ざわめく人妖町②
「ほらほら、一二三さん、ペースが落ちてますよ! もっと早く走らないと!」
「ハァハァ、んな事言われてもだな……」
一瞬の気の迷いであった。
万年運動不足である俺が朝日が昇る前の時間から町内を走っている。
何故この様な事になったのかというと……。
――――
「一二三さん、最近太りましたか?」
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やよいのこの一言である。
俺も健全な男子高校生、『太った?』という言葉には少し抵抗があるのは事実。
女性にモテるつもりはないが、ぽっちゃりは俺のイメージにそぐわない為、こうして運動をしているのだ。
「やよいー、俺はいつまで走ればいいんだよー!」
「それは私がいいと言うまでですよー!」
俺の前を平然と巫女姿で走るやよいをみて『見た目可愛い子だけど、やっぱ人ではなくあやかしなんだなぁって思った。
(しめしめ、一二三さんには申し訳なかったのですが、太りましたかと嘘をついてしまいました。本当は素敵な体型ですよ。ただ、いつまでも怠惰な感じで過ごされていては東野家次期当主としてあるまじき事なのです。ここは私が鬼と言われてでも一二三さんを矯正しなくてはいけませんね!)
「てか、ペースがめっちゃ早くないか? これじゃあ走り込みじゃなくてマラソンになってるぞ!)
(ペースはだいぶ落としているのですが、この速さに対してここまで付いてくるなんて……流石は一二三さん、惚れ直します!)
くそ、やよいの奴はニヤニヤして余裕な顔をしてやがる。
こっちは付いていくのに必死なのによー!
――――
「はぁはぁっ、俺死んだわ」
朝イチのランニングは昼前まで続き、今ようやく終了した。
「ふぅ、いい汗かきましたね! あ、2人きりで出かけたのですから、これが噂のでーとというものですね!」
何時間も走り続けるデートなんてあってたまるかよ!
「お疲れであったな。ほら、タオルとスポーツドリンクだ。まだ初夏とはいえしっかり水分を摂らないと脱水になるぞ」
「おぉ、サンキューな。しかし、朝イチでフルマラソン2回分を走り抜くなんて軽い気持ちで運動するべきではないな」
某24時間テレビでよく流れる曲が俺の頭の中で何回もよぎったぞ。
愛だけではこの距離を午前だけで走りきれないぞ。
「一二三よ、わしは感動したぞ。遂に前向きに修行をする気になったのだな」
「冗談はやめてくれるかな? こんなの続けてたら俺の身が持たん!!」
「そんなご謙遜を、一二三さんならまだまだ走る事が出来ますよ!」
やよいはあんだけ走ったのに全然疲れた感じがないな。
流石は西の妖を統治していた十六夜乃御子の子だ。
「今日の俺がやるべき事はこれで終了! 後は昼飯食べて夕飯まで寝てるからな!!」
午後も修行なんてもってのほかだ。せっかくの休みなのにグータラ出来ないなんて俺には耐えられん!
「いや、待たんか一二三よ! おぬしにたのみたいことがあるのじゃ」
「断る!!」
「一二三さん、ちゃんとお爺様の話を最後まで聞かないと駄目ですよ」
「そうか、ならわしの代わりに四家の会合に出てはくれぬか?」
四家の会合とは東野、西条、南場、北都の各当主が定期的に集まり、現状や今後の方針などを話し合うかなりお堅い会議の事である。
唯一の反討伐派である東野は周りから糾弾される事が多い。
ぶっちゃけ現在の当主たちは爺さんなので、もし俺が参加したらお小言言われるのは確定の為、行きたくはないな。
「そっちも嫌じゃ。俺は明日の学校に備えて休まないといけないんだ」
「一二三さん! 勉学と仕事を両立させてこその東野の人間ですよ!! ほら、私も一緒に行きますからお爺様のお話を聞きますよ!」
「ほっほっほ、一二三は早々にやよいちゃんに尻に敷かれているのぉ。わしは良い孫嫁を持ったわい」
「まだ結婚してーよ!!」
「さて、本題に入るとするかの。一二三よ、最近人妖町で銀行強盗が多発している事はしっておるか?」
「あぁ、侵入した形跡が一切ない、人間じゃ絶対にできない様な犯行だったんだろ? 何か教室でも話題になってたなーーーって勝手に話を進めるなよ!」
「いかにもそうだ。恐らくは妖の犯行で間違いないであろう。今回一二三に頼みたい事はそれの調査じゃ」
「そういう事は警察が何とかしてくれるだろ? 俺は警察でも探偵でもないぞ」
「お主は妖関係の事件には警察があまり関与しない事ぐらい知っておろう。どうやら、事件の調査に東山耕嗣が関わるみたいじゃ」
あー、確か討伐派の割にやけに弱腰のあのおっちゃんか。
「なら、俺の出る幕じゃないだろ。あのおっちゃんに任せとけばいいだろ」
「そうもいかん、今犯人探しで動いているのは大嗣なのじゃ」
「げっ、あの大嗣が動いているのかよ!?」
「大嗣さんとはどういう方なのですか?」
「大嗣は一言で言えば戦闘狂だぞ。いわゆる過激なタイプの妖討伐派」
俺アイツ苦手なんだよな。
何かと『妖は害虫そのものだ!!』とか言っているし、見た目もチンピラだし。
「そんな方が動いていると、色々危なそうです。さぁ、今からでも行きますよ!」
「ちょ、せめて昼ご飯を食べた後でもいいだろ!?」
「善は急げです。早くしないと大嗣さんに先を越されてしまいますよ!」
俺はやよいに首根っこを掴まれながら、事件の調査に動く事となった。
「流石に何も食べないで動くのはよくない。せめてこれは持ってゆけ」
たかしはいつの間にかおにぎり数個を作ってくれており、俺に渡してくれた。
たかし、やっぱお前優しいなぁ。




