第71話 ヒサメとムツキ
俺は視界が瞬間的にブレ、気がつくとアリスクー聖国にいた。
「ここはアリスクー聖国…」
俺はそれを理解した瞬間に父さんを睨む。
「どうして転移を!まだ師匠がいたのに!」
父さんは下を向く。
「すまない。だが、どうしようもなかった」
すぐにアリスクー聖国を出る。俺は身体強化を全力で使い、走った。それは今まで一番速かった。休憩も最小限で。また幸運なことに魔物には出くわさなかった。その結果一週間と経たずに転移の遺跡までたどり着く。
「はぁはぁ。やっと着いた」
現地は悲惨な状態だった。魔物の死体がゴロゴロとしている。
「これ全部師匠が?俺が魔物に会わなかったのはこれのせいか」
「師匠!」
俺は呼吸が落ち着くのを待たずに叫ぶ。とても冷静ではいられなかった。だからだろう、正面からの気配にすら気が付けなかった。
「やあ、ヒサメ」
「ムツキ!どうしてここに!そういえば転移前にはいなかったな。どこかに隠れていたのか?」
するとムツキは少し困った顔をする。
「そうじゃないんだ。僕はザウスの方についたんだ。つまり、このままいけばヒサメとは敵対することになる。今はまだ君たちがザウスに楯突いているわけじゃないから、攻撃しないけどね」
俺は理解できなかった。ムツキが敵?
「どうして!」
「う~ん。ザウスが可哀想って思ってね。ザウスにつく方が正しいと考えたから」
「は?それに敵対しないなら、どうして師匠を」
「シズクさんはね、こうでもしないと倒せないから。しょうがないんだ」
笑って答えるムツキ。
「何を笑ってるんだ」
「え、あぁごめん」
俺はスキルで剣を作る。
「え、戦うの?今はまだ戦う必要ないよ」
「うるさい。どうせ敵だ。ムツキが、お前が言ったんだろ」
「そうだけども。僕は君に別れを告げるために残ったんであって戦うためじゃない。それにヒサメは僕に勝てないよ」
俺は静かに構える。
「はぁ。どうなっても知らないよ」
ムツキも剣を抜く。
次の瞬間、互いの剣がぶつかり合う。
「うぁ。流石、ヒサメだな。力も速さも技術も君が上だ」
俺は会話をすることなく剣を振るう。
だが、すぐに押され始める。
「ただ、相性が最悪だった。それだけの話で君は負ける」
俺は息が上がり、魔力も底をつき始める。
「ずっと走りっぱなしだったとは言え、おかしい。急に魔力が」
俺は力を振り絞り剣を振るう。それをムツキが受ける。すると、ついに剣の形を維持できなくなる。
「いきなり魔力が。何をした?」
「やっと話したと思ったら、僕の話は無視で質問かい?でも答えてあげよう。これは僕のスキル、吸収だ。僕は常に周囲の魔力を吸収している。だから魔術も使える。そして僕に近いと吸収量も増える。それに僕はある程度吸収するものを選択できる。今回はヒサメの剣から魔力を吸った。だから自身の魔力を剣にするヒサメと僕は相性が最悪なんだよ」
「そういうことか」
俺は腰からいつも使っていなかった剣、緋色を抜く。
「え、まだやるの?もうやめようよ。お互いケガもしてない。それで、いいじゃないか」
「うるせぇ。師匠を返せ」
俺は体力が尽き震える手で剣を振った。
「残念だね」
ムツキは俺の攻撃を弾き、剣を振った。それは俺の体を斬った。
「がはぁ!」
「師匠、せっかく逃がしてくれたのにごめんなさい」
俺はその場に倒れこむ。一週間走り続けて、体力が尽きていた時に魔力を吸い取る相手、勝ち目なんて到底なかった。




