第35話 サンドラの足跡~他の異世界人~
俺はシズクに連れられてアウフという街にやって来た。依頼報告のために少しギルドに寄った後に、他の異世界人が借りているという家に向かった。家はそれなりの大きさだった。
「お~い、戻ったで」
シズクが玄関で叫ぶ。
すると、白い肌にピンク髪の女性が降りてきた。
「あら、思っていたより早かったわね。そこの人はサンドラさんかしら?」
「うん、そうやで」
「ということは、やっぱり」
「うん。サンドラも異世界人、新人やった」
「これで五人目ね。いいわ、上がってちょうだい」
そうして俺は一室に連れられた。その部屋は様々な資料で埋め尽くされていた。
「まずは紹介からね。私は小山灯莉。そして、こっちが私の従者よ」
そうして向けられた方向をよく見ると、白髪の男が一人立っていた。
「どうも、ハデスって言います」
ハデスは影の薄い男だった。
「俺はサンドラという。よろしく頼む」
「じゃあ、調査報告といこか。まず、手に入ったのは、この剣と魔術書や」
机の上に置かれた二つのものをアカリはじっくりと見る。
「この剣は調べないと何も分からないわ。そして、この魔術書は古代文字。さっぱりね」
「そう言うと思って翻訳機を連れてきたで!」
「翻訳機?」
「ああ、このサンドラは古代文字が分かるんや!」
「それは凄いけど、古代文字なんてどこで覚えたの?もう滅んだ文字よ?」
「少し、森の民の里に詳しい奴がいてね」
「へ~、森の民の里ね」
その時、アカリが微笑む。
「それじゃあサンドラさんには解読をしてもらいましょう」
「分かった。後、サンドラでいいぞ」
それから俺は数ヶ月の間、その本の解読を手伝っていた。俺はその間に魔術書に載っている魔術を習得しようとした。しかし、どの魔術も説明があやふやな上に難易度が高い。
「異空庫…物を異次元空間に保管する魔術。異次元空間ってどこだよ?転移…人や物を別の場に瞬間的に移動させる。これなら、まだ分かるか。異次元転移…人や物を別の次元に移動させる。また出たよ、異次元。召喚…人や物を自らの場所に呼び出す。どれもこれもよく分からない魔術だな」
「そうね~。こっちの結界っていう魔術も種類が多すぎるわ~」
結界:空間を区切る魔術
「剣の方はどうだ?」
「これは…そうね~。これといったものはないわ。シズクにあげちゃったわ」
「そうだな。あいつは剣を失ったからな」
余談だが、この間にシズクは盗賊狩りの依頼を行い、Sランク冒険者となり「鬼」の二つ名をもらっていた。
俺は魔術の研究を続けるうちに転移だけできるようになった。しかし、俺が未熟なだけなのかもしれないが、この魔術は欠点が多すぎる。まずは転移できる人数に限りがある。何回か試したが三人が限界だった。
次に消費魔力量だ。スキル『全魔力的能力向上』があるにもかかわらず、俺の全魔力量の8~9割を消費してしまう。スキルで魔力回復速度も早いはずだが、この魔術は魔力回路に負担をかけるからか知らないが、魔力回復速度が落ちるために、一日に一回しか使えない。最後に術発動までに時間がかかるために、戦闘では使いずらい。それでも、かなり便利な魔術であることには違いない。
俺は研究がひと段落したところで、冒険者ギルドにて依頼を受けることにした。依頼を探していると、ギルド職員が声をかけてきた。
「すいません。あなたはBランク冒険者でしたよね?」
「そうだが…」
「こちらの依頼を受けていただけませんか?」
依頼の内容を確認すると、救助の依頼だった。場所はこの街から少し離れた森で、魔物のレベルもまぁまぁ高い。しかし、救助か。
「分かった引き受けよう」
俺は準備をしてから依頼場所に向かった。着いてから、しばらくしらみつぶしに探したが救助者は見つからない。たまに他の冒険者とすれ違う時に聞いてみるもいい答えは見つからない。そのなかで一人、反応があった男がいた。
「救助?大変だ!僕も手伝うよ」
「いや、これは俺の依頼だし、情報をくれればそれでいいんだが」
「いや、手伝うよ。僕の名前はムツキっていうんだ」
「そうか、感謝する。俺はサンドラだ」
俺たちは二手に分かれて行動した。すると、ムツキが何かを見つけたようだ。
「サンドラ。これを見てくれ」
「これは…亜竜の角でできたボタンか」
亜竜の角は高価なものだ。冒険者でも買えるがこんなところに付けて来る奴はいないだろう。つまり、救助対象のものである可能性が高い。
「この近くにいるかもしれない」
二人で捜索すると、古い血痕を見つける。
「救助者のものとは限らないが、他に手がかりもないしな。探してみよう」
血の痕をたどると、岩陰に人が横たわっていた。
「おい、あれ!」
ムツキが駆け出す。しかし、俺は少し違和感を覚える。
「おい、待て!」
「え?」
ムツキは止まろうとするが、既に相手の思惑にはまっていた。
「うわ!」
地面が蟻地獄のようになり、ムツキを落し入れようとしている。ムツキは必死に走っているが砂のせいで思うように動けない。
「サンドラ~助けて~」
俺は森の民の秘術である植物魔術で木を作り、枝をムツキの方に伸ばす。
「枝に捕まれ!」
ムツキは枝に捕まると、それを手繰り寄せて脱出する。
「危なかった~。ありがとう、サンドラ。てか、その魔術なに?あ、救助者ギリギリ生きてたよ」
「あ~、うるさい。一気に話すな。救助者は生きているのか。早く助けるぞ」
その時、蟻地獄の底では獲物が抜け出したことに気づいた魔物が姿を現した。
「うわ!気持ち悪い魔物。さっさと倒して助けないと」
すると、ムツキは相手に手を向けた。
「虫には火だよね。幸い、あいつのおかげで周りは砂だらけだし」
そう言うとムツキは火の魔術で魔物を焼き払った。
「よし、討伐完了」
「なかなかの威力だな」
「魔術はわりと得意なんだ~」
俺たちは救助者のところに駆け寄る。しかし、それは酷い有様だった。
「これは…」
四肢は繋がっているものの、お腹に穴が空いている。
「これは、致命傷だね。サンドラ、治せる?」
「無理だ」
「そっか」
すると、ムツキはいきなり剣を抜いた。
「おい、何してる!」
俺はそれを慌てて止める。
「俺たちでは治せないし、街までは持たないだろう。だったら苦しませない方がいい」
理屈は分かるが結論を出すのが早すぎる。
「待て待て。街まで間に合う」
「無理だよ」
「いいから、少し手を貸せ」
俺はムツキの手首を取り、救助者とともに転移の魔術を発動させる。
いきなり視界が変わったムツキは驚いている。
「これは…」
だが、俺はそんなことを気にしている暇はない。
「Bランク冒険者のサンドラだ。誰か、治療班を呼んでくれ」
冒険者ギルドには依頼でケガをした冒険者のための医療体制が整っている。
いきなり現れた俺たちに辺りはざわつく。しかし、運がいいことにそこにはアカリがいた。
「あら?サンドラじゃない。てか、重症ね」
アカリはポーチから一本の瓶をとりだした。
「はい。これは開発中のポーションよ」
ポーションとは傷や毒、病などを治すための薬だ。
「ああ、ありがとう」
俺はそれを救助者に無理やり飲ませる。
「ゴブッ」
すると、救助者の傷がみるみるうちに塞がっていく。
「これは、凄い効き目だな」
「後は治癒魔術をかけてあげれば、半日のうちに目が覚めると思うわよ」
俺は治癒魔術をかけていると、ムツキが気になることを言っていた。
「あんな傷が治るなんて異世界はすごいな」
騒ぎを聞きつけた、ギルド長が出てきた。
「一体どうした!」
それに対して俺たちは説明して、この場はおさまった。
半日経つとアカリが言った通り、救助者が目を覚ました。その場には俺とムツキ、ギルド長の三人がいた。アカリも呼ばれていたが、「偉い人苦手だから」と断っていた。
「ここは…」
「ここは、アウフの街の冒険者ギルドの医療室でございます。王太子殿下」
ん?今、ギルド長なんて言った?王太子?
「そうか、私は途中で魔物にやられたのだったな。護衛の騎士は?」
「依頼を出した後に倒れてしまいました。恐らくは毒かと」
「それは一人か?」
「はい、そうでございます」
「そっちが私を助けてくれた冒険者か?」
「はい、サンドラとムツキと言います」
「俺の他に騎士を見なかったか?」
俺はムツキの方を見るも顔を横に振られる。
「俺たちは見ていない。恐らくだが、魔物にやられたんだろう」
「お前、失敬だぞ」
ギルド長がサンドラの言葉遣いを注意する。
「よい。そうか、護衛は亡くなったか。サンドラとムツキといったな。助けてくれて感謝する」
「いや、護衛を助けてられなくてすまなかったな」
「謝らなくてよい。それは私の責任だ」
王太子の話によると、休暇のために生まれ故郷であるアウフの街に行く途中であの魔物に出会い。不意をつかれて全滅しそうになったところで、最も足の速い奴が街まで走ったらしい。
余談だが、このことが王様に伝わり、感謝の手紙と報酬を貰った。更には転移魔術のことが公になったために「魔導王」という二つ名を付けられ、Aランクに上がった。これを聞いたシズクは顔を引きつらせながら「二つ名仲間やな」と言っていた。
そして、色々と終わった、その日の夜に俺はムツキをアカリの家に招いていた。そこにはアカリの他にハデスとシズクがいた。
「いらっしゃい」
「あれ?さっきのお姉さん」
「単刀直入に聞くが、異世界人だろう」
俺はムツキに質問する。
「あれ?何で分かったの?」
「さっきギルドで異世界と言っていたからな」
「そうだっけか。ていうか、もしかして君たちも?」
「そうだ。俺とシズク、アカリ、ハデスがそうだ」
「へ~。結構いるんだね」
ムツキは意外と落ち着いていた。
俺たちは顔合わせが済んだ後に軽く話あったが、夜も遅いためにすぐに寝た。
それからしばらくしてから、アカリとハデスは研究のためにキシケゴードン国に向かった。俺はというと依頼のためにビギンという街に向かったのだった。
もし良かったら、いいねと評価、ブックマークをお願いします。
大変励みになります




