第7話 全極拳と古流剣術
「今日から体術と剣術の修業を始めよか」
「はい。昨日までの体力作りはもういいですか?」
「かまんよ。どうせ体術と剣術の修行で勝手につくから。あれは元々この修業のために必要最低限の体力作りやから」
「たった三ヶ月でですか?」
「新人のスペックをなめたらあかんで。ヒサメはもうCランク冒険者くらいの身体能力はあると思うで」
「そんなに!」
驚いたが確かに修業を開始してすぐに師匠が出した課題が楽に感じた。まあ、楽になるとすぐに師匠は修行量を増やしたけどな。そのせいで修業はいつもハードモードだった。
ん?てか、待てよ?一般的に一人前と言われているCランク冒険者の身体能力でやっと必要最低限の修業ってこと?え、地獄じゃない?
「いうても、Cランク冒険者までは身体能力よりも薬草や魔物、ダンジョンなどの知識、後は人脈やら根気強さがあれば誰でもなれる。まあそれが難しいところやけど」
「つまりCランク冒険者まではそんなに身体能力は変わらない、と?」
「そういうことや」
「これからやる体術の流派は全極拳、剣術の流派は古流剣術という。どっちも武術の元ともいえる基本に忠実で努力が実を結ぶっていうやつやな。
じゃ、体術から始めよか」
俺は拳の握り方から殴り方などの基本的なことから学んだ。それを師匠との組み手を通して体に落とし込める。初めはゆっくりと、そして徐々に速くしていく。
「ええよ、ええよ。よう、ついてきてる。最後に身体強化使おか」
「は、はい」
既に目がついていっていなかったが身体強化により攻撃魔法を使うと完全に目が追いつかず師匠の拳が俺の腹に綺麗に入る。
「ぐふっ」
「あ、完全に決まったな。大丈夫か?」
「はぁ、はぁ大丈夫です」
「いい感じやな」
「想像よりも動けたんで驚きました」
「身体能力や頑丈さはかなり上がってるけど、やっぱり動体視力はまだまだやね。まあ、すぐに体に追いついてくるよ。日も暮れてくるし、今日はこれでおしまいな。明日は剣術やから」
「はい、ありがとうございました」
それから体術と剣術の修業を半年行った時である。
今日は剣術の修業であった。いつも剣術は木剣で行われる。
「今日こそ一本とって見せます」
「おう、やってみな」
俺が横なぎをするが師匠はそれをしゃがんで避け、そのまま俺の足を払われる。
俺は倒れてしまう前に手を地面につけて体勢を崩さない。
「ほう、耐えたか。でもまだまだや」
そこから師匠の連続攻撃が始まる。
くそ、よけきれない。攻撃が急所に当たらないようにするだけで精一杯だ。けど今日こそは一本とってみせる。最後の賭けだ。
師匠の攻撃が少し緩んだ時に無理やりに剣を振るった。
「そんな破れかぶれが当たる、何?」
師匠は完璧に避けた。しかし、その瞬間に俺は千変万化の腕のスキルで手に持つ木剣の剣先を伸ばす。すると師匠の頬をかすめた。
「当たった」
「それだけで気を抜きすぎや」
俺は喜んだ瞬間に師匠の剣が俺の鳩尾にはいる。
「おえ!」
そのまま俺は気を失った。
目が覚めると俺は師匠に膝枕されていた。
「師匠またですか?前にやめてくださいって言いましたよね?」
膝枕をされるのは初めてではない。俺が気を失った時に師匠はたまに膝枕をして俺をからかうのである。
「ええやん。ヒサメも嬉しいやろ?」
師匠はニヤニヤしながら俺に言う。正直に言うと師匠は美人であり嬉しいことは嬉しい。でも、初めてされた時に俺が驚いている時におかしそうに笑う師匠に腹が立ったために素直に喜びたくない。
「ゴホンッ!それはそれ、これはこれです」
「照れちゃって」
「そんなことより、俺は師匠に一撃当てましたよ」
「あれを一撃と言っていいかわからんけど、ヒサメの剣がうちをかすめたんは事実やな。あれはスキルかな?まあええ、合格や」
「え、合格?」
「うん、武術において既にヒサメはAランク相当におる」
「俺は師匠に一回も勝ててませんよ?
「でも、この前もCランク冒険者を3人相手に勝ったやろ?」
「それはそうですけど」
師匠は俺に色んなことを体験させるために対人戦だけでなく対魔物も行っている。それも一対一から多対一まで。
「それはそうですけど」
「全極拳も古流剣術も、何人相手でも対応できるようにする流派や。ヒサメは充分にできとる」
「はい、分かりました」
「合格記念にうちから剣を贈る。ヒサメは剣持ってなかったよな?」
「はい、持ってませんけど。スキルがあれば作れますが」
「スキル?そういえば、あんたのスキルってなんや?」
「え!?今更ですか?てっきりサンドラから聞いているのかと。さっきも使ったし」
「いや、今まではスキルの必要もなかったし」
「まあ説明しますよ。俺のスキルは千変万化の腕と言って―」
俺はいつものように石を使って説明した。
「なるほど。じゃあ、剣以外にもいるか」
「何か言いましたか」
「いや、何でもない。スキルがあっても一応剣も持っておいた方がええで。なんらかの理由でスキルが使えやんことがあるからな」
「師匠はスキルが使えなくなったことがあるんですか?」
「ないな。うちはあんまり戦闘向けのスキルじゃないからな。けど戦闘で使かうんやったら備えて損はないと思うで」
「師匠のスキルって?」
「うちのスキルは天眼や」
師匠の眼に丸い模様が浮かぶ。
「このスキルは相手の技の理が見える。相手の技を武術だろうが魔術だろうが脳内でトレースできる。まあ、それだけですぐに再現できるほど甘くないけどな」
「師匠のスキルは分析するスキルってことですか?」
「そういう認識でええよ」
「戦闘に使わないんですか?」
「全くの未知な攻撃とかには使うけど。そんなことできるやつなんかレア魔物かサンドラくらいや」
レア魔物にサンドラが並ぶとは、あいつ一体何したんだろうか?
けどまあ確かに炎玉が飛んで来たらそれは炎だ。武術の場合はもっと分かりやすいだろう。剣を振ったと理解できない攻撃なんて…師匠ならできそうだけど…普通はないだろう。
「まあ、あれこれ言ったけど、うちが師匠としてヒサメに剣をプレゼントしたいだけや」
「剣をくれるんですか?」
「うん、だから今から買いに行こか」
「ありがとうございます」
師匠の弟子として認められたような気がする。
俺たちは鍛冶屋に向かった。
「おう、いらっしゃい」
そこに店主が出てきた。若い男の人だった。
「あれ、あんたたちは今話題の子弟コンビじゃねーかよ」
「話題?」
俺は気になって質問した。
「特別強い魔物もダンジョンも近くにないこの街でSランク冒険者、しかも鬼の二つ名を持つシズクさんが弟子を取ったってな。しかも弟子がみるみるうちに強くなったと聞いている」
「いや、そんな」
「そうなんよ、ヒサメはすごいやろ?」
俺が否定しようとするが、まさかの師匠が全肯定である。
「いい師匠だね~。で、今日はどういった用だい?」
「この子に剣をプレゼントしたくてね」
「剣ですかい?じゃあ、こっちのスペースだ」
「う~ん、どれがいいですかね、師匠?」
「そうやな…」
師匠は一本一本剣を手にとって手にとって確かめる。
「なんかどれも今一つやな」
「し、師匠、店主の前ですよ」
「ししし、別にいいぜー。でも、鬼はどのような剣をご所望で?」
「これくらいの剣はないんか?」
師匠はそう言うと腰にある自身の剣を差し出した。
「こ、これは…」
店主が絶句する。見たところ店に並んでる剣と対して変わらないように感じる。むしろ、握る部分は金属部分にただ革を巻いただけで安っぽく見える。
「この剣は凄いんですか?」
「この剣はしなやかで硬く、魔力浸透も良い。アダマンタイトやミスリル、その他多くの金属を混ぜたような金属で出来ている。とてもうちの店、いや今の時代で出せるものではない」
そんなに凄い剣だったのか。師匠はどうやってこれを手に入れたのだろうか?
「そんなに凄いやつやったんや。手入れせんでも錆も刃こぼれもしやんから便利!くらいにしか思ってなかったわ」
「鬼はこれをどこで手にいれたんだ?」
「知り合いから頼まれた遺跡調査で見つけたねん。その時ちょうど剣が折れてたからもらっといた」
「絶対にそれ、古代遺跡じゃないか。それを簡単に調査するとはな」
「簡単じゃなかったよ。言うたやん、剣が折れたって」
「それだけなら簡単の範疇だよ。まあいい。で、このレベルの剣はないが、それなりの奴ならある。ちょっと待ってな、出してくる」
そうして店主が奥のほうから持って来たのは、綺麗な赤い剣だった。
「名は緋色。別に特別な剣ではないがそれなりの名匠が打った剣だ。悪いが、この街にこれ以上のもんはない」
師匠はそれを受け取るとじっくり確かめる。
「うん、いいと思うで。ヒサメは?」
「店主や師匠が言うなら間違いないでしょう」
そうして俺の剣が決まった。余談だが剣はムッチャ高かった。日本円で約1億円だ。これを一括で出せる師匠はどれだけのお金をもっているのだろうか?
俺はそれを少し引きながら受け取った。だが、嬉しいこともまた事実であった。
師匠は店主のもとから帰ってきた。
「ずいぶん長かったですね、額が額だけに」
「それもあるけど、他にあったからね」
「他?」
「そのうち分かるよ。あと、明日からちょっとだけスキルと新しい剣の練習ね」
「はい分かりました」
剣の値段は少し引いたけど、師匠からもらったこの剣は大切にしていきたいと思う。
明日からも頑張ろう!
終わり方迷走した。




