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第十九話 親友たちとの再会

 

「うーん、どれもお義母様へのものばかりね……」


 ロレンスとのデートから数日が経った。

 私は侯爵夫人として領地の運営に携わりつつ、社交界からの招待状をさばいていた。


 ほとんどがお義母様への手紙だ。お義母様は私とロレンスがデートした翌日に侯爵領の平屋で見つかったけど、帰って来た今は離れに閉じこもって誰とも会おうとしない。仕方なく体調不良と断っているけど、私への招待状はないから、どうしようか悩んでいたところだ。


「あ、お嬢様あてのお手紙がありましたよ」

「え?」


 私はシェリーがお盆に乗せた手紙を取る。

 小鳥の印章には見覚えがあって、思わず胸が弾んだ。


「マリーからだわ!」

「お知合いですか?」

「えぇ、私の友達よ」


 マリー・アンソン伯爵夫人は私のアカデミー時代の友人だ。

 彼女も私と同じく読書が好きで、よく一緒に好きな本を薦めあったりした。

 最も彼女の趣味はこう、特殊だから、あんまり大っぴらに言えはしなかったけど。


「お茶会をするから一緒にどうかって……まぁ! ビアンカやエルザも来るのっ?」


 招待状に書かれていた参加者の名前に私は驚く。

 ビアンカやエルサも既に結婚していて、ビアンカには子供もいるはずだ。

 みんなそれぞれの道を歩み始めて、私はお義母様のこともあって疎遠になっていたけど。


(最後に会ったのはもう十年前なのね……)


 頭によぎる。

 未来に希望を持っていた頃の記憶。

 何も考えずに他愛もないことを笑い合った大事な友達。


(みんなに会いたい)


(会って話したいことがいっぱいある)


 大事に胸に抱きしめてから、私はシェリーを見上げた。


「招待を受けるわ。シェリー、お返事を書くから出してくれる?」

「かしこまりました!」





 ◆◇◆◇




 三日後、私はマリーの主催するお茶会に赴いた。

 アンソン伯爵家は貿易商を営む中級貴族で、王都にある屋敷も小規模だ。

 前庭には家主の穏やかな性格が表れているような花々が植えられ、ニワトコの樹が生えている。

 庭園にある小さな温室は伯爵が妻に送ったものらしく、読書やお茶会が出来るようなテーブルがあった。


「素敵ね……」


 思わず感嘆の息を吐いてしまう。

 侯爵家の前庭も綺麗だけど、あちらは金にモノを言わせている感が強い。

 前庭に噴水や銅像なんてあっても、管理が大変なだけでおしゃれでもなんでもないのだ。


 門番に案内された私は前庭にある温室へ赴いた。

 ガラスに囲まれた温室には既に三人の女性が座っている。

 私が近づくと、そのうちの一人、三つ編みおさげが可愛い茶髪の女性が立ち上がった。


「ユフィ!」

「マリー」


 私が微笑むと、マリーはじわりと涙をためた。

 淑女の礼儀も忘れて席を立ち、眼鏡を涙で濡らして私に飛びついてくる。


「あぁ、ユフィリア! 本当に久しぶりね! 会いたかった!」

「私も……私も、すごく会いたかった……」


 久しぶりの再会なのに泣いちゃいそうだった。

 本当にまた会えることになるなんて!



「久しぶりだな、ユフィリア。元気にしてたか?」


 次に席を立ったのは黒髪の夫人だ。

 見る者を落ち着かせる穏やかな空気を持つこの人はビアンカ・ライオネル。

 騎士家門のライオネル侯爵家の出身で、こう見えてかなり腕が立つ元女騎士。


「ビアンカ……」


 じわり、と涙が浮かんだ。

 アカデミー時代、ビアンカにはたくさん話を聞いてもらったっけ。


「──ふん、相変わらず泣き虫ね。辛気臭いったらありゃしない」


 最後に発言したのは気の強い赤髪の夫人だ。

 釣り目がちの彼女は青みがかった黒い瞳で私を睨みつける。


「エルザ……」

「さっさと座りなさい。あんたのせいでお茶が冷めるのよ」


 こそこそ、とマリーが私の耳元に囁いた。


「あんなこと言ってるけど、エルザ、ユフィが来るまで一番そわそわしてたんだよ」

「そうなの?」


 エルザが顔を椅子を蹴倒す勢いで立ち上がった。


「そこ! 余計なこと言ってんじゃないわよ!」

「エルザは相変わらずユフィが大好きだな」


 ビアンカが茶化すと、エルザの顔が瞬く間に沸騰した。


「はぁぁああああああああああああ? 全っっっ然、まったく、これっぽっちもそんなことないけど!? 大体、あんな手紙を寄こしておいて私たちに何のお詫びもないなんて、ユフィリア、あんた、釈明の用意はあるんでしょうね!?」


 手紙。

 その単語が出た途端、その場の空気がシンと静まり返った。

 穏やかな空気が一転、気まずげな目が私に向けられる。


「ねぇ、ユフィじゃないよね?」


 マリーが縋るような声音で言った。


「あんな手紙送ったの、ユフィじゃないよね?」

「……」


 あんな手紙。

 それは十年前、私が彼女たちと疎遠になったきっかけだ。


『あなた達のような程度の知れてる友人を持ったことは生涯の恥です。侯爵夫人としてあなた達と関わるような品位を下げる真似は出来ません。どんな誘いもしないでください』


 マリーは震える手で私の袖をつかんだ。


「わたし、すごくショックだった」

「……」

「ユフィが侯爵家に嫁いだ途端に変わってしまったんだって、周りの人は言ってたけど……でも、優しかったユフィがあんなこと手紙で書くはずないって。でも、ユフィが悪女だって噂が流れてきて、わたし、何が何だか分からなくなって……」

「私が言ったんだ。しばらく距離を置いたほうがいいと」


 ビアンカがマリーの肩に手を置いて私を見る。


「何が真実なのか見定めるには、本人に聞いた方がいいからな。けれども、君はわたくしたちが参加する茶会には絶対に来なかった……」

「あんたなんて絶交だと思ったわ。けれど、十年経ったら、今度はキャロライン夫人が悪者だって話が流れて来た」


 エルザが腕を組んで言う。


「言いなさいよ、ユフィリア。大方予想はつくけど、あんたの口から説明しないとあたしは納得しないから」

「……うん」

「ねぇユフィ。違うよね? あの手紙書いたの、ユフィじゃないよね?」

「……いいえ、私よ」


 私はショックを受けた親友たちの顔を見つめる。


「でも、本心で書いたんじゃないの」

「……え?」

「本当はずっと会いたかった。ずっと相談したかった」


 思わず唇をかみしめる。

 この十年、ルガール様に出逢うまでずっと孤独だった。

 自分で飛び込んだことだけど、それでも、怖くて心細くてたまらなかった。


「ねぇ、聞いてくれる?」

「もちろん」

「当たり前ですわ」

「さっさと座りなさいよ。相変わらずとろ臭いわね」

「エルザは相変わらず口が悪すぎ」


 私は椅子に座って息をつき、「実は……」と話を始めた。

 今から十年前、ロレンスに婚約を持ち掛けられた時から、今までのことを──



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