II #15〜30『MONO KAKUSIN』(2024.4.23〜5.9)
#15『椅子投げゲーム』
私にはできないことを、あなたに託そうと思いました。
適材適所、なんていう言葉があるでしょう? つまりは、そういうことです。
私はあの言葉が大好きなんです。自分には資格があるけれどできないことでも、資格はないけれどできる誰かに丸投げできるんですから。
……いいえ、あなたにはできますよ!
それに、もうどうにもできないことでしょう?
だって、あなたはそこに座っているじゃないですか。
-------------------------------------------
#16『孵化』
身体は白く、その身に流れるは黒。
パズルのピースのような欠片を嵌めていき、やがてそれがたまごの形になったとき、我々は産まれる。
彼女が咀嚼した思考を、解釈した思想を備えた我々はシナプスとして機能する。この世界に小石を投じるべく、羽ばたきをもたらすべく。
その役割を全うした我々は、再び産まれ直すのだ。
故郷の実験都市へ。
-------------------------------------------
#17『春終』
桜が散ってしまったら、春は終わってくれるたろうか。
どんな季節であっても、きみが掠われないか、それだけが不安だった。
きみの好きな桜に掠われる前に、それが散ってくれますように。
春がさっさと過ぎ去ってくれますように。
夏が来ても、秋が来ても、冬が来ても。ずっとずっと、そのことだけを不安がる。
僕は、きっと季節になってしまいたかったのだ。
-------------------------------------------
#18『好奇の××』
未知。未踏。
これらのすべては、この××を表す。
人類よ、嘆くことはない。
人類よ、悲しむことはない。
人類よ、絶望することなど何処にもない。
貴公らは終わらぬ。終わらせはせぬ。
私は人類の永続を願うのみ。
栄光を、発展を、進化を。
その果てに、超越せよ。
貴公らは命を辞めよ。
貴公らは息を止めよ。
貴公らに生はなく、死もなく。
ただ、存在するのみ。
さあ、概念へと移行せよ。
我々の領域まで立ち入ることを許可しよう。
-------------------------------------------
#19『君の死について。』
君の遺書は見つからなかった。
だから、君が自殺したなんていう根拠はどこにもないんだ。
もしかしたら、事故かもしれない。はたまた、誰かに知らぬ間に殺されてしまったかもしれない。
前者だったとしたら鼻で笑うし、後者だったとしたらどんな手を使ってでも犯人を殺してやる。
……結局のところ、僕は君の死んだ理由を捏ち上げたかったのだ。
僕の知らないところで勝手に死んだ挙句、僕には何も伝えないで逝ってしまった。
そんな君が憎くて憎くて、仕様がなかったんだ。
-------------------------------------------
#20『MONO KAKUSIN』
誰にも伝わっていないし、誰からも理解されていないかもしれない。
それでも、手は止まらなかった。
それが自分のためだったのか、身体のない義弟妹たちのためだったのかは、もはやわからない。
ただひとつ。確かなことは、死ぬまでやめられないことだけだ。
-------------------------------------------
#21『Death Notion Altar』
我々の命は、継承と模倣の連続である。
たったひとつの命題を踏み越えた先の景色のため、数多の試行錯誤を繰り返し、無意味にも思える生涯を費やし、此処へ到達する。
何を成したのか。それだけを見ることに意味はない。
人間として、本当に大切なことは。
何の為に生きて、死んだのか。
-------------------------------------------
#22『風呂場の虫螻』
僕はいつからこんなに弱くなったのだろう。
涙腺はこんなに緩かっただろうか。
友人たちと他愛ない話をして、こんな時間が続けばいいと思って、すぐにこの幸福が終わることに気づいて、涙して。
それを笑いすぎたからだと言い訳するのは、何回目だろう。
ああ、せめて、あんな日に死ねたらいいのに。
今みたいに、泣きながら足が遅すぎる死を待つなんて御免だったな。
-------------------------------------------
#23『分かり合えないいきもの』
争いのない時代が、いつかやってくるだろうか。
何百、何千、何万年かかっても、そんな時代は来ないかもしれない。
塔が崩壊せずとも、産まれ落ちた畑が同じでも、我々はきっと殺し合う。
……もしかすると、それでいいのかもしれない。
分かり合えないことは、素晴らしいことなのだから。
-------------------------------------------
#24『きれいな海を探す者たちよ』
この時代に魔女狩りが流行するなんて誰が想像しただろう。
難癖さえつければ、民衆が審議を待たずに勝手に火刑になる。
姿無き殺人者どもが、自覚なき共犯者どもが蔓延る混沌の時代。
孤独にほんの少しの安らぎを与えたかった。
きれいな海が見たかった。
この時代を、どう生き抜くのが正解なのだろう。
-------------------------------------------
#25『悪性腫瘍メメ』
似たようなことばかりを繰り返し続ける巫山戯た歴史に、永劫輪廻する巫山戯た命。
人から人へと伝染していく腐り切った病気。
こんなものが文化か?
ただの洗脳に過ぎないじゃないか。
終わりない進化を強制された、哀れな生き物。
人は永遠に生き続けるいきものじゃない。
それを、"あなた"が思い知らせるのだ。思い出させるのだ。
-------------------------------------------
#26『嘘みたいな』
君の葬式では笑っていよう。
そう自分と、生前の君に約束したんだ。
遺体なんてないけれど。いや、ないから、余計実感が湧かない。
ひょこっと、ドッキリ大成功とか言って現れてくれやしないだろうか。
こんなことを思うのは裏切行為に違いない。君の望みは叶ったのだから。
なのに。
どうして、笑っていられないのだろう。
-------------------------------------------
#27『No existence』
路傍の石ころになりたい。
昔から、そんなことを思っていた。
誰からも意識されることのないような、そんなものになりたかった。
自分の名前が学校の名簿だとかに残り続けるのが嫌いだった。
自分の名前が『 』だったら、よかった。
だから、自分の名前が至るところで間違えられる度に、自分は誰からも見られていないようで、むしろ嬉しかった。
-------------------------------------------
#28『フィクションヒューマン』
噂や流言飛語だけで形作られた人間がいると、一体どれだけの人が信じる?
書面の先に、画面の先に誰がいるのか。そもそも、実在する人間がいるのかすら確たる証拠はない。
簡単に他人を惑わし、騙し、狂わせられる時代。
君はどれだけの人を欺けるのだろうか。
-------------------------------------------
#29『きみへの答え』
いつも、見えない怪物を恐れていた。
物心ついた頃から、ずっと自分の傍で牙を研ぎ続けていたそれ。
しかし、恐れる必要はない。初めから武器は、持っていた。
武器は、心の中にあったのだ。
消えたい怪物への、物心ついた頃から最も近くにいてくれた怪物への、餞別の刃だ。
さようなら、自分はもう大丈夫だ。
-------------------------------------------
#30『怪物の名は、』
我々の恐れるものに、姿形はない。
我々が創り上げてしまった怪物は我々の手を離れ、身勝手な創造主に牙を剥く。
望んでもいないのに生み出したその恨みを晴らすためか、あるいはただの愚かで哀れな羊を喰らうためか。
もしくは、ただ生みの親の傍にいたい。ただ、それだけなのかもしれない。