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厄災の子 ~運命に負けて異世界に行く~  作者: 香川寿太郎
第二章 冒険者の街 イーハル
20/80

第17話 5年前

「ん、あ?えっと?」

「ヒサメ、起きたか?良かった」

サンドラが安堵の表情を浮かべながら話しかけた。

「サン…ドラ?……はっ、そうだ。リーエは?」

「ああ、リーエちゃんは大丈夫だ」

「そうか。良かった」

「リーエちゃんも心配してたぞ」

「それはすまなかったな。そういえば、怪我が治ってる?サンドラが治してくれたのか?」

「ああ、そうだ。骨折が三ヶ所。切り傷多数。一対一だったとは思えないほどのケガだ」

「風の刃を使う剣士だった」

「なるほどね。相手は真流剣術だもんな」

「ところで、俺を助けてくれた人って誰だ?」

「ああ、今もこの(やかた)にいるから。と噂をすれば…」


コツコツと複数の足音が聞こえてきた。

随分(ずいぶん)のやられようだったな。君ともあろう者が。僕がいなかったら危なかったんじゃないか?」

「お前は…マルコ」


そこに、領主のガードン、リーエ、バルコと共に現れたのは緑色に短髪の俺と同年代くらいの男、マルコフニウスがいた。

「ふん、僕のライバルが簡単に負けてもらっては困るよ」


マルコの言い方に何故かリーエが怒る。

「ちょっと、ヒサメさんに失礼ですよ。相手がとっても強かったのよ。それなのに私を助けてくれたんですよ」


「え、あ、ごめんなさい」

すぐにマルコは引き下がってしまった。意外と打たれ弱いようだ。


リーエの元気そうな顔を見て俺は安心する。

「リーエ、ありがとう。無事でよかったよ」

「あ、その助けてくれてありがとうございました」

リーエは少し照れたようにお礼を言う。

「それで、マルコが助けてくれたのか?ありがとう」

「礼なんか必要ない。俺たちは互いに切磋琢磨(せっさたくま)して助け合うライバルなんだから」

マルコは嬉しそうに言う。


…そろそろ無視できないな


「なあ?マルコ?」

「なんだヒサメ?」

「そのライバルってのは?」

「俺たちのことに決まってるだろ?」


「…。え?」

俺は驚きの声を出す。

「え?」

マルコも呼応するように声をだした。


「年も、冒険者ランクも同じで、模擬戦もしただろ?」

「え、それだけで?」

「それだけで充分だろう。それにお前、サンドラ様とパーティーを組んでいるだろ?だったら僕ともパーティーを組んでくれ」

「えと、マルコは俺たちの仲間になりたいってことか?」

「ああそうだ。(すで)にサンドラ様からは許可は得ている」

「そうなのか?サンドラ」

「ああ、仲間なら大歓迎だ。ヒサメにとってもいい刺激になるだろうからな」

マルコはこっちを振り向くと返事を(せか)すようにじっと見つめる。

「サンドラがいいなら俺は構わないけど」

「本当か!?やった~」

マルコはガッツポーズをして喜びを表現する。


「だけど、マルコ。ソロじゃあなくていいのか?」

「ああ、俺がソロで冒険者していたのは俺と同じくらいの年のCランク冒険者がいなかったのと、何よりも尊敬するサンドラ様がソロだったからだ。でもヒサメのおかげでその二つが同時に解消された」


こいつ、サンドラのファンだったのか。まあ、仲間が増えるのは嬉しいことだ。前に助けてくれたし、いい奴だろうからな。


「なるほどな。早速だが、今回のことに力を貸してくれないか」

「今回のこと…?実はまだ詳しいことは知らなくて」

「それは、私から話しましょう」

ガードンが話を始める。


「相手は(からす)という組織で、構成員は25人前後。頭目はクラワー家当主、オディアス=クラワー。幹部と呼ぶべき実力者はクラワー家で免許皆伝を貰った5人の剣士だと思われます。真流剣術ということで、もしかしたらとは思っていましたが本当にオディアスだとは…」


俺は気絶する前のオディアスの言葉を思い出した。

「そういえばガードン様、オディアスは俺に一ヶ月後にあの場所で待つ、と言いました。あの場所とはどこなのか分かりますか?」

「そういえば、そんなことを言ってたな。逃げるのに必死過ぎて忘れていた」

すると思い出したようにマルコが言う。

「あの場所…恐らくはティアラちゃんが亡くなった森のことでしょう」


ガードンが言ったことにマルコが尋ねた。

「ティアラとは誰のことなんだ?」

「それは、当事者である私が話しましょう」

そしてリーエは言葉を続ける。


「ティアラはオディアスさんの娘であり、私の幼馴染で親友でもありました。当時、私たちはいつも遊んでいました。オディアスさんとお父様も仲が良く、家族ぐるみの付き合いでした。ティアラは活発で優しい女の子でした。しかし、5年前、私とティアラと護衛のバルコとで森に遊びに行った時でした。ラードーン、と呼ばれる魔物に出会いました。ラードーンとは昔からこの辺に住み着いているといわれているバケモノですが、何百年も前のことなのでおとぎ話の話と思れていました」


~約五年前~

「リーエ!はやく、はやく行きましょう」

そう、リーエに手を振りながら元気に走っているのは、ショートの桃色の髪がよく似合う女の子だった。

「待って、待って」

そして、彼女についていくのは当時10歳のリーエと護衛のバルコだ。

「ティアラお嬢様、そんなに走ると危ないですよ」

「せっかくの剣術のお稽古がお休みなのよ」

「ねぇ、ティアラ、森の奥が光ってる」

「ホント!行ってみましょう」

三人がいる森は魔物が少なく危険度が低い森だ。だから、バルコも油断していた。

(この辺に光りものなどあっただろうか?まあ、この辺は魔物もあまりいないから大丈夫でしょう)

バルコはそう思い、二人が森の奥に行くのを許してしまった。


三人はその光源まで行った。

「わぁ~。リンゴが光ってる」

そう、リーエが呟いた瞬間、

「ギェエエエエエエエエ――――」

と、けたたましい鳴き声と共に百の頭をもつ魔物が現れた、ラードーンだ。

「「キャアアー-」」

二人の悲鳴と、同時にバルコは剣を抜く。

(かなり上位の魔物だ。二人を守り切れるか?と、いうよりも普通に戦っても勝てるかどうか)


「お前は…」

「我はラードーン。この黄金の林檎の守護者である。この林檎を取ろうとする傲慢な人間どもよ、その愚かさを身に刻むといい」

なんと、その魔物はヒトの言葉を話したのだ。


「喋れるのか?ま、待ってくれ、私たちは偶々この場所に来ただけだ!」

「問答無用」

ラードーンはバルコのいう事を無視して攻撃してきた。

(お嬢様たちは恐怖で動けないでいる。何とかせねば)

バルコは二人の前に立ち、襲い掛かってきた三つ首のうち一つ目を弾き、その勢いを利用して回転しながら残りの二つの首を切り捨てた。


「なかなか、やるようですね。私の首を斬るとは」

「く、話を聞いてくれませんか?本当にその林檎を取ろうとした訳ではありません」

「それを信じろと?」


ラードーンはそう言い放つと、今度は一気に斬られないように多方面から攻撃する。バルコはその猛攻(もうこう)(ことごと)く防いだ。しかし、剣一本では全てを防ぎきれず、一本の首が防御をすり抜けてきた。バルコは剣を持っている手とは逆の左の腕で防いだ。しかし、勢いが強すぎて、骨にひびがはいる。


「クッ!これは勝てないか!お嬢様たち、私が時間を稼ぎます。お二人はお逃げ下さい」

その声でいち早く正気に戻ったのはティアラだった。

「リーエ、逃げるわよ」

「でも、バルコが」

「バルコさんなら大丈夫よ。強いもの」


ティアラは分かっていた。ここにいても自分たちは何もできず、ただただ三人ともこの魔物に殺されるだけであるということを。そして、それを分かってなおバルコが自分たちを逃がすために自らの命を犠牲にしようとしていることを。それに(むく)いることこそがバルコにとって何よりも嬉しいことであることを。


しかし、それをラードーンが許さなかった。十本の首が二人を襲う。

「しまっ」

その首ををバルコが追う。追いながら首を一本一本切ってゆく。それも速さを殺さずに、その速度を利用して力を漏らすことなく剣に乗せて、ダイナミックな動きで切ってゆく。

「八本、九本。後、一本」

そして、バルコが最後の一本を切った。

「よし、これで全部だ」

だが、ラードーンはそれを見越していたかのように、もう一本、首を伸ばしていた。

それにいち早く気が付いたのはティアラであった。


「危ない、リーエ!」

ティアラはリーエを突き飛ばして攻撃の範囲から離脱させる。だが、ティアラが攻撃をもろに受けた。そのままティアラは吹き飛ばされる。

「ティアラ~」

リーエが悲痛な声で叫ぶ。一目でもう助からないだろうと分かるほどの致命傷だった。

「リーエ、ガフッ!にげ…て」

「で、でも」

「バルコさん!リーエを連れてにげて。あなたなら一人くらい連れて逃げることができる。ハア、ハア。そうでしょう?」

バルコは一瞬、判断に迷う。しかし、考えている時間はない。すぐにラードーンが追撃してくる。

「お願い、バルコさん。逃げて」


バルコは他の選択肢が思いつかず、渋々(しぶしぶ)承諾した。

「ク、承知…いたしました。本当に…申し訳ありません…」

バルコの顔には後悔の念が強く現れていた。

「いいのよ。リーエ、お父様に先に死んでごめんなさいって伝えてくれる?」

「そんなのいやよ。ティアラも一緒に逃げよ?ね?」

「無理…よ」

「無理じゃない。お願いします。ラードーンさん、私たちを見逃して、ティアラを助けて」

ラードーンはその光景を見ながら答える。

「すまないが、それはできない」

「なんでよ」

リーエは泣きながら叫ぶ。

「我が主に言われたからだ。もうこれ以上失態を犯すわけにはいかんのだ。…すまない。」

それだけ言うと、またもや攻撃をしてくる。


「リーエお嬢様、もう無理です、逃げます」

バルコはリーエを抱えると身体強化の魔力の大部分を脚に集中させ、木の幹を飛び移りながら電光石火(でんこうせっか)の如くにげていく。

「いや、ティアラ~~~~」

リーエが叫び、

「逃がさぬ」

その後ろからラードーンが追撃をしていくが、逃げに(てっ)していたバルコには当たらなかった。木が何本も倒れ、砂ぼこりがたち、ラードーンは完全にバルコたちを見失った。



その後、何とか森を逃げ出したバルコたちはそのことをガードンとオディアスに伝えた。

「どうして、お前ほどの剣士がいながら、ティアラだけが犠牲にならなくちゃいけなかった。何故見殺しにした。どうして一緒につれて来なかった」

娘を亡くしたオディアスの怒りは相当だった。そして、ティアラを探すと言ってオディアスは帰って来なかった。




リーエが言い終えると、サンドラがまとめる。

「つまり、オディアスはティアラという娘ことで恨んでいて、その復讐のために今回のことを企てた、と。」

それに俺は付け加える。

「戦っている時に聞いたんだが、オディアスはリーエたちがティアラを殺したと思い込んでいるぞ」

「私がティアラを?そんなわけがっ!?」

俺の言葉にリーエが動揺する。

「ごめん、リーエ。言葉足らずだった。オディアスが言うには、リーエたちが言っていた場所にはティアラの死体やラードーンどころか荒れた跡もなかったようだ」

「何?それは不自然だな。オディアスの噓じゃないのか?」

「いや、サンドラ。俺にはあいつが噓をついているように思えなかった」


あいつの眼や声は噓をついている奴のものではなかった。そう、まるで前世の俺が必死に叫んでいたように。


「なるほどな。何かあるってことか」

「多分な」


俺とサンドラが考え込むなか、ガードンが言葉を発する。

「オディアスの言っていることが本当で、何かあるとしても今考えても分かりません。これからのことを話しましょう」


「そうだな」


復讐(ふくしゅう)するにしても、なんで5年も経った今すぐにではなく一ヶ月後なんだ?」

これはマルコだ。


「準備とか」

「既に5年も下準備をしてたんだ。それはないだろう」

俺は答えるもマルコに否定された。するとバルコが返答した。

「いえ、恐らくはそうではなく、サンドラ様が来られたので、それに対する計画変更のための時間でしょう」

バルコがそう答えるとマルコが納得して言った。

「なるほど。充分にあり得るな。というか、そうとしか考えられない」

「では、こちらはどうやって動きますか?」

俺の質問にガードンが答える。

「私の騎士で対抗するつもりです。近衛騎士団には劣るかもしれませんが荒くれ者が集まる冒険者の街ですので他の領地よりも強いはずです」

「冒険者を雇わないのか?」

マルコが聞くとガードンが答える。

「はい。一度オディアスと話をしたいですから。冒険者を雇ってしまうと王都に連絡が行ってしまいます」


「なるほど、分かった。じゃ、オディアスに勝てそうな人はいるのか?」

マルコの質問に今度はバルコが答える。

「恐らくはサンドラ様だけかと…オディアスに勝つには少なくともSランク冒険者でないと太刀打ちできませんが、この街にはSランク冒険者はいませんので」

「そんな!?バルコさんでも勝てないのか?」

「はい。ヒサメ殿。全盛期ならともかく年老いた今では難しいでしょう」

「では、オディアスの相手は俺がやろう」

「はい、お願いします」


「それで、オディアスの他に警戒すべき者はいるのか?」

「そうですね、ヒサメ殿。相手は強者(つわもの)ばかりですが、特に注目すべきは五人衆でしょう」

「五人衆?」

「はい、五人衆とはクラワー家当主の直属の部下。他の者とは一線を画す強さです」

「なるほどな」


すると、そこでガードンが突然驚くべきことを言った。

「私もこの戦いに出よう」

「お館様!?危険ですよ」

「言っただろう、私はあいつと話したいことがある。それに私がいないとオディアスも納得しないだろう」

それにリーエも続く。

「わ、私もいきます」

「リーエ?君は無理に来なくても」

「いえ、そうはいきません。私がティアラを助けられなかったことが原因ですので」

「そんな、それは君のせいでは…」

「だとしてもです。オディアスさんはそのことで私を責めているのですから」

リーエの(ひとみ)は真剣だった。

「本気なんだね、リーエ?」

「はい、お父様」

「いいだろう、許可する」

「ありがとうございます」


こうして話し合いが終わり、各々が一ヶ月後に備えるのであった。

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