第70話 武田雫
滑り込み2024年投稿。
そこらから気配を感じる。もうすぐそこだ。うちは剣を構えた。その時、魔物が襲いかかってくる。うちはそれを一振りで絶命させる。それを皮切りに魔物がドンドン現れる。うちは斬る、殴る、蹴るで撃退していく。相手は多い。無駄な体力は使えない。けど、傷は少しずつ増えていく。
「かすり傷は別にいい。下手に避けてたら体力を失う。致命傷は避けろ」
戦い続けること数時間、倒した魔物は何匹やろうか?千はいったか?いや、数えても仕方ない。目の前のことに集中しろ。
魔物の残骸が邪魔になるから、場所を移動しながら戦う。
「だめや。こんだけ倒したのに、まだ包囲されとる。アカリは一体どれだけの魔物を従えとるんや」
うちはひたすらに戦った。疲労がたまってきた。動きに無駄が出る。攻撃を受けてしまう。体力がつきかける。いつまでも続くんやろか?
心が折れそうになるとき、思い出す。ヒサメのことを。孤独でも一生懸命に生きていた氷雨。こっちきてから悩み、苦しみながら精一杯生きている。弟子になってくれて嬉しかったなぁ。楽しかったなぁ。あぁ、もうちょっとがんばろうかな。
それと同時に思い出す。うちの過去のことを…。
うちは名家の武田家に生まれた。姉は武田零、父は武田雷斗、母は武田静希。母は私うちが生まれた時に病で亡くなった。名家ではあり子供の頃から厳しく教育を受けていた。特に父は気難しい性格だった。でも不器用ながら優しい人だった。姉は幼い私を可愛がってくれた。母はいなかったが恵まれた生活を送っていた。
そんな時に事件は起きた。うちが小学生六年生で家族で外に出ていた時に、暗闇からナイフを持った狂人が襲ってきた。うちは怖くて悲鳴もでやんかった。父が腕を斬られて、苦痛の声をあげる。そんな時に現れたのが、春風良治、義兄さんやった。うちは物陰に隠れて、それを見ていた。義兄さんは何度も斬られながら倒れることなく、家族を守ってくれた。騒ぎを聞きつけた警官が来てくれたおけげで何とかなった。しかし、犯人は逃げていった。
これが武田家を狙ったものなのかは分からへんけど、念のためにとうちは母親の家である和歌山県にある山本家に引っ越した。そこで家族である父と姉とはなれ心細い生活を送ることになった。それに母親の両親である山本家の人はうちのことが好きやなかったみたいで、厳しく接された。優秀な母親と引き換えに産まれ、最近殺されかけた私を疫病神とでも思ったんやろか。
でも、うちは頑張った。すぐに中学受験でベンチ学園に合格した。関西弁にも慣れた頃には祖父母とも仲良くできるようになった。また姉さんが助けてくれた人と結婚して子供もできたって聞き、再会もした。そんな中やった。うちは夜道を歩いてたら誰かに後ろから刺されて死んでしまった。結局、殺される運命からは逃れられやんかった。
頑張って積み上げてきたものを失い、家族にも二度と会えなくなった。そんな中での異世界転生、うちは最初なんのやる気もなかった。けれども転生先のバルコの爺さんに会って、良治義兄さんに会って、氷雨に会って。楽しかった。
「楽しかってん!」
うちは力を振り絞り魔物を倒しきった。
「はぁ、はぁ。全部倒した」
するとうちの目の前から人が現れる。
「この数の魔物を全て倒すとは、流石シズクね。やはり、あなたが最大の難問だった。だから悪いんだけど最初に奇襲で倒させてもらうことにしたの。サンドラが転移で飛べる人数もわかってたしね」
「アカリ~」
うちが斬りかかろうとする。
「させるかよ」
それをハデスが防ぐ。
「おいおい、まだこんなに力残ってるのかよ。ちょっと強すぎやしない?」
「あんたら二人で勝てると思ってるんか」
「そうね。だったら神様でも呼ぼうかしら」
アカリがそういうと、一人の男性が現れる。
「初めまして僕はザウス。皆は武神ザウスという」
勝てない。すぐにそう思う程のオーラだ。でも勝たなきゃいけない。
「うちは武田雫。可愛い弟子のためにも、あんたを殺す」
そして剣を振るう。でもザウスはよける。
「流石に強い。僕が見た中でも一番かな。イシューラすらも超えている。魔法がそろえばパテックすらも超えうる」
うちは剣を振るうも、気がついてしまう。魔力がもうないことを。
「既にいくつか致命傷がある。それでも動けていたのは君の並外れた気合と生命力、それに身体強化の魔術のおかげだ。魔力がない君は怖くない」
「魔力がないぐらいどおってことない」
うちは虚勢を張る。せめて一太刀は。
しかし、現実は残酷や。そこからは一方的やった。
「これで終わりだ」
ザウスはうちの腹に深々と剣を突き刺した。
「ゴフッ!。置き土産や、もらっとき」
その瞬間うちは最後の魔力を振り絞ってザウスにカウンターの一撃を仕掛ける。それはザウスの脇腹を刺した。
「グフッ。パテックと同じところを。最後にここまで動くとはな。しかし、致命傷には届かない」
振り切った剣を、そのまま離してしまう。もう体中に力が入れへん。うちは電池が切れたかのように大の字に倒れる。
「よくやった。あれだけの魔物を相手にし、僕に一太刀。見事だった。そして勝手にこちらの世界に連れてきてしまってすまなかった」
あかん暗い。なんも聞こえへん。寒い。あぁまた死ぬんか。そうしてうちは完全に意識を失った。
今章は閑話抜きで登場人物紹介で終わりです。2024年もありがとうございました。




