第16話 鴉のボス
「オディアス=クラワー?誰なんだよ?」
「オディアスさんはクラワー家の現当主です」
「クラワー家?」
「はい。クラワー家は数ある真流剣術派閥のなかでも有数の家系です。やはり、あなたが鴉の頭だったんですね」
そう、リーエが聞くとオディアスが答えた。
「ああ、そうだよ。ついでに言うならば、もう当主じゃねぇよ」
「どうして、こんなことを?やはりティアラが?」
ティアラってさっきの話で出てきた娘か?
尋ねにくそうにするリーエに対してオディアスは怒った顔をする。
「ああ、そうだよ。だから俺はお嬢を殺す」
そう言い放つとオディアスは剣を抜いた。俺は今までに体験したことがない凄まじい威圧を感じ取っていた。
なんて圧だ。背筋が凍りそうだ
しかしリーエを守るために、俺も戦闘体勢に入る。
「リーエ。少し下がって」
すると、オディアスは声を荒げた。
「ああ゛!お前が誰だか知らんが、失せろ」
「そういう訳にはいかないだろう」
こいつ相手に手抜きはできない。俺はスキルでミスリルの剣とアダマンタイト籠手の、身体強化に武装強化、今できる全力を尽くす。
「チッ!どうなっても知らねえからな」
二人が相対し、戦闘が始まった。
すると、オディアスは距離があるのにもかかわらず剣を振りかぶった。
な、なんだ?何をする気だ?
俺が身構えていると、
「魔力斬撃・風」
オディアスが剣を振るうと、風の斬撃が凄まじい速度で迫ってきた。
俺は前にバルコから真流剣術では斬撃を飛ばすことができることを聞いたのを思い出した。強化したミスリル剣で斬撃を切り捨てる。
「これが飛ぶ斬撃か」
「ああ、そうだ。これは刃に魔力をのせて剣を振ることで、魔力弾と同じよう魔力を飛ばす。しかし、桁違いに威力は高く、速い」
「そのようだな」
痺れる手を握りながら、そう答える。
「今度はこっちから行くぞ」
俺は一気に距離を詰める。
「おぉ、大した速度だ」
しかし、オディアスは俺の横なぎを完全に受け止め、逆に蹴りのカウンターを放った。俺は後ろに吹き飛ばされつつも、何とか体勢を立て直す。
俺は蹴られた腹に思わず手を当てる。
「グハァ!なんて蹴りだ」
「お前さんも良いスピードだ。まるで剣豪みたいな速さだ。お嬢と一緒にいるってことはお前はバルコさんの弟子か?」
「今はバルコさんに剣術を習っているが、俺の師匠はシズク師匠だ」
「ああ~。あのシズクか。人類史上最強の戦士と謳われている。確か、バルコさんのとこに一時いたな。それじゃ、遠慮はいらねえか」
そこからは一方的だった。俺の攻撃は全て止められるか、いなされる。しかし、オディアスの攻撃はしっかりとダメージとして蓄積していく。
クソ、強い。今はまだ致命傷は負っていないが、このままだと確実に負ける
「おら、足元がお留守だぜ」
俺は足元を蹴られ、転ばされた。オディアスはこの隙を逃さない。
「おら、これで終わりだ」
オディアスは俺を串刺しにしようと俺目がけて剣を突く。俺は咄嗟に左腕の籠手で防ぐも、オディアスの剣は俺の腕を貫通する。
「ぐぁあーー」
しかし、そこで剣の勢いは殺され、何とか防いだ。
「お前の腕は金属製か?俺の斬撃を止めるとはな。これでも武装強化を使ってんだぜ」
「ハアハア、残念だったな。アダマンタイト製だ」
「すげえ腕だな。どうなってんだよ。けど、もうこれで終わりだ」
オディアスは剣を腕から抜くと、剣を振りかざす。今度はアダマンタイトでさえ斬れる力を込めて。
だが、その時、リーエが剣を抜きオディアスに切りかかる。
「やらせません。はあ!」
それをかわして一旦距離をとるオディアス。
「お嬢、俺の狙いはあんたなんだぜ。先にやってもいいんだぜ」
「そうはさせねぇよ」
俺は立ち上がると、左腕に魔力を流して空いた穴を埋める。
千変万化の腕を発動しているは俺の腕と腕の魔力は同調している。そのため、スキル発動時は魔力があれば穴は元に戻せる。
「回復もできるのか。面倒な能力だな」
このままだと、2人とも殺られる。せめてリーエだけでも逃がさないと。でも、逃げろと言っても素直に聞いてくれるとは思えないな。
「リーエ、戻ってサンドラを呼んで来てくれ」
「でも!」
「このままだと二人とも死んでしまう」
「分かり…ました」
リーエが走り去る。
「聞いてはいたが本当に魔導王が来ているのか」
「ああ、そうさ」
「それを聞いたらますます逃がす訳にはいかないな」
そう言うとオディアスはリーエに向かって駆け出す。俺はミスリル剣を伸ばし、そのままオディアスの間合いの外から攻撃する。
「ハアァー」
オディアスは追いかけるのをやめて寸でのところでよける。
だが、いきなりのことで反応が僅かに遅れたオディアスは初めてかすり傷ながらもダメージを負った。
「オイオイ、こんなことまでできるのかよ」
「ああ、便利だろ」
「それに逃げられたか」
ここまでやって、やっと一撃か…。だがリーエは逃げられたようだ。
「おい、お前。どうしてリーエを狙う」
俺は更に時間を稼ぐために話をする。
「それはリーエ嬢がティアラを…俺の娘を殺したからだ!」
リーエが人を殺した?どういうことだ?
「噓だ!リーエからはティアラという娘に命を救われたと聞いてる」
「ああ、俺も最初はそう聞かされた。化け物が出てきて娘がリーエ嬢を守ったってな。だが俺が襲われた現場に行くと娘の死体はおろか荒らされた跡もなかった。だから思ったんだ。娘は…ティアラは殺されたんだってな」
俺はこの男が噓をついているようには見えなかった。しかし、リーエが人を殺すとも思えない。
「だから、俺はリーエ嬢を殺す」
オディアスが殺気を放つ。時間稼ぎはここまでのようだ。
「お前の言うことが本当かどうかは分からないが、リーエを殺させない」
普通に戦えば俺は負ける。俺はそう思い、左腕の籠手を解除して地面に手を触れる。
「ん、なんだ?」
そうオディアスが疑問を口にした瞬間、下の地面が大きな針のようにオディアスに襲いかかる。それを直感的に避けたオディアス。
「なんだこれ。土魔術か?」
俺が地面から手を離すと、浮き出た地面は無くなった。
「消えた。どうやら土魔術じゃないな。幻術?いや、そんな気配は少しもなかった。またお前の厄介な能力か?一体どんなスキルなんだよ」
「教える訳ないだろ。ちょっと自信あったのに避けられるとはな」
これは以前ダンジョンで使った技だ。あの時は精々自身の周りの4、5メートルが限界だった。しかし、武装強化の練習で魔力操作の精密さが上がったため、その範囲が20メートルぐらいに広がっていた。
「そりゃあ、いきなり地面に手をついたんだ。警戒するさ。だが、それで分かった、お前のスキルは手に触れることで発動するんだな。そして、操ることができる。どうだ?」
「…さあな」
ほとんど当てられたか。まあいい。このまま距離を取ってサンドラを待つ
「まあ、なんでもでもいいか。それよりお前、俺から距離をとって時間稼ぎか?普通の剣士にはそれでいいがよ、真流剣術の使い手には失策だぜ」
奴はそういうと剣に魔力を集め、剣を振るう。
「龍撃・風」
その攻撃はまさに龍の如く、唸りながら幾千もの刃の塊となって迫りくる。
俺は瞬時にミスリル剣を盾に変化させるが、その攻撃によって深いダメージを負う。
もう、戦いを続けることはおろか立つこともままならない。
「これ終わりだ」
奴がとどめを刺そうと近づいた時、
「ディープミスト」
そう聞こえた瞬間、辺り一体が深い霧に包まれた。
「ああ?なんだ」
オディアスは戸惑いながらも、龍撃・風で霧を払う。しかし、そこにはもう俺の姿はなかった。
「ち、逃がしたか。まあ、いい」
オディアスは大きく息を吸い込む。すると、
「あいつらに伝えろ。例の場所で待っている!一ヶ月後に来い!」
と大声で叫んだ。
一方俺は誰かに抱き抱えられながらもその声を聞いていた。
「あの場所?それにこの人は?ダメだ、もう意識が…」
しかし、すぐに意識を失ってしまった。




