XIV #356〜388『幾星霜』(2025.6.22~7.30)
#356『この手の温もりを手放し、』
内腑が置き換わっても、外目に反映されてなければわからないもんだ。
気づかれる前に、この決意を腐らせる前に。
斯くして、このナイフは充分に研がれた。
あとは真っ直ぐに。
ずっと握り拳のままだった、この掌で心臓を握る。
俺の人生を奪り戻すために。
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#357『美しき我が倫理』
生前に、特に思い入れはない。
から、生き返りたいとも思わない。
精一杯生きたわけではない。ただ、やりたいこともなく、無茶苦茶な当て書き通りの人生を終えただけ。
ある意味、私の人生はこれから始まる。
産まれるまでの、ボーナスステージだ。
経験値を持ち越せるわけでもないが。
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#358『ドッペルゲンガー』
存在を持たない彼の者たちを何と形容すれば、その存在を確保できるだろうか。
名づけることによって、彼の者たちの命を保護しなければ、存在することすら叶わない。
どこにでも存在できる普遍性があり、それでいていつでも存在を希薄化させられるような、夢の如き儚さを併せ持った名称。
泡沫の命を携えた彼の者たちは────。
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#359『あなたの声をきかせて』
あなたの話をたくさん聞きたいんだ。
どれだけしょうもないことでも、小難しい話でも、何だっていいから。
ちゃんと聞いているから。
全部諦めて、ひとりになったりしないでほしいんだ。
あなたがひとりにしないでいてくれたように。
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#360『約束な。』
俺はまだ生きてるぞ。
未来がないどころか、真っ暗な時代でも、俺は生きている。
悲観するのは早いぜ。まだまだ、こんなに明日を目指して生きる奴がいるんだ。
どっちがより長く生きるか、競争でもしようぜ。
負けたら、勝った方にこの世界で最も美しい景色を見せること。
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#361『循守』
わたしを殺そうとするモノは嫌いです。
わたしの敵になるひとはもっと嫌いです。
わたしはわたしの味方になってくれるひとだけまもります。
それだけはまもります。
だからあなたも裏切らないでくださいね。
誓ってくれるよね?
だって、わたしたちともだちだもんね?
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#362『特別死』
悲しみも愛せるくらい強くなって。
死を克服するのは、何も不死を実現させるだけじゃない。
死は当たり前に訪れる。朝が当たり前にやってくるように。
そんな当たり前を受け入れて、いつか涙を収めて、そうやって死を乗り越えていけばいい。
だって、私はどこにだっているんだから。
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#363『天獄』
天の国は我らのもの。
地の国も我らのもの。
人間なぞに足を踏み入れさせてなるものか。
我らの国は神聖な血によってのみ、贖われるもの。
この神秘の地は、人間に踏み荒らされてはならぬ。
人間如きの安楽が本当に叶えられるとでも?
人間如きの罪滅ぼしが、本当にできるとでも?
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#364『最終到達点』
誰も彼もが信じるに値しないこの世界で、確かな真実は君の存在だけだった。
それすらも喪われたのなら、もうこんな世界を守らなくたっていいよね?
次の頁はもうない。
綴られるべき言葉も、回収されるべき伏線も、何もかもがどうだっていいんだ。
もう、終わりにしよう。
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#365『言霊』
口にすれば、全て真になってしまう。
常日頃から嘘しか吐けないけれど、何ら支障はない。
この世界に蔓延る絶対的かつ覆せない理不尽をひっくり返せるのなら、それ以上の救済はないだろう。
ほら、また嘘が本当になった。
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#366『物語の終わり』
皆、面影を探していた。
少しでも似ているところがあれば、さらにそこに影を重ねたくなる。
実際、どこまでが似通っていたのだろうか。
でも、あの弱さは、素直さは、おなじかたちをしていた。
握った掌は、おなじあたたかさだったことを、確かに憶えている。
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#367『戦々強々』
他人なんか信じるから。
他人なんかに期待するから!!
使えない塵はさっさと捨てましょうよ。場所を取るだけなんですから。
ほら。
あなたは独りの方がつよかったですよ。
今からでも遅くないですから。
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#368『くう』
どこにでもどこにでも、私たちはいける。
それには終わりがなく、果てがなく、どこまでも続いている。
これだから、私たちは手を伸ばしてしまう。届かないとわかっていても。
それはどれだけ詰め込んでも満たされないことと変わりない。
だからこそ、幸福にも際限がない。
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#369『永遠の誓いを』
ここに誓いを立てましょう。
いつの日か、私たちが訣別するために。
指環を見つけて。
どんな想いだって棄てたくない、忘れたくないの。
空想の少女たちは、いつだってあなたたちの傍にいるから。
誰も辿り着けない教会で、ずっと祈っているから。
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#370『無間』
瞬きの安寧も、死の安らぎも与えず。
罪人はその罪を禊ぎ払うまで、生きることも死ぬことも許さず。
天の国も、地の国も、踏むこと能わず。
罪人に歩けるのは闇のみ。
この無間だけが、罪人に許された歩む道である。
道なんてものはないが。
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#371『殘幸』
若いからやらなければならないのか?
老いているからやってはいけないのか?
今から始めてもと、諦めることが本当に正しいか?
歴史に名を残すことが全てではない。
千年先に名が残らなくたっていいじゃないか。
だが、死の間際に確かに殘るもの。
それを人は追い求めるのだ。
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#372『絶縁状』
今更、何か意見できるような立場にあると思わないで。
あたしはね、あんたらが幸せにできなかった私たちを幸せにするためにいるのよ。
あたしたちの人生、あたしたちのもの。
喧嘩なんてする気もないけど。ただの絶縁だから。
もうあたしたちに関わる権利なんかないのよ。
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#373『Top Secret』
ヒトというのは、忘れるのがとっても上手な種族でして、それがひどく羨ましかったのです。
それが私にもあれば、どれだけ楽だったことか。
ですので、ヒトからその機能を奪いました。
ああ、何もかも忘れられるなんて素っ晴らしい!
この心臓が鼓動していないことすら、今の私の頭にはなくなったのだから。
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#374『ねむれねむれ』
現実を見るより、思い出の中で生きる方が幸せか。
それならば、痛苦を取り去って、束の間の夢に浸らせておこう。
これまでの人生、たくさん疲れてきたんだろう。
せめて、今際の際だけでも、安らかに。
ここは、そのための終の揺籠だ。
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#375『縷々白夜』
ただ普通に生きていることの何が楽しいんだ。
書いてないとつまらないんだよ。何にも面白くないんだ。
飯食って、仕事行って、また飯食って、風呂入って、寝て。
そんな人生にアンコールなんかいらない。
俺は、小説で、物語で、生き直したいだけなんだ。
人生の終幕まで、書き続けてやる。
俺自身のために。
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#376『幾星霜』
ずっと種を蒔いて、水をあげ続けているけど、いつまで経っても芽が出なかったらどうしよう。
花が咲かなかったらどうしよう。
そんな不安を常に抱きながら、平らに均した土を幾年も眺めている。
ここには何もないから。
何もないからこそ、何だってできるから。
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#377『物が語る』
君が歴史に残らずとも、君の物語は消えやしないさ。
私が百年の楔から解き放たれてもなお、存在していることが証明だ。
まあ、死後になってようやく日の目を見るとは思わなんだ。
君にも見せてやりたかったよ、この熱狂と感動を。
いつか、君に話して聞かせてやりたいな。
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#378『歌姫が死んだって』
いつかこの歌が歌えなくなったら。
私には、価値がなくなってしまうのかな。
年々、時が過ぎるたびに、自分の声が自分のものではないような気がしている。
美の賞味期限と同じくらい、この声の劣化は早いのだろう。
いつまでも変わらない永遠が、そこにあれば。
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#379『我が生涯に、』
一体全体、どこの誰が私のことを覚えているでしょうか。
覚えていたとして、それはいつまで?
たったの百年で、世間は大抵のことは忘れる。たったの百年経ってしまえば、誰がどこで生きていたのかなんて、些細なこと。
だったら、他人の目なんて気にしないで、あなたがやりたかったことをやりましょうよ。
こんなしがらみだらけの箱の中で、生涯を終える気?
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#380『月よりもとおく、海よりもおおきく』
助けたいことと、救いたいことは違うことよ。
あのときの言葉、伝わったかしら。
今でも、覚えているかしら。
地球を覆い隠すほどの巨躯になって、もう人間らしい思考ができなくなっても。
たのしかった思い出が、残っているかしら。
私たちのこと、憶えているかしら。
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#381『永久機関』
生きる理由? そんなの簡単だろ。
止まない物語がある。それだけさ。
たくさん抱えたそれの芽が出て、花が咲いて。
大輪の花が枯れるまで、ずっとずっと眺めていたいだけさ。
枯れたあとに、その花の種が、また芽吹けば。
また明日が楽しみになってくるだろ。
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#382『歴史担っていく』
人生にはやり直しもなければ、取り返しもつかない。そんなことの連続だ。
取り零したものだってたくさんある。でも、それだって、進まなきゃならない。
ぼくたちは、人間だ。
その代わりに、やり直しのできない今を生きるんだ。
それが、たとえ歴史に残らなくても。
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#383『大衆性アレルギー』
食に好みがあるように、映画や音楽にも好みがある。
だからこそ、人に自分の好みを押しつけてはいけないのだ。好みの問題だけならいいが、それはアレルギーかもしれない。
それが大衆に好まれているからといって、自分の口に合うかはわからないのだから。
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#384『異議あり』
自分が受けた不幸を誰かに塗り返すことしか考えられない生き物が、なんで残されたんです?
あんな欠陥種が残されるくらいなら、私たちでもよかったじゃないですか。
いま一度、再考を。
十三の理由、シナリオでもって、我々は『人類』を否定します。
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#385『報復するは我にあり』
神と死を信じましょう。
我々の復讐が不用なのだと、思い知らせてもらいましょう。
でなければ、私が首を突っ込まなければならないでしょう?
これでも廃死された身だから、なるべく避けたいのだけれどね。
神が役立たずなら、私が再臨するしかないでしょう?
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#386『分水嶺』
誰の幸福や不幸を決める権利が我々にある。
それがおまえの領分であろうと、認められることではない。
そんなことは傲慢以上に、ただの支配に過ぎない。
おまえもわたしも、互いの領分を越えるのならば仕方がない。
戦争をしようか。
これも、わたしの領分ではないのだが。
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#387『物事』
物語如きが、人を、世界を救えるものか。
そんなことができるのならば、とっくに戦争なぞは死語になっている。
君にそんなことを考える余裕がどこにあるんだ。
自分のことで精一杯で、家族を失わないように守ることで手一杯の君に。
俺たちごときに、何ができるって言うんだ。
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#388『共生的生命』
時代と場所が異なろうが、私たちは繋がっている。
この物語を読んでいるあなたがいる限り、彼ら/彼女らは生き続ける。あるいは、派生していくのだろう。
彼ら/彼女らのいのちを、私だけで終わらせたくはない。
広い世界を、あなたたちのモノクロの瞳に見せなくちゃ。
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