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厄災の子 ~運命に負けて異世界に行く~  作者: 香川寿太郎
第一章 始まりの街 ビギン
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第6話 シズク

俺は朝食を食べていると、サンドラがやって来た。

「おう、サンドラ戻ってきてたんだ」

「すまないがヒサメ、それ食ったらギルドに行くぞ」

俺は手早く朝食をすませて急いでギルドに向かった。


「ようやく来たか。うちを待たせるとはいい度胸やな、サンドラ」

そう関西弁で言ってきたのは、剣を腰に(たずさ)えた、黒髪ロングを毛先で束ねた美しい女性だった。


「いや、シズクが早いだけだ。まだ約束の時間まで15分くらいあるぞ」


「知るか、そんなもん。うちに弟子ができるから楽しみにしとったねん。で、あんたがヒサメやな。サンドラから話は聞いてるで」


「さっきとはえらい変わりようだな」

ボソッとサンドラが(つぶや)くとシズクがサンドラを(にら)む。

「なんか言ったか?」

「いいえ、何も」


俺はサンドラに助けるべく自己紹介する。

「俺は春風氷雨です。よろしくお願いします」

「サンドラと違って礼儀正しいな。うちは武田雫(たけだしずく)、これからよろしくな」


「一言多い。はぁ~、ヒサメ、こいつはシズク。俺たちと同じ異世界人だ。お前の師匠になる。見ての通りの性格だが武術においては天才だ」


「はい、よろしくお願いします」

サンドラの言うとおり押しの強い人だな。

ところで、武田雫ってどこかで聞いたことがあるような。


「ちなみにSランク冒険者だ」

ああ~、そういえばギルドの居酒屋でSランク冒険者についての噂話にシズクって誰かが言ってたな。

確か二つ名が「鬼」だったような。


話によると、どうやらシズクはサンドラと同じくらいにこの世界に来たらしい。

「さ、時間も勿体(もったい)ないから行こか、ヒサメ」

「は、はい」

「ヒサメ、俺は少しやることがある」

「やること?」

「シズクに仕事を押し付けられてな」

「押しつけてへんわ。いつまでもAランクな可哀想なサンドラ君にSランク冒険者になれる機会を与えただけやんか」

「俺は別にランクとか興味ない」

「かぁ~男の子がそれでどないすんねん」

「はぁ~、とりあえず行って来るから。後は頼んだぞ」

「おう、任せとき。ヒサメをうち(ごの)みの男に育てたる」

「余計なことはするな。ヒサメ頑張れよ」

「おう、サンドラそっちもな。後、師匠を見つけてくれてありがとう」

サンドラはニコッと笑って答える。

「いいってことよ」

サンドラはそのまま出かけて行った。





サンドラを見送った後、俺たちは訓練場に向かった。

「始めよか。サンドラにはB,Aランクぐらいに鍛えてくれって言われてるからな。まあ、まずは体つくりからやな。ということやから走るで~」


そう言われて俺は走った。それはもう走った。あれ?俺ってメ〇スだっけ?

「はぁ、はぁ、シズクさん、どれだけ走るんですか?」

「なんや?もうばてたんか?まだ5時間しか走ってへんやろ?」

「もう、5時間ですよ」

ちなみに俺は途中から身体強化を使って走っているのに、なんの魔法も使っていないシズクさんに2周に1回は抜かされている。


「まあ、今日はもう終わるか。初日やからやさしめでいこか」

俺は大の字に寝っ転がりながら息を整える。これで優しいとは、流石は鬼だ。

「明日からはこれに加えて筋トレも追加するで」

「分かりました」

「あ、あとうちのことは師匠って呼んでや」

「分かりました、師匠」





それから三か月が過ぎた。その間、ずっと筋トレをして、たまに冒険者の依頼を受けて夜には勉強をする、という充実した日々を過ごした。

「今日はこれで終了、お疲れさん。だいぶ余裕出てきたんちゃう?」

「はい、師匠」

しかし、充実した日々だというのに俺の心はどこか晴れない。

「なあヒサメ、なんか悩みでもあるんか?」

突然の質問に思わず固まる。

「どうしてそう思うんですか?」

「なんとなくや。いつも一緒におるからな。で、なんかあるんか?」

再度、師匠は優しく問う。

「師匠はなんで…俺を、俺なんかを育ててくれるんですか」


「どうしてって言われても」

師匠はくびを(かし)げる。


「この世界に来てサンドラに拾われて、師匠に育てられて、しんどいことも多いけど、そんなことどうでもいいくらいに毎日が満たされていて…師匠もサンドラもこの街の冒険者たちも俺が困っていると助けてくれた」

頭の中がぐちゃぐちゃで思うように言葉が出てこない。


「逆にヒサメは誰かが困ってても助けへんのか?」

「それは…」

「助けるんやろ?」

「けど俺は前世では…」

「そんなことされたことされなかったか?」

「…」

俺は言葉に詰まる。


「要領を得やんんけどな、ええかヒサメ、前世で何があったか知らんし、聞く気もない。うちらにとってはそんなの面倒の種でしかない。まあ、切れやん繋がりっていうのは当然あるんやけどな。

世界が変わっても人が人を助けるのは案外普通のことなんかも知れん。もちろん全員がそうではないけどな。目の前の人が困ってたら助ける。それが人情ってもんや。

だからな、人に優しくされても困らずに、感謝して恩を忘れずに、いつか返せばいい」


「困る…」

「ヒサメは困っているように見えたで。突然優しくされてどう反応していいか分からない~みたいにな」

「かも、知れませんね」


「それにな、偉そうなこと言っといて、うちがそれに気づいたのはこの世界に来てからやねん。転生した時にバルコって爺さんに拾われてこの世界で生きていく(すべ)を教わった。サンドラにも世話になった。それまでは悲劇のヒロインを気取って誰にも心を開かず、愛想笑いで取り(つくろ)ってきた」


「師匠が!?」


「そんな風に見えへんやろ?人は変われるんや。あんたの心の持ちようで、ヒサメが世界をどう見るかでな。他人は決して敵じゃない。むしろ味方になる」


俺はその言葉が頭に酷く残った。世界をどう見ているか。確かに俺は前世じゃ全員が敵だと思ってきた。もしかしたら、俺にも救いの手を差し伸べてくれた人がいたのかもしれない。俺が認識していなかっただけで。


「それにサンドラも転生先がかなりの山奥で、ドライアドに拾われて魔術と名前を授けてもらったらしいからな」


「サンドラも」

「そうや、だからヒサメも上向いて行こや」

「はい、ありがとうございます」

「そうそう、それでええ。ほんなら明日からはお待ちかねの体術の修行を始めよか」



俺は師匠のようにバッサリと前世の因縁(いんねん)を断ち切り、考え方を変えてポジティブになることはできない。しかし、これからは人を信じて上を向いていこう。下ばかり見て差し伸べられた手に気付かないことがないように。

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