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第29話 森の民たちの里

矢の猛攻が終わると、目の前の彼女、不知火(しらぬい)智洋(ちひろ)はほぼ全ての矢を拳だけで撃ち落としていた。

「ぐぅっ」

しかし、脇腹と左足に一本ずつ矢が貫いていた。マルコは近くにいたサンドラの魔術により無事であった。


「チヒロ!大丈夫か」

「だい…じょうぶだよ。それよりも、この状況は?」

するとサンドラが大声で叫んだ。

「長老!俺だ!サンドラだ!」


「皆の者!武器を下ろせ!奴らは敵ではない」

長老と呼ばれた向こうの指揮官らしき者が攻撃態勢を解かせる。

「サンドラか!久しいな。すまないが今、里は非常事態だ。要件ならここで聞こうか」

先ほどの者がそう言い放つ。

「近くに来たから寄っただけだ。それよりも非常事態とは何なんだ?」

長老は少し迷ったそぶりをしたが直ぐに俺たちに声をかけた。

「分かった。話をしよう。ついてきてくれ」

長老が俺たちのもとに現れた。彼は30代くらいの容姿で耳が長く鋭く尖っていた。エルフの特徴らしい。

移動の前にサンドラによりチヒロの傷を治しておく。


俺たちは長老に連れられて里の内部に案内された。

「お婆、神樹様、サンドラ達を連れてきました」

お婆と呼ばれた女性は長老と同じくやはり耳が尖っていた。神樹様は髪が植物のようになって、それ以外は普通のヒトと変わりない女性だった。

「サンドラの小僧か!こっちは忙しいんだが」

お婆が忌々(いまいま)し気にこちらを(にら)む。

「それはすまないな、お婆。とりあえず紹介ぐらいさせてくれ」

「聞いてたか。こっちは忙しいのだ」

すると、神樹様が会話に参加する。

「まあまあ、いいじゃねーか。サンドラにも協力してもらおうぜ」

「新樹様はこの者に甘いですぞ」

「弟子には甘くなるもんだよ」

神樹様の鶴の一声で俺たちも会議に参加させてもらえるようになった。


「そっちの自己紹介から頼むよ」

神樹様に促されて自己紹介を始める。

「僕はマルコフニウスといいます。マルコと呼んで頂けたら」

「私はチヒロです」

「俺はヒサメです」

俺たちの自己紹介が終わると、神樹様が再び話し出す。

「よし、今度はこっちだな。私はドライアドのクリスだ。この里の者には神樹って言われているが、ただちょっと人よりも長生きなだけだ」

「何がちょっとだよ」

サンドラがボソッと呟く。

「サンドラ、あまり言ってはいけないことというものが世の中にはある」

「ヘイヘイ」

神樹様は少し師匠に似ていると思った。


「わしはここの長老を務めているエルフのフィーガだ。と言っても長老と神樹様の方が長生きだけどな」

「私はエルフのサリチスだ。皆からはお婆と呼ばれておる」


「さて自己紹介が終わったところで、少しこの里について紹介しておこう」

そうして神樹様が新たに話題を挙げる。

「この里は森の民と呼ばれる私たちドライアドとエルフが住んでいる秘境だ。君たちも通ったと思うが、あの霧によって普通の人は里の中に入れない。しかし、例外が現れた。サンドラだ。こいつは霧を通ることもなくいきなり里の中にやってきた」

転生先がこの森の民の里だったのだろう。


転生のことを知らないマルコが一瞬疑問を顔に浮かべるがすぐにもとに戻る。サンドラの転移の魔術によるものと思ったのだろうか。いや、マルコは賢い。サンドラは前に転移は一度行ったところにしか行けないと説明した。すぐに矛盾に気がつくだろう。マルコは俺たちに隠し事があるのをうすうす勘づいている。チヒロがいきなり来た時も驚きはしたが説明を要求されなかったし。いずれ、話さないといけないな。


「こいつをどうするかどうかは結構もめたんだぜ。最後は私が預かることにしたんだがな。こいつは世の中の常識ってやつをまるで知らなかったからな。少しここで過ごしてから外に出たんだよ」

神樹様の顔がここで引き締まった。

「そして今、緊急事態が起こった。世界樹によって封印されている怪物、イシューラが解き放たれようとしている」

「なんだと!」

サンドラが目を見開き立ち上がる。

「まぁ落ち着けサンドラ。あ、世界樹ってのはここからでも見える一番大きな樹のことな。で、そこには世界を滅ぼすにはちょい力が足りないかな~くらいの怪物が封印されている」

この人の話し方のせいで緩く感じるが普通にヤバイ状態じゃないか。

「その封印はいつ頃に破られるんだ?」

サンドラが質問する。

「ん~十日ってところだな。まぁ古い封印だし、寿命だろ」

十日…もうすぐではないか。

「今から再封印は?」

「できるならとっくにやっておるよ」

サンドラの質問にお婆が答えた。

「というわけで今、この里は何とかして怪物イシューラをやっつけようーって感じだな。サンドラ達は手伝ってくれるのか?」

「少し相談させてくれ」


俺たちはサンドラを含めて話し合った。

「俺はこの里に恩がある。だから手伝うつもりだが、お前らにも強制させるつもりもない。嫌な人は俺が転移で安全地まで送る」

「俺は手伝うよ。世界がヤバそうなら逃げても無駄だ」

「ヒサメ君が戦うなら私も戦う」

俺が答えるとチヒロがすぐに賛同する。

「うっ!僕も…戦うよ」

「無理しなくていいぞマルコ。命の保障はすまないがしてやれない」

「サンドラさん。やっとできた仲間なんです。すぐに手放したくありません。それに冒険者って職業に保障なんてないですよ」

俺たちは全員がこの戦いに参加することになった。

「そうか!全員、参加してくれるのか!いや~ありがたい。じゃあ、ゆっくりはできないだろうが、戦いの準備をしてくれ」


そうして俺たちは里の中に案内された。

「案内頼まれた。こっち」

そうしてエルフの女性に連れてこられた。少し俺に対する視線に軽蔑(けいべつ)が入っている気がするが気のせいだろうか。

どうやら俺たちはこの里でも波乱に巻き込まれるようだ。

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