名前はーー
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「ご馳走様でした! たかしさん、とっても美味しかったです!」
「それなら作ったかいがあったぞ。こら、一二三殿!! 汚れた皿はちゃんと水にしっかりつけるのだ!」
「お前は俺のおかんかよ。そういえば妖って何も食べなくても生きていけるのに何で2人はご飯を食べてるんだ?」
「あ、私はしっかりご飯を食べないといけない体になっているのです。食べなきゃ餓死してしまいます」
「我は食べなくても生きていけるが、誰かが食べているのを眺めているのも我が寂しいから食べているのだ」
「その図体で寂しがるな、ギャップが半端ねぇぞ。そういえば今さらになるんだが、名前は何て言うの?」
「えっと、私ですよね。実はまだ名前がないんですよ」
「そうなのか、じゃあ十六夜乃御子からはなんて呼ばれていたんだ?」
「母様からは『愛しの子』って呼ばれていました」
「ふむ、流石に『愛しの子』って名前のはずがなかろうな」
「はい、母様からは私が嫁ぐ東野家の皆さんに名前を付けて貰いなさいって言われています」
「では、一二三殿よ。この子に名前を付けてあげろ」
「じゃあ、はなこで」
「……一二三殿。我の時の様に適当に考えておらんか?」
勿論、適当だ。
てか、自分の名前ぐらい自分で考えてくれ。
『一二三に名前を付けてほしい』って今まで何人も来て大変なんだぞ。
「ぶーぶー!もう少しちゃんと考えてください!!」
はなこと言う名前は不満な感じの様子だな。
それはしょうがないだろ俺に名前付けろと言う方が悪い。
「俺はとりあえず事務所に行って書類を取ってくるからそこで待ってろよー。その間に良い名前が思いついたらそれにするわ」
事務所は境内中にあり少し自宅から離れているからちょい面倒だけど、面倒ごとはさっさと済ませた方がいいからな。
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「全く、一二三殿が無礼を働いて申し訳ない。彼奴は面倒くさがり、マイペース、無気力な故、悪い奴ではないのだがな」
「……急に押しかけてきてしまって、もしかしたら一二三さん怒っているんですかね?」
「いやいや、一二三殿は怒っている訳ではないぞ。ただだた面倒くさいと思っているだけだぞ。それに退魔士の家系に生まれなのに大の退魔士嫌い故、あまり退魔士とは関わりたくないのだ」
「そうなのですか!? 東野家の跡取りなのに?」
「そもそも、その東野家が――――何だ、他人の家に不法侵入するのは人間社会では犯罪だと記憶していたはずだが?」
『けっ、妖如きが人間社会を語ってるんじゃねぇよ! やっと見つけたぜ、手間かけさせやがって』
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「しかし、参ったもんだ。まさか、西条の縄張りの妖がうちに来るなんてなぁ……後の処理が面倒だから後の事は爺ちゃんが帰ってたら押し付けるか」
うん、わざわざ俺が関わる事でもないからな。
後は爺ちゃんに任せよう。
と思っていた矢先に自宅方面からドォォォーンと大きな音が聞こえた。
うん、嫌な予感がするわ。
とりあえずこれを放置してたら爺ちゃんが怒るから音がした方に向かうとするか。
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「はぁはぁ、何でこの子を襲う? この子はまだ子どもだぞ?」
『何を鬼畜生が言ってるんだ。妖は全滅させるそれが対妖討伐隊の本望。妖に女子ども関係ない。くたばれ!! 東の妖よ!!』
「きゃあああっ!! たかしさーん!!」
「あのー、お取り込み中邪魔してなんだけど。人の土地で勝手に暴れないでくれますか?」
予想通りの展開が自宅の前で起こっていた。
激しく争ったのか地面が抉られていたり、幸いにも自宅は窓が数か所破られていた感じで壁に穴が空いた様子ではなかった。
『何だ、貴様は!! 退魔執行中に邪魔をするでない!!』
「うるせぇ、ハゲ!! 勝手に暴れて人様の家を荒らしやがってただじゃ済ませねぇぞ!!」
『もしや、貴様があの有名な東野家の嫡男か?』
薄ら笑うハゲ頭、俺はイライラしてきたぞ。
『くくくっ、ここがあの東野家の成れの果てか。噂には聞いていたが、こんなオンボロな所に住んでるなんてな……東野家も落ちぶれたものだ』
何を言い出すのかと思いきや東野家の悪口を言いたい放題言っていた。
「一二三さんに謝ってください!! 東野家を……一二三さんを馬鹿にするのは私が許しません!!」
『あー、このガキの妖は何も分かってないな。東野家は落ちぶれているんだよ。いいか、退魔士には等級ってもんがあるんだ。私の場合は上から4番目の丁等級。それで、東野家跡継ぎの君は何等級かこの子に教えてあげたまえ』
何か、このハゲはいちいち癪に触る話し方だな。
「俺は下から4番目の庚だよ」
退魔士は各々等級があり上から甲、乙、丙、丁、戊、己、庚、辛、壬、癸の順になっている。
四家直径の血筋で俺ぐらいの年齢になると最低でも丙等級になっているのが当たり前になる。
つまり、俺の等級が中の下である庚等級という事は直系血族の中で初めての出来事らしい。
一応、エリートと呼ばれているのが丁等級なので、コイツは喋り方はムカつくがそれなりの実力者って事だな。
「そんな事は……一二三さん!! なんか言ってくださいよ!?」
「おー、そうだそうだ。お前さんの名前で良い名前が浮かんできたんだ」
「え、今ですか!?」
いやー、流石に適当に付けちゃったら十六夜乃御子に怒られそうだったから、俺なりに真剣に名前を考えたんだよな。
『そうかそうか、ここまで私を馬鹿にしたのは初めてですよ?』
そういいながら、こっちの方に近づいてきた。
「そうそうお前の名前は……やよいだ!!」
「死ねーっ!! 東野ーっっ!!」
「うるせぇよ!!」
何かこっちが真剣な話をしているのに邪魔をしてきたハゲに顔面に1発グーパンチを喰らわせてやった。