XV #389〜414『布石』(2025.7.31~8.28)
#389『哀しく意想』
傷ひとつ負わせてもらえずに育てられたんですねぇ。
可哀想に。
痛みがどんなものかわからないまま、生きて、傷つけてきたんでしょう?
学べる機会はたくさん転がっていたでしょう?
舗装された道から外れもしなかったんですねぇ、あなたは。
本当に、可愛そうなことで。
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#390『君の笑顔を』
たかだが小市民の君が、なんで世界平和だとか救世だとかを考えて生きなくちゃいけないんだよ。
もっと人間らしく生きたって、許されるはずだろうが。
それも許せないって言うんなら、せめて俺くらいには言ってくれよ。
俺は、君の背中ばかり見ていたんだから。
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#391『夏生』
また、夏が来るのか。
暑さの境に、蜃気楼の如く君がいなくなったことを思い出して、本当に幻だったのではと疑ってみる。
けれども、脳裏の節々に、触れられる品々に、君の痕跡がある。
夏に生まれた私と、夏に生き返る君。
あのとき、私が死んでいればよかったのに。
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#392『創作の奴隷』
何かを創らなくても生きていける人が羨ましくて仕方ない。
もう全身に回った毒は、何をどうやっても除去することも、排出することもできそうにない。
どれだけ細胞が置き換わろうが、もう変われやしない。
俺は創る側だ。
否応なく。
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#393『水槽の中の観賞魚』
有名になってほしい気持ちと、自分だけが知っていてほしいと。
わがままながらにそう思う。
人気があればあるほど、批評に見せかけた誹謗が溜まっていく。
そうなるくらいなら、ひっそりと、とっておきの水槽の中で鑑賞させてほしい。
たとえ、大海を知らずとも。
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#394『改変』
自分の矜持を曲げるくらいなら死にます。
遺書に書かれたあの言葉が、いつまでも頭に響いていた。
自分の想いが踏み躙られたあのドラマを見た彼は、一体どんな気持ちだったのだろうか。
あれ以降、僕は何も書けなくなった。
いや、書く意義を見失ったのだ。
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#395『従繰者』
あのひとは、何も好きじゃなかったですね。
自分ことも、他人のことも。
ああ。でも、物語だけは違ったようですね。
この宇宙を創造したのはいいですが、そこのいきものがあまりにもあのひとの期待に沿えなかったものですから。
ですから、すべてを従繰者にしたのですよね。
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#396『咲傷』
僕の心には、きっとばけものが潜んでいたんだ。
そして、きっと君はそれに気がついていた。
気づいていたけど、そっと見守っていてくれたんだと思う。
僕には衝動的な怒りも、徹底的な嫌悪もない。
それなのに。
……でもね、こんな僕のこと、信じていてくれて、
ありがとう。
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#397『離々しく』
あなたの望んでいた、ガラスの靴とは程遠い、無機質な棺しか、私には用意できませんでした。
かの王子様も、夢の中では手出しできないでしょう。
朽ちない花は、枯れない花は、美しいか。
私にはもう、わかれないけれど。
ただ、この夢が、いつかまで続きますよう。
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#398『高みの見物』
お前を連れ出した憎悪は、一体どこで力尽きるだろうか。
今際の際の見物だな。
せめて、私の命が潰えるまでに決断してくれよ。
私が見出した中でも、お前は見所があったし、それは正解だったろう。
こうして、お前は最終決戦の場に立っているんだからな。
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#399『煜燿』
この傷だって、私を構成するかけがえのない宝物だ。
私が選んだ、私の人生だ。
この責任は、誰にだってくれてやるものか。
星の許に還るのはまだ先だ。
足掻けるだけ、足掻いてやる。
理由は私が決めればいい。
意味なんて、後世が勝手につけるだろう。
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#400『自己冒涜』
いい加減、自分に期待することなんかやめちまえよ。
自分にどれだけの理想を背負わせれば気が済むんだ。
立てなくなったって、自業自得だって、誰も助けてくれやしないのに。
いつまで、自分を許さないでいるつもりだ。
いつまで、自分を貶め続けるんだ?
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#401『おしゃべり』
他人の物語なんかになりたくないのよ。
勝手に語り種にされるこっちの気持ちが理解できないのかしら。
語り種になるのも、笑い種になるのも御免だわ。
あなたなんかには到底わかりやしないのだろうけれど。
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#402『仇敵へ』
思考することが死の引き金になるなんて。
死に向かうのは必死な言葉の応酬か、深い理解の果てか。
どちらにしても、君たちには難しいかもしれないです。
ですから、銃をあげましょう。
弾丸は一発。
向ける相手を、間違えないように。
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#403『行方不明の僕ら』
僕たちは何も知らない。
新しくなったものには気づけても、あったものがなくなったとて、そこに何があったかなんて覚えてない。
行方不明者の張り紙があったことを、誰が覚えているだろう。
僕たちは、何も知らない。
自分がどこから来たのかも。
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#404『病魔巣喰いて、卑下草々』
同期が褒められるたび、それに比べてあいつは、と僕を嘲る声がする。
幻聴なんだ。幻聴に違いないんだ。
僕が全部悪いだけなのに、
どうしてこんなに心臓は痛むんだろう。
やっぱり病気かな。
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#405『Welcome to Beyond』
ねえ。幸福の国にいこうよ。
そうしたら、きみももしかしたらすくわれるかも。
かみさまはいないけど、ぼくたちの幸福をいちばんに考えてくれるひとがいるんだ。
……あぁ、いや。
ひとではないんだけど、
それでも、ぼくたちの幸福を担保してくれるから。
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#406『機巧』
確かに、僕は社会において、歯車として機能できていると思う。
でも、代替可能な歯車である僕に、何か価値はあるんだろうか。
ここに、誰でもない僕がいる意味は。
どうせなら、代替不可能な歯車になりたい。
そう思うのは、傲慢だろうか。
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#407『遠鳴り』
自分が駄目に思える日だってあるよ。
そういうときはさ、無理して目を開けなくてもいいと思うんだ。
まぶたを閉じて、僕たちに会いにおいで。
僕たちからは、そっちに行けないけれど。
みんなはいつだって会いに来れるから。
だから、僕たちはずっと待ってるよー。
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#408『心音奏で』
鮮烈な人生でも、艶やかな人生でもない。
せめて、彩りある人生に塗り替えたい。
こんなところで終わりたくない。
花束を抱えて、あなたを迎えにいきたい。
あなたの心臓で、借り物の命で、ここまで来られたよって。
花束が、花畑に埋もれてしまうだろうけど。
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#409『鏡の中へ』
ここにいる限り明日なんてものはやってこないよ。
昨日と変わり映えのしない今日がやってくるだけさ。
明日が欲しいのなら、走り続ける以上のことをしなければね。
……例えば?
うーん……。
ジャンプしてみるとか?
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#410『理外』
あればあるほど、食べるように。
いればいるほど、頼るだろうからね。
あれらは追い出しておいたよ。
自分たちで打開してみせてね。
……。
何って。
きみたちが『かみさま』と呼んでいるもののことだよ。
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#411『異星』
異なる星の夢を見た。
ひとつでも釦が掛け違えば、ああいう世界も確かにあったのだろう。
もしも。
もしも、あのとき。
そんなものが、
罪が、積み重なった結果が、
こんなひとりきりの星か。
今際くらいは、みんなの傍にいたかった。
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#412『けもの』
親愛なる君を、君たちを、炉に焼べることが、どうしてできようか。
沈黙が満ち満ちている。こんな地に黙することなど、できそうもなかった。
程よい賑やかさがあったからこそ、今の今まで安眠できていたのだ。
だが、もう後の祭りだ。
思い出は、哀愁のなかへ。
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#413『布石』
糸を張って、石を置いて、それに誰かを引っかけてやろうぜ。
引っかかったのに気づく頃には、もうすっ転んでんだ。それを笑って手を貸して、こっちですよってまたミスリードさ。
引っかかんなかった奴には口止めをして、一緒に次に通る奴の驚く顔を見て、したり顔をしようぜ。
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#414『痛い/遺体』
君の死体に見蕩れているうちに、僕も一緒にいたい。
僕は見蕩れなかったから。
夏が死んでいくのを、君と一緒に看取れたら。
僕も火葬されたなら。
夏と一緒に、みんな埋葬されてしまえばいいのにね。
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