第28話 仲間が増えた
燃えるような真っ赤な髪に瞳の15歳くらいの女の子、チヒロに抱き着かれた俺は混乱していた。
「えっと…どうしたの?」
「私のこと覚えてない?高校の時にいじめから助けてもらった智洋だよ?」
「あ!あの時の!」
俺は直ぐに思い出す。
「あの時はごめんね。私のせいで…。ずっと謝りたくて、でも私なんかが会ったらまた迷惑がかかるんじゃないかって思うとなかなか会いにいく勇気が出なくて。どうやったら勇気が出るかなって思ってずっと考えていて。でもでも、私って馬鹿だからいい考えが思いつかなくて。それに私は春風君の連絡先を知らないから直接会いにいくしかなくて。いじめられてた記憶がフラッシュバックして時間が経つと余計に会いにいくのが怖くなっちゃって。そんな時に中国拳法について知って。あ、私の引っ越し先は中国なの。それで、私自身がいじめてきたやつよりも強くなったら勇気が出るかなってずっと修業して、本当に頑張ったんだよ。師匠に免許皆伝って言われたんだ。でもでも簡単に勇気なんてでなくってね。そんな私を見かねた師匠が背中を押してくれてね、やっと会いにいく勇気が出たんだ。それでね、春風君にも迷惑かからないようにしようと思ってね、春風君の役に立てるようになろうと思ってね。勉強もずっと頑張ってきたんだ。それに料理だって、洗濯だって、どんなことでもできるようになったんだ。それで、やっと日本に行ったら、春風君に会う方法がわからなくって。あてもなく街を歩いていたら春風君が死刑になったていうニュースが流れてきて。もう春風君に会えないと分かって本当に悲しかったんだ。あ!別に優しい春風君が本当に人を殺したなんて思ってないよ?ううん、違う。もし、春風君が人を殺したんだとしたら殺された人がよっぽど悪い人だったんだよ。それで、心優しい春風君が止めたんでしょ?あ?それか、誰かを人質に取られて仕方なかったのかな?それだったら誰だろう?確か、お父様もお母様も既にご健在ではなかったから、お友達とかかな?いや、心優しい春風君なら誰が人質でも命を張って守るかな?ええっと、何が言いたいかと言うと別に春風君が人を殺していたとしても、殺していなかったとしても、私は春風君の味方になりたいの。いや、これじゃあちょっと上からかな?そうじゃないよ、ただ単純に春風君と一緒にいたいの。あれ?私どこまで話したっけ?そうだ、春風君が殺されたって知って本当に悲しかったんだよ。もう、会えないって分かって本当に落ち込んだんだよ?春風君を殺した執行官を殺してやろうとも思ったんだけども。そんなことしても春風君は戻ってこないし、喜ばないかなと思って。それに執行官の人はただ仕事をしていただけだもんね。あ!真犯人を見つけて地獄を見せればよかったのか。いや、春風君に会えたならもう、いいかな。あ!それでね、落ち込んでたら私ね、誰かに背中を押されて駅のホームから落ちて電車に轢かれて死んじゃったんだ。それでね、神様に会って。生き返らせてやるって言ったんだ。春風君を守れなかった私なんかにそんな資格ないとも思ったんだけども。あの神様が春風君もこっちに来てるっていうから異世界に来たの。そしたらいきなり知らないところで、怖いゴリラみたいなのがいて、動けなかったところをまた、春風君が助けてくれて。ごめんね、春風君を守るために、こっちに来たのに逆に私が守られちゃって。本当に私ってなんでこんなにダメなんだろう。あ、春風君はカッコよかったよ。本当に感謝してるよ。でね、会えたことは本当に嬉しいの。出来れば春風君と一緒に生きたいんだけど?ダメかな?だめだよね。春風君からしたら私なんて疫病神だもんね。でもでも、私って強くなったんだよ。だから、本当に都合のいい盾くらいの感覚で側においてくれないかな?」
凄い速さで話す彼女に俺たちは突っ込む余裕すらなかった。
「なあ、彼女は何て言ってるんだ?」
すると、マルコが口を開く。チヒロは日本語で話していたためにマルコは理解できなかったようだ。色々と説明しにくいものも含まれていたのでよかったのかもしれない。とりあえず、一旦マルコのことは置いておいて彼女に日本語で話す。
「ええっと、別にあのことは気にしてないよ。それにこっちに来て直ぐに魔物と戦うなんてできないんだから謝らなくていいよ。それに俺を守らなくても大丈夫だから」
俺がここまで言うと、チヒロの表情がみるみるうちに青くなり、次第に泣きそうになっていく。
「私は必要ないってこと?」
「いや、そうじゃないよ。別に守られる必要はないって言っただけで、仲間になりたいとは思うよ」
「一緒にいてくれる?」
「うん」
すると、今度は満面の笑みを浮かべる彼女だった。
「ヒ~サ~メ~、僕を無視しないでくれよ」
今度はマルコが拗ねてしまった。
「ごめんよ、マルコ。彼女もパーティーに入れたいんだけど、いいかな?」
「僕たちは冒険者パーティーだ。彼女が僕たちについてこれるなら構わない」
「いきなりは無理だろう。仕方ない。キシケゴードン国に行く前に少し寄り道していこう」
「いいのか?サンドラ?」
「ああ、訳ありのようだし。ヒサメの知り合いのようだしな」
「サンドラさんが言うなら僕もいいぞ」
「えっと、そのありがとうございます。これからよろしくお願いします」
そうして俺たちはサンドラに連れられて本来の道を少し外れて行く。
「転移で行けたら楽なんだが。人数オーバーだ。それにそんなに距離は離れていないしな」
「どこに行くんだ?」
「俺に魔術を教えてくれた人のところだ」
「それって森の民って人のこと?」
「何?森の民だって」
マルコが過剰に反応した。
「どうした?マルコ?」
「ヒサメ知らないのか?森の民っていうのは存在自体が明確になっていない伝説の種族なんだぞ」
俺は全く知らなかったがそんなに驚くことはなかった。そういえば、エルフやドライアドは見ないなとは思ったくらいだ。俺からしたらヒト族以外の種族も充分に伝説的なものだからな。
辺りが霧に囲まれていく。
「サンドラさん。ここって濃霧の森じゃ?大丈夫なんですか?」
濃霧の森とは世界怪奇区域の一つで、入ると一寸先も分からない霧に囲まれて、気がつけば霧をでて元の場所に戻ってしまうという場所だ。
「大丈夫だ、マルコ。この先に森の民がいる。皆俺から離れるなよ」
そう言ってサンドラが進んでいく。俺たちも後に続く。そうして霧が晴れた、その時だった。
なんだ?殺気?
頭にビリビリとした殺気に気付き、ミスリル剣を発動しようとした時だった。
「ヒサメ君!」
チヒロが俺の前に飛び込んだ。
速い!何時の間に俺の前に?
そして、次の瞬間には俺たちに目掛けて矢が降り注いできたのだった。




