第46話 神界大戦前
イシューラ目線
約1万年程前のことである。
古人と森の民は古くから仲がよく、私とクリスそしてパテックという古人の三人は幼い頃から交流があった。今日は古人の長であるガーゼルの話を聞く日であった。
「私たち古人は武神ザウス様によって作られた種族だ。そして、使命を与えられておる数少ない種族じゃ」
「使命…ですか?」
パテックが答えた。
「そうじゃ。その使命とは神々が過ちを犯した時に言葉と武力で止めるのじゃ」
「神が過ちを犯すはずがないではないか」
幼い私は神を盲目的に信じてしまっていた。
「そう思うのももっともだ。しかし神が増えた今、それでは神が暴走してしまう。そう思った創造神ガウス様が天使を、武神ザウス様が古人をそれぞれお作りになった」
「天使ですか?前にも聞きましたね」
「そうだな。天使もまた使命を与えられておる種族であり、その使命とは人類を見守り教え導くことじゃ」
「天使が人類に対して、古人が神に対して、というわけですか。しかし、天使の教え・導くとは、まるで神様のお役目のように聞こえますね」
「パテックは聡い子だのう。創造神ガウスは神の統治から人の統治に切り替えようとしている」
「それはどうしてだ?」
俺はガウス様の考えが理解できなかった。
「さてな。神のことじゃ。我々にはあずかり知らぬことじゃよ」
ガーゼルは一呼吸置くとまた話し出す。
「さて、我々は神を止めるための力が必要だ。だから天使と比べて全体数こそ少ないが我々は膨大な魔力を持ち、その時代の長つまり今の私は強力な魔法を与えられた」
俺はその話を聞いた時はもっと神を支えられるように、その魔法が欲しくなり長になろうと思った。今、思えば、魔法は神を止めるためであって支えるためのものではない。そんな簡単なことにも気付かなかった。
俺たちは日々訓練や勉強をしていた。そんなある日、クリスが強力な魔物がいるという噂を聞きつけ私たち三人は退治するために、魔物の元に向かった。しかし、そこにいたのは魔物の上に青年が乗っているという不思議な光景だった。
「なんだ、お前ら?俺に喧嘩でも売りに来たか?」
それが一人のヒト族であるステレンとの出会いであった。
ステレンは、その魔物が気にいったのかラードーンという名前をつけて飼いならしていた。
「私たちはその魔物を退治するためにやって来た者だ」
パテックが答える。
「そうか。でもこいつは俺が手に入れたもんだ。倒すのは諦めてくれ」
どうするべきか迷った俺たちはステレンと魔物を俺たちの里に連れて行った。
「へ~、こんなところに里があったとはな。知らなかったぜ」
「それも、そのはずだ。ここには霧がかかっているからな」
「霧もそうだが、お前さんは見たことないな」
「見た目の話か?私はドライアドだからな。そういえば自己紹介がまだだったな。私はクリスだ。そして、こっちがパテックにイシューラだ」
「俺はステレンってんだ。よろしくな」
俺たちはイシューラのことをガーゼルに話した。
「ふむ。これほどの魔物は滅多に見ないの。それに完全におぬしに服従しておるように見える。面白い、少しついて来い」
ガーゼルは俺たちを大樹に連れてきた。ガーゼルは大樹の実を一つとると、それをステレンに投げる。
「それを魔物に食わせてやるといい」
実を魔物が食べると驚くべきことが起きた。
「これは…なるほど。わが主よ、名前を与えていただきありがとうございます」
なんと魔物が話し出したではないか。
「この大樹は神樹と言ってな、様々な効果の実がなる。これは、そのうちの一つの知恵の実だ。魔物にやると知恵が得られ、ヒトの言葉を話すだけでなく理性も得られる」
「ふむ、よかろう。これを生かしといてやろう。その代わりしっかりと面倒を見るのじゃよ」
そう言ってガーゼルは去っていった。
それからはステレンも加わって四人で行動することが増えた。よく学び、よく休み、しっかりと働いた。そんな平和な時間が過ぎていった。しかし、そこに世界を混乱に落とし込む情報が入ったのだ。
ガーゼルは突然、古人の皆を呼び出した。クリスやステレン、ラードーンの他にも私たちと関わりの深い森の民がいた。
「さっき天使の使者から情報が入った。武神ザウス様が…神界を追放された」
「え!?」
私は頭が真っ白になった。俺だけでなく皆も驚いていた。
「神界を追放され、創造神ガウス様から邪神の判定がなされた。ヒト族にも広く伝わってるお方だ。そのままでは大混乱を及ぼすという判断のため、武神ザウス様のことはこれから邪神ザリウスと呼ぶ。また我らの使命を全うするべく邪神ザリウスを…討伐する」
「待ってください!話がいきなり過ぎる。どうして追放されたのですか」
私は声を荒げる。
「そこまでは分からぬ。しかし、この世界の害となる前に排除する。これは決定事項じゃ」
ガーゼルの目には長としての強い信念があった。
「しかし…」
私は納得はできなかった。解散した後にパテックたちと話し合った。
「俺は納得がいかない」
「イシューラ…」
クリスが呟く。
「私は長に従う。それこそが古人としてあるべき姿だ」
「でも現状では何も分かっていないではないか!」
「それでも、このままだと世界は大混乱に陥る」
「俺は細かいことはよくわからねぇが、邪神ってならそいつを倒すよ」
「私は主に従う」
ステレンもイシューラもパテックについた。
「クリスは?」
「私は…。ごめんなさい。やっぱり邪神は良くない。それに、話し合いが出来たらそれでいいと思うんだ」
クリスもか…。
その日の夜、私は里内を歩いていると後ろから呼び止める。
「イシューラ、どこに行く?」
「パテック…。ただの散歩だよ」
「そんな格好でか?」
私は旅支度をした格好だった。
「俺はやはり納得がいかない。ザウス様に会いに行く。クリスも話し合いが出来たらと言っていただろう?」
「それは騒動を治めてからだ。今じゃない。先にザリウスを捕らえる」
それを聞いた俺は何かが弾けた。
「ザリウス?…そうか、お前はザウス様を裏切るのか」
私は静かに剣を抜く。
「おい!よせ!」
奴は剣をもっていなかったが、互いに切磋琢磨した奴だ。魔術を使って防ぐ。互いの実力は拮抗している。そうなれば装備の差で私が勝つ。俺はやつを斬り捨てる。
「ぐふっ。ま…て…」
俺は神樹の元に向かいいくつかの実を奪い里を出た。




