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厄災の子 ~運命に負けて異世界に行く~  作者: 香川寿太郎
第二章 冒険者の街 イーハル
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第23話 オディアス

サンドラが五人衆との決着を着ける少し前のときだった。

深い霧の中、風が強く吹き上げている。

「なんだ、この風は?魔術師の坊主か?」

オディアスが考察していると声が聞こえる。

「ヒサメ!今だ」

「剣士の小僧が来るのか?」


ヒサメは深い霧に包まれると同時に風魔術を千変万化の腕で剣の形にし、武装強化で強化してゆく。

それが完成すると、オディアスに向かって走り出す。霧の中でオディアスがしっかりと確認できたところで、技を繰り出した。

「嵐一刀!」


次の瞬間に辺りに暴風が吹き荒れ、霧が一気に晴れる。

「なんだ?どうなった?ヒサメが勝ったのか?」

辺りが落ち着きマルコが見たのは、木々がへし折れその先に横たわるオディアスだった。

「やった。オディアスが倒れてる」

だが、その反対側にいたのは全身に切り傷を負った俺であった。

「ヒサメ!大丈夫か?」

「ああ、何とか」

俺は体中に痛みが走りとてもじゃないが立っていられなかった。


「一体何があった?」

「俺が攻撃すると同時に相手が剣を振った。それがいくつもの刃となったんだ。俺の嵐一刀が一つの巨大な塊だとしたら、あいつのはまさしく千の攻撃だ。俺の攻撃を貫通して攻撃してきた。それで、このざまだ。もっとも、相手も俺の攻撃を防ぐことはできなかったようだな」

「ああ、あそこで倒れているよ」


マルコに治癒魔術で傷を回復してもらっている時だった。

「がはっ!げほっ! やるな、お前。まさか千剣を使わされるとはな」

「まだ、動けるのかよ」

そう言いながらマルコが治療の手を止めて構える。

「もう、諦めたらどうだ。お前に勝ち目はない」

俺はそう叫ぶも回復が間に合っていない。立っているのがやっとで、まともに戦えないだろう。

「そうはいかねぇな」

オディアスの眼はまだ死んでいない。

「どうしてそこまでする?」

マルコが問う。

「言わなかったか?娘が殺されたからだ」

「リーエがそんなことすると本気で思っているのか!?」

「うるせぇ!」

オディアスは龍撃・風を放つ。俺とマルコはそれぞれ左右に飛んで避ける。

「話を聞けよ!」

俺は声を荒げて怒鳴る。


マルコがアクアバレットを連打する。オディアスはそれを剣で弾くが、数発命中する。

「くぅっ…魔力斬撃・風」

オディアスはマルコを遠ざける。

隙をついて剣を振るうが、オディアスは予想していたように剣で受けて、カウンターで蹴りを放つ。

「それは前に見た」

以前戦った時にやられたことを学び、今度はスキルで強化したアダマンタイトの腕で受ける。強烈な蹴りとはいえ、アダマンタイトの腕はびくともしない。俺はまた斬撃を放つ。オディアスは左手を犠牲にして防ぐ。オディアスの左手は傷つき血が出る。

「クソが~。千剣!」

オディアスは距離を取り、切り札である奥義を放つ。迫りくる大量の風の刃で俺の視界は埋め尽くされる。両腕をスキルで盾の形にして耐える。

「ぐう」

盾は刃が当たる度に削れていき、身体は傷ついていく。その時マルコが動く。

「ウォーターウォール」

しかし、ひと時も防ぐことはできず、すぐに水の壁は壊される。


しかし、その時だった。とてつもない強烈な一振りが放たれ、千剣が一瞬止む。俺はその間に千剣の間合いから外れる。

「お待たせして申し訳ございません、ヒサメ殿」

剣豪バルコがやってきたのだ。

「少し手間取る相手がいましてね。その後に、この辺の敵を打ち倒して、お館様とお嬢様を見つけるのに時間がかかりまして」

オディアスの後ろにはガードンとリーエが続く。

「リーエ!無事だったか」

「はい、ヒサメさんこそ」

またすぐ後にサンドラが転移でやってきた。

「どうやら全員生きてるみたいだな」


「バルコさん…」

現れたバルコに対してオディアスが呟きを漏らす。

「オディアス…」

「はっ!随分早かったな」

「すまなかった」

「は?何言って―」

「私がティアラお嬢様を守れていたら、お前はこんなことしなくても済んだ。全て、私の力不足が原因だ」

「私からも謝罪を。あの時、ティアラは私を庇い、死んでしまいました。私は何もできなかった。怖くて動けませんでした。私が原因です」


オディアスの顔はみるみるうちに(ゆが)んでいく。

「俺が求めているのは謝罪なんかじゃない。今も昔もティアラだ」

「それでも、一度話を聞いてください。話さないと、伝えないといけないことがあるんです。ティアラと約束したんです。必ずあなたに伝えると」

「ティアラが…」

「はい。パパ、今までわがまま言ってごめんね。剣術のお稽古は厳しくてしんどかったけど、私はとても幸せだったよ。私のことは皆で笑って見送ってね。私も遠い空からみんなのことを見てるから、悲しまないでね。私はずっと、パパの娘だよ。育ててくれてありがとう。またね。と」


娘の最期の言葉を聞きながら、オディアスは涙を流していた。

「娘の言葉だ。みんなの前ではお父さんって呼ぶけど、家ではパパって呼ぶのも、剣の稽古を面倒くさがるのも、分かれる時にまたねって言うのも全部。短いけど娘の言葉だ…」

「オディアスさん、これは私の話ですけど、ティアラは私を庇ってくれました。だから、私は自分の命を無駄にはしません、できません。だから、絶対にあなたと和解します」

リーエは自分の胸に手を置いて話す。その目には強い意志を感じ取れた。

「本当は分かってた。あんたらがティアラを殺すはずがないって。でも、どこにも手がかりがなくて、どうしようもなくて」


オディアスは剣を手放し、膝から崩れ落ちた。

「ティアラ、ティアラ。すまなかった、守れなくて」

誰もオディアスのことを攻撃しようとはしなかった。皆がオディアスのことを見守った。するとオディアスがポツリポツリと話し始めた。

「俺は元々孤児だった。それを前クラワー家当主のアベルに拾われた。そこでアベルさんの娘アスミに恋をした。アベルさんは次期当主にアスミとの婚約を認めると言った。それから俺は死ぬ努力をして当主となりアスミと結婚し、娘を授かった。しかし、娘が生まれると同時にアスミは息を引き取った。その時に俺はアスミにティアラのことは命をかけて守るとアスミに誓った。なのにティアラは死んでしまった。何年も探したが、遺体さえ見つけられなかった。ティアラがいないと俺はまた一人ぼっちだ」


俺はオディアスの話を聴きながら思う。本当に俺に似ている、と。

そして、ガードンがオディアスに声をかける。

「オディアス、俺は今回のことは報告するつもりはない。幸い、大きな被害もないしな」

「ガードン…すまなかった。リーエちゃんもバルコさんも本当にすまなかった」


「ギョエエーー」

皆が一件落着と考えていた時であった。けたたましい声が聞こえたのであった。

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