第39話 チヒロの思い
ヒサメ目線に戻ります
俺は朝早くに目を覚ました。隣にはサンドラやマルコが寝ている。
「ふあぁ~」
欠伸をしながら朝日を浴びるために外に出る。
「いい朝だな~。本当に化け物が現れるんだろうか?」
「はっ!せい!」
すると、近くから声が聞こえてきた。俺はその声の主の元まで向かう。
「チヒロ、朝から修業か?」
「あ、ヒサメ君。おはよう。修業というか日課かな」
「日課?」
「うん、型を繰り返すだけなんだけどね」
チヒロは中国で体術を習ったって言ってたな。
「中国ではどんなことしたんだ?」
「う~ん、やっぱり初めは身体づくりだったよ。基礎中の基礎だしね」
「あ~俺もこの世界に来てからしたな~」
「あれでもしんどいのに本格的に修業が始まると更にきついよね」
「そうそう、師匠が鬼に見えてくるよね?」
「師匠さんってどんな人なの?」
チヒロの声が少し低くなった気がする。
「え、う~ん。性格は神樹様に似ているかな?」
「そうなの?」
「うん、強くて優しくてカッコイイ人だよ」
「いい師匠さんなんだね」
「ああ。チヒロの師匠はどんな人なんだ」
「私の師匠?」
少し考える素振りをした後に答える。
「私が逃げることを決して許してくれなくて、常に背中を押してくれる人だったよ」
「なかなか厳しい人だね」
「厳しかったよ。でも私は師匠との出会いを本当に感謝しているんだよ」
「どうゆうふうに出会ったの?」
「私が師匠と出会ったのは中国に行ったすぐの時でね」
中国に着いても私の気持ちは晴れることはなかった。いじめられたこともそうだが、何よりも私のせいで春風君が退学になってしまった。そしてすぐに引っ越してしまったので、その後どうなったのかは知らない。新しい土地に早く慣れようと歩いていた時だった、気がつくと人気のない場所に来てしまった。
「あれ?ここどこだろう?」
私は来た道を戻ろうとするが、ぼんやりと歩いていたのと道が入り組んでいるため分からなくなってしまった。すると、男の人の声が聞こえる。
『おい、嬢ちゃん。こんなところに一人でどうした?』
私はパニックになり中国語を理解することが出来なかった。
『ん?分からないのか?』
そのいかつい顔に私は身がすくんでしまう。そんな時だった。
『どうした?リー』
『姉御、実は迷子の娘がいまして。言葉が通じないんです。それにおびえられて』
『お前は顔が怖いからな』
女の人が男の人と笑いながら近づいて来た。
「嬢ちゃん、日本人か?」
拙いが、それは日本語だった。
「ええっと、道に迷って」
「そうか、じゃあ道案内しよう」
私はその人に連れられて大きな通りに出た。
「ありがとうございます」
「おうよ」
女の人は少し考えた後に口を開いた。
「嬢ちゃん、何か悩みがあるのかい?」
「どうして分かったんですか」
「そんな眼をしてたら誰でもわかるよ」
何故か信頼出来ると感じた私は女の人に一連のことを伝えた。
「なるほどな。いじめか。んで、嬢ちゃんはどうしたい?」
「どう?」
「その奴らに復讐したいのかい?」
「復讐とかは…。私はただ…風君に謝りたい。けど!こんな私が春風君に会ったら、また迷惑がかかっちゃう」
「お前がいじめられたには、その春風という男を守れなかったのはお前が弱かったからだ」
「私が弱い?」
「ああ、嬢ちゃんが生きている世界がどうかは知らないがな、私の世界では弱い奴からやられるんだよ」
女の人の眼は真っ直ぐに私を見つめる。
「お前が強かったらいじめられねぇし、その春風ってやつを守れる」
「私が春風君を守れる?…私は強くなりたい」
「じゃあ私のところに来な。強くしてやろう。」
「これが私と師匠との出会い。後で知ったんだけどね。師匠はその辺りを仕切っているドンだったんだ」
チヒロが強くなった理由は俺を守るためか。
「どうしたの?」
「チヒロは俺と似てるな」
「え!き、急にどうしての?」
「俺は父さんをなくした。俺に守る力がなかったから…。だから、この世界に来た時に強くなりたいと思った。大切な人を守るために」
「ヒサメ君…」
「まぁ皆俺よりも強いんだけどね。…だから俺を守ろうとしてくれるのは嬉れしいけど、俺を無理に守ろうとしなくても」
「無理なんかしてないよ」
チヒロの眼は強い信念を持っていた。
チヒロはこの理由だけで何年も努力してきたんだ。それを否定するのは努力を否定することになる。それに俺も本人に言ったら師匠もサンドラも俺に守る必要はないと言うだろう。でも、俺は諦めないだろうな。
「分かった。でも、これからは仲間として俺もチヒロを守るよ」
「うん!ありがとう」
気がつくと既に朝日登っている。
「そろそろ戻るか」
「待って、今更だけど、あの時、いじめから助けてくれて、魔物から助けてくれて、仲間にしてくれてありがとう。ヒサメ君のおかげで今の私があるの。本当にありがとうね」
俺は誰も助けられなかった、無力だと思っていた。そうか…俺は…チヒロを守れていたのか。
「俺こそありがとう」
俺たちは宿に戻った。
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