とりあえずメシ食べよ!
「って、ちょっと待てぇーーい!!伴侶ってどういう事だ!?」
「そのままの意味ですよ。私はあなたの許嫁として生まれてきました」
そんな真顔で生まれましたと言われても……。
「待て一二三殿、それよりも大事な事を言ったな?十六夜乃御子に生み出されたと」
「はい、その通りです。私は母様もとい十六夜乃御子によって生み出されました妖です」
「な、何故十六夜乃御子がそのような事を……」
十六夜乃御子、俺でも知っている妖だ。
そもそも退魔士の家系の奴らはみんな知っている。
何故なら十六夜乃御子は西に住む妖獣を従えている主であり、西条率いる西の退魔士たちは十六夜乃御子の討伐を悲願としている。
……あれ、十六夜乃御子関係の妖がここに居るのは非常にまずいのでは?
「それは東野家初代当主の東野千里様が望んでいたのは妖との共存。私たちも千里様の悲願達成の為に西条家の猛攻を受けながらもここまで辿り着けました。とは言っても母様の犠牲があってここに来る事ができました」
うん、かなりまずいね。
西条さんたちにこの子狙われているもん。
「そして母様は私を生み出した際に『あなたは人間と共存するうえで鍵になる存在よ』と言われました。だから、私の体は比較的人間に近い存在で出来ております」
「ふむ、あの十六夜乃御子が自分の妖力を削ってまで人間との共存を望むとは……」
「確か妖同士で子を成すことは出来ないけど、自分の記憶とかを受け継ぐ妖を生み出す事を出来るんだったな」
まぁ、簡単に言えば自分が持っている妖力の核を犠牲にして自分にそっくりか全く別の妖を生み出す。
基本的には子孫を残すというよりは今世でやる事がなくて飽きた時にする事が多いらしく、基本生み出した本体は消えるのがデフォルトだ。
なのに、十六夜乃御子はこの子を生み出して尚存在し続ける事は類をみない事だ。
だって、自分の現存する妖力の核削るって事は本体が弱くなる事だからな。
「その通りです。母様は自分の持っている妖力のほとんどを私に渡してくれました。万全の状態なら追っ手を振り切るなんて容易な事でした」
女の子は話を続ける中で涙を浮かばせてきた。
「私と母様が一緒にいた時間はそこまで長い時間ではありませんでしたが、それでも私にとっては大切な……母様だったのです」
「そうか、お主もつらかったのであろうな。とりあえず今はうちでゆっくり静養するがよい。いつまでいても構わぬ」
「待て待て!! 何か感動シーンのとこ水を差すようだけど、西条のとこがこの子を追っている可能性があるんだろ? 今の状況はかなりまずいんじゃないか?」
「一二三殿はこんな小さな子をうちから追い出すつもりなのか?」
「私を見捨ててしまうのですか?」
顔をしかめなるたかしと涙目の女の子。
なんか俺が悪い事をしているみたいじゃないか。
「分かった分かった!! うちに居ていいから、そん顔で俺を見るなよ!!」
「流石は東野家の跡取りだな。我は一二三は妖を見捨てない男だと信じておったぞ」
「有難うございます!! 私、一二三さんに相応しい妻になれるように精進していきます!」
「いや、許嫁の話を認めてはいないのだが?」
「まぁまぁ、このままだと夕食も冷めてしまうし、とりあえずご飯にしようではないか」