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第43話 怪物の解放

怪物イシューラとの決戦の日。戦えない人たちは事前に避難している。ここに集まった者は全員が戦う者であり、長寿の種族(ゆえ)に高水準のレベルだ。しかし、その顔には緊張が見える。それほどまでに伝え聞く怪物を恐れている。たった一人に対して百人近くいるにもかかわらず。


皆の顔色を見ていた神樹様が声をかける。

「聞け!確かにイシューラは強い。しかし、相手は既に1万年前の戦いで疲弊(ひへい)している。その上こっちには百人近くの精鋭だ!(おく)することはない。絶対に勝てる!生き残ってみせろ!」


上に立つ者は人をやる気にさせる演説が上手い。森の民の人たちもやる気十分のようだ。

「それでは皆持ち場につけ!」


俺は持ち場に着くと近くにネヴィーがいた。少し離れた所にチヒロにブルーがいた。恐らく俺たちのことを配慮してくれたのだろう。

「よろしくネヴィー」

「こちらこそ」

挨拶を済ませると、お互い集中するように黙り込んだ。


後方には神樹様とサンドラがいる。

「では、そろそろ始めるか!」

「…」

「なんだ?緊張しているのか?サンドラ」

「少しな」

「まぁ。お前くらいになると格上に挑むことはあまりないだろうからな。いい経験だと思っておけ」


神樹様はサンドラとの雑談を終えると、大声で叫ぶ。

「今から封印を解く。準備はいいな」

「「「「「「「「おおぉーーーー」」」」」」」」

それに皆が応える。


「秘術・杖創造」

すると、肌で感じるくらいに神樹様の存在感が上がる。

「いきなりかよ」

隣でサンドラが(つぶや)く。


「サンドラとは違い、時間制限はないからな。それに解けかけとはいえ、神樹の実の力だ。それなりの力が必要なんだよ。さて、やるか」

神樹様が杖を世界樹に向ける。すると、世界樹を別の木々が包み圧迫していく。

「封印解除」

すると、世界樹の方に人の気配が現れる。


「放てー!」

神樹様の言葉とともに弓矢が放たれる。すぐ後に魔術が放たれた。森の民の魔術部隊にサンドラ、神樹様が各々全力で攻撃している。それにより、砂ぼこりが舞う。


普通の相手ならこれで決着が着いている。しかし、気配は世界樹の所から動いていない。

「死んではいないが、奇襲(きしゅう)は成功か?」


次第に砂ぼこりが収まる。そこに姿を現したのは服はズタボロになり、身体じゅうに傷を負っている男の姿だった。腰には一本の剣があるだけのシンプルな格好だ。

「封印が解かれたと思ったら、随分(ずいぶん)な歓迎だな」

しかし、致命傷を負っている様子はない。


追撃の弓矢が四方八方からイシューラを襲う。イシューラは少し動くが避けきれるはずもなく矢が当たる。しかし、ほとんどの矢が刺さらず、刺さった数本も浅く薄皮で止まっているようだ。

「どういうことだ。矢が…」

一人のドライアドが困惑する。


その間もイシューラが辺りを見回す。

「なるほど。神樹の実で封印されていたのか。そして封印が解けたと同時に奇襲か。ここは、エルフとドライアドの地ってことか。ヒト族も何人かいる。それにこれは…」


次に魔術部隊の攻撃だ。それを見たイシューラは剣を抜き、いくつかの魔術だけを斬る。後は先ほどの矢のようにほとんどの効いていない。

「それなりの威力の魔術を放つ奴がいると思ったら、お前か。不死身のクリス!」


クリスって確か、神樹様の名前だったよな。前に攻め込んできた時に会っているんだったか。


「久しいな、イシューラ。既にお前が(つか)えていた邪神はもう封印されている。大人しく引き下がるなら昔のよしみで命はとらないでやろう」


神樹様の言葉を聞いたイシューラは激昂(げきこう)した。

「ザリウス様を邪神呼ばわりするな!あの方は人類のことを第一に考えていた。それを邪神呼ばわりしたのは創造神ではないか!」


「それでも結果的に人類を滅ぼそうとしただろう!」


「何を勝手な…優しかったあの方を(おとし)めたくせに。ふざけるなよ!」

イシューラの威圧感が増す。


「無理をするな。見たら分かるだろう。お前は囲まれておる。それに先の戦いで万全ではないだろう」


「うるさい!ザリウス様は封印されているのだろう?では私がそれを解く」

「それを許すと思うか?」

「なら、ここで死ね!」


俺には二人の会話がほとんど理解できなかった。一万年前の戦いには理由があったのだろうか。だが、今こいつを抑えないと仲間が死んでしまうことは分かる。それだけで俺は戦う理由になる。


俺はいつものようにスキルで剣を作る。すると、神樹様の方を向いていたイシューラが俺の方を向く。

「お前もザリウス様を裏切るのかー!」


イシューラは俺の方に突進(とっしん)してくる。前には前衛がいたが、お構いなしだ。吹き飛ばしながら進む。俺の前に来ると剣を振りあげる。俺は剣で受ける。

「重い!」

しかし、相手の力が想定以上だった。受けきれず俺は胴体を斜めに斬られた。


「ヒサメくん!」

チヒロの大声が飛んだ。

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