇宙の中心であり、この世界を統べる神は、致命的な欠陥を有する。それ故、彼の神はこの世界の象徴でしかなくなり、この宇宙においては一切の権力を持たない。

 けれども、油断を禁ず。



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