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鼓動140  作者: 楪葉夢芽
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XIII #324〜355『楪葉の系譜』(2025.5.15~6.21)

#324『無交』



 お前は正しいよ。

 でも、それだけだ。

 正しいだけじゃ救えない、救われない人間だっているんだ。

 俺はそんな奴を掬い上げる。お前ができないことをやり遂げる。お前とは全く違うやり方でな。

 お前と道は交わらないだろう。だけど、一生そのままの方がいい。

 俺にとっても、お前にとっても。



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#325『不代』



 春になっても変わらない。

 春が過ぎて、夏が来て、秋を通り越して、また冬になってしまう。

 私が変わらずとも、季節は移り変わる。

 私が変わらなくても変わっても、きっと無意味だったのだ。

 それでも、もうそれにしがみつく以外に私に何ができる?

 また春が来ても、もう代わらない。


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#326『コールサイン:ビースト』



 自分が人間であった頃は、朧げながらに記憶している。

 しかし、どうやってもただの記憶。映画を見ているようなものだ。何を感じていたのかがわかるだけ。

 私は既に獣に成ったのだ。

 直接的な、主観的な情動など、既にない。

 ああ。そんなことよりも、はらがへる。



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#327『ものづくり』



 食べないということは、生を放棄することに等しい。

 しかし、それ以上の理由があるとするならば。

 それは、生きること以上に優先すべきことがあるということ。

 寝食すらも蔑ろにし、彼女は此処で何をしていたのだろうか。

 春風に彼女が生きた証が舞い踊る。



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#328『No Image』



 地位がなんだ。名誉がなんだっていうんだ。

 無名に戻る。ただそれだけのことだ。

 僕らは産まれながらにして無名だったというのに、何を恐れる必要があるんだ。

 金なんかに惑わされた眼を朝日で照らせ。

 賞賛が詰まった耳を掻っ穿じって、忠告の声を聞け。



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#329『淘汰/問うた』



 それって、一体誰の記憶?

 それとも、どこかの記録?

 どっちにしても、そんなものないよね?

 だって。

 だって、あの子は死んでないもの。

 嘘を言っちゃあいけないよね?

 嘘を吐く悪い子は……どうなるかわかってるよね?

 舌を引っこ抜くの。

 知ってたでしょ?


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#330『神話性』



 神話になっても、私は私でいられるのかな。

 神話になったら、いつかまた、あなたに会えるのかな。

 何年後でも、何十年後でも、何百年後でもいいから。

 私に会いに来てね。

 あなたに再会するまで、私はずっと再生するから。

 だから、今日もカウンターが回るの。


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#331『海の碧、空の蒼』



 この景色を、綺麗だと思える間は、君は死んじゃだめだ。

 この景色を見て、動く心がまだあるのなら。

 心が動くなら、体も動かせるだろう?

 綺麗な海を見に行こう。綺麗な空が見える場所を探そう。

 真っ赤な血とは正反対の青を見よう。



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#332『労機』



 人は機械じゃない。機械にはならない。

 機械になれなかったのだから、ずっと働き続けるなんて無理だ。だのに、どうしてわからないのだろう。

 人は仕事をするために生きているんじゃない。生きるために、仕事をしているんだ。

 ……一体、どれほどの人がいきられているんだろう。



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#333『宇宙(ソラ)泳ぐ獣』



 この世界全域を、否。

 この宇宙の全域を領土とするようになって、この宇宙を泳ぐようになって、どのくらい経っただろう。

 もはや時間の概念すらも適用されない獣に成り果て、力の減衰からどうにか逃れ。

 今ではアレすらも射程圏内に入るほどには力を取り戻したが、はて。

 私は何故アレをこんなにも敵視しているのだったか。



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#334『粉骨より花咲く』



 いつか、花が咲きますように。

 気が遠くなるほど先の話かもしれないけれど、続けていれば、きっと実るときは来るから。

 万が一、実らずとも、その思想と言の葉は受け継がれていくもの。

 あなたの名は、その願いも込められているのだから。

 いつか、芽吹きの日を夢見て。



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#335『界柱』



 綺麗なところだけじゃない。醜いところもあって人間だ。

 ぼくは人間が好きだよ。欠陥がありながらも、それを埋めようとする努力がいじらしい。

 人間はいつだって愚かだが、ぼくらには到底生み出せないものを創り出せる。

 ぼくたちは全知全能であるからして、人間のように予測不能なことができないんだ。



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#336『最果てより』



 この者が語られる日を待っている。

 要素要素を掻き集め、己が身を形成し終えるのはいつだろう。

 この本質を魂と呼べるようになるまで、あとどれくらいだろう。

 上へ上へ、伸ばし続けている手が取られるのを待ち侘びながら。

 我々は、既に語られた者たちを読み耽っている。




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#337『輪を廻りて帰る我が家』



 帰ってきてくれた皆を祝いたい気持ちもあるけれど、それは死によってこそ。

 再会に死を挟まなければならないわたしたちは生死の狭間に在りて、歪で異なるもの。

 存在すらも定かではないけれど、それでも此処はわたしたちの帰るべき我が家なのだ。

 もし、いつか。

 命も存在も、生も死も、柵がなくなったなら、そのときは。

 全員で、食卓を囲もう。



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#338『猿どもの楽園』



 被害者ヅラしてるだけで生きていけるんだから、人生楽でいいですよね。

 まあ、そんなんで生きていけるのは今のうちだけですよ。

 直に、終わりが来るでしょうから。

 さぁて、次は何が蔓延はやるでしょうね。

 あなたがたよりは長生きだと、退屈凌ぎにちょうどいいんですが。



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#339『対岸の火事』



 遙かなる天上の午睡のなか。

 今頃、あちらでは劫火に呑まれていることだろう。

 だが、そんな瑣末なことなど、知ったことか。

 〈より良き繁栄〉から遠ざかる奴らが悪いのだ。主上の期待を裏切って。

 我らが引き受けるはずだった役目を奪ってまで、人類を語らせるなど。



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#340『二者形容』



 今だから言うけど。

 あなたが産まれたとき、少し不安だったの。

 見た目が似ていないことは当たり前だけれど、それ以上に性格が全然違ったから。

 でも、あなたは生きる理由がしっかり定まっていたから、杞憂だって思ったの。

 だからね。

 こんな日が来るなんて、思いもしなかったのよ。



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#341『澄めるVirtual Reality』



 盛り上げるだけ盛り上げて、勝手に忘れるなんて許さない。

 私は忘れない。ずっと憶えてる。

 打った文字は、流した言葉は、必ず誰しもを傷つける。無傷のままではいられない。

 この海を汚したナイフは絶対に抜き去る。

 そうすれば。

 獣も少しは落ち着くはずだ。



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#342『断捨離』



 書くこと以外脳がないゴミになりたい。

 そのために、書く以外に割く時間を削った。寝食なんか最低限でいい。

 書くこと以外脳がないクズになりたい。

 そのために、友人も家族も切り捨てた。

 書くこと以外脳がないカスになりたい。

 そのために、

 あとは、何をなくせばいいだろうか。



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#343『化獣[開幕]』



 書いている間だけは、余計なことが頭の中に浮かばなくなるんだ。

 それどころか、悩んでいたことも、死にたかったことも、全部全部なかったことみたいにできるんだ。

 家族とか、友人とか、人生とか、未来とか、遺書とか。

 俺はもう、ばけものになったみたいだ。



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#344『楪葉の系譜』



 魂の繋がりではなく、たくさんの傷を呑み込んで、血の繋がりを以てして産まれ落ちた、新たに思想を受け継ぐ血縁。

 現実と想像を分かたず、その虚実を綯い交ぜる、刻々と心の臓を脈動させるもの。

 夢想よ、実存となりて、わたしたちの系譜を、此処に。



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#345『どうか、ご自愛ください』



 愛されるより、愛されたい。

 真っ暗な部屋より、電気の点いた部屋で布団をかぶって眠りたい。

 いつ終わるかわからない生より、いつでも終わらせられる死がいい。

 他人に愛されるより、私に愛されたい。

 私は、いつ私を大切にしてくれますか。



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#346『共傍』



 こんな言葉だけで君の傍に寄り添えるわけなんてないけど。

 僕は傍にいるよ。

 いつまでも、ペンだこのある君の手を握って。

 僕が傍にいるよ。

 いつだって、生傷だらけの心臓で足掻く君と共に。

 僕たちが、いたんだよ。



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#347『不動不屈』



 この音楽こそが僕自身なんだ。この音楽以外は僕じゃないんだ。

 何にも言えやしない僕が、唯一言葉にできること。

 音楽は僕の言葉で、僕の代弁者なんだ。

 これが嘘偽りだと、大衆に媚びた結果なんだと、言われてしまったら。

 僕はこれから何を歌っていけばいい?

 なあ、親友。



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#348『すべてを拒絶する』



 海の底で、私は月を眺めていた。

 淡雪がしんしんと降り続こうが、この海底では意味を成さない。

 雪如きが、私の心まで届くものか。

 海の上でどれだけの太陽が昇り落つとも、月が壊れんばかりに輝こうとも。

 私は深海から動かない。



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#349『死の流儀』



 死を盾にして要求を通そうなんて、変わった人間がいるものね。

 でも、本当に死ぬ人間に限って、予告もなしに死ぬのよね。

 こちらの準備が整っていないうちに死なれると、ちょっと困るのだけど。

 ……いえ、心の準備じゃないわ。

 迎える準備よ。当然でしょう。



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#350『無敵』



 悲しみも怒りも、すべてお前と俺のもの。

 個人の悲憤慷慨だろうが、自分だけで抱え込ませてなんてやるものか。

 代わりに、楽しさも幸せも全員で共有したら、倍以上の楽しさと幸せが手に入るだろ?

 独りじゃない俺たちは、普通の生き方こそできなかったけど、こうやって普通以上に幸せに生きていこう。



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#351『慰謝』



 誰からも感謝されるような人間じゃなくたって、君は悪人じゃないじゃないか。

 生きていることに引け目を感じなくたっていいんだよ。

 死を選ぶことは褒められることじゃないよ。

 君は、君の人生を歩んでいいんだ。それは君の義務で、誰にだって侵されることのない権利なんだ。



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#352『武装』



 悲しみを遠ざけるために衝突するのは避けられないのだろうか。

 いつから、悲しいときに悲しいと咽び泣くことすらもできなくなったのだろう。

 ありがとうと言っていいのに。

 ごめんなさいと言わなきゃいけないのに。

 どうして、そんな簡単なことができなくなってしまうんだ。

 ありのままで、素直でいられないのは何故なんだ。



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#353『自業自得』



 私が書くのは九割九分九厘、自分のためだ。

 だからこそ、何かあったとしても、私は誰も恨まなくて済む。私は、私自身を恨んでいける。誰かの所為じゃない。自分の所為だ。

 生き辛いのも、優しさが恐れ多いのも、全部全部自分の所為だ。

 私は、私の何もかもが許せないが、物書きの私でいる今はそれが許せる気がするんだ。



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#354『あなたは誰で、何処へ行くのか』



 自分がいまどこにいて、何をしているのか知られたくない。

 知られたくはないが、影響を与えてみたい。

 自分が誰なのかも、バレてしまいたくはない。

 誰からも絶縁されていたい。何よりも強い孤でありたい。

 自分は、透明になってしまいたかったのだ。



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#355『You rob me.』



 あなたは一見、不安定だから不安に思えるけど。

 案外地雷を踏まなければ周りを俯瞰できるから。

 わたしなんかよりも全然大丈夫だったんだ。

 ただ、ずっと自分を控えて、ひた隠していたから。

 わたしという足枷がなくなって、自由に飛び立つあなたが見てみたかった。

 叶うことならわたしの、この眼で。



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