閑話 サンドラの冒険
思ったより長くなった
俺はサンドラ、何の因果か知らんが死んだ後に神を名乗る者に命を拾われ異世界にやってきた者だ。
俺は今、ヒサメに修業をつけてもらう交換条件で本来シズクに頼まれていた冒険者依頼を受けるためにアクリルの街の冒険者ギルドにやって来たところだ。
「すまない、依頼を受けたいんだが?」
「はい、了解しました。しかし、現在は魔物暴走の兆しがあるため、アクリルダンジョンの依頼はストップしている状態です」
「ああ、知っている。俺はそこの調査依頼を受けに来た」
「え⁉︎調査依頼ですか?しかし、その依頼は指名依頼でして‥」
「とりあえず、ギルド長に話してくれないか?」
「すいません、ギルド長も対応に追われていまして」
俺がギルドの受付員と問答をしている時だった。
「構わんよ、その方をギルドの受付に連れて来ておくれ」
「ギルド長!」
ギルド長が直々に来てくれた。
驚いた受付員だったが、すぐに案内をしてくれた。
「楽にしてくれ」
ギルド長の言葉で俺はソファーに座る。
「俺はダンジョンの調査依頼を鬼、シズクに頼んだはずだが?あんたは?」
「ん?そう言えば、コレを出すの忘れてたな」
俺は冒険者カードをギルド長に渡す。ギルド長は一瞬眉をあげる。
「なるほど、魔道王サンドラだったか。思ってたよりも若いな。確かにあんたならこの依頼は任せられる」
「そいつは良かった」
「この依頼はかなりの規模になる。今から人を集めるため依頼開始は3日後になる。内容は魔物暴走の調査及び事前に食い止めることだ。よろしく頼む」
「ああ、俺は1人でー」
俺がソロでいこうとすると、
「魔物暴走の危険のあるダンジョンだ。ダンジョン中に明るい現地の者も必要だ」
と、断られる。そう言われると単独は諦めるしかない。
「了解だ」
俺は依頼が始まるまでこの街のダンジョンについて調べたりと準備を進めていた。
そんな中、ギルドの前を通った時に聞こえて来た。
「どういうことだ。Sランクが依頼を受けるんじゃないのか⁉︎どうしてAランクなんだ!」
どうやら俺のことらしい。確かにSランクの依頼をAランクが受けるんだ、不安に思うやつが出てくるだろう。
どうする?出ていくべきか?
俺が思案しているとギルド長が皆を静める。
「おい!静かにしろ!俺がAランクを選んだのはそいつが充分に今回の依頼を遂行出来ると判断したからだ」
しかし、荒くれ者の冒険者たちはそれくらいでは止まらない。
「無責任なこと言ってんじゃねぇぞ!どうせ依頼料を減らしたいとかだろ?そのしわ寄せがこっちにくるんじゃ、やってられない!Aランクがやるんだったら俺はこの依頼は降りさせてもらう」
「そいつはできない。この街の未来がかかってるからな、強制依頼だ。それと別に依頼料をケチった訳ではない。むしろなりたてのSランクよりも安心できると思うぞ」
「どういうことだ?」
「お前らも知っているだろう?魔導王を」
「魔導王だと。それは知っているがあんなの実在するのかよ?」
「ああ、そいつが今回依頼を受けた」
「ちっ!だったらいいがよ。魔導王の噂のどれだけが真実かも訳では分からねぇのに」
何とか騒ぎが収まったようだが、やはり不信感は簡単には拭いきれないらしい。
というか、俺のことを噂を聞いただけでは信じられない、というのが正しいか。まぁ、当然だな。
俺はこのまま入って落ち着きかけた雰囲気を壊さないようにギルドから離れた。
ダンジョン調査の日、俺はギルドに着くと既に10人の冒険者が揃っていた。その中には先日、抗議していた剣士がいた。
「皆揃ったな。では改めて依頼内容を確認する。今回はアクリルダンジョンの魔物暴走の調査及び阻止だ。俺の勘だが、いつもと雰囲気が違う、充分に注意してくれ。この先はサンドラに引き継ぐ」
と、俺に回ってきた。
「あぁ~どうも、サンドラだ。死なぇように頑張ろう」
俺が辺りさわりのないことを言うと、また嚙みついてくる。
「お前が魔導王か!本当に大丈夫なんだよな」
「今は死力を尽くすとしか言えないが、信頼してもらっていい」
その後自己紹介と作戦をたて、ダンジョンに向かった。
「今からダンジョンに入るぞ。先頭は俺だ」
「「「「了解」」」」
普通、魔術師は中衛か後衛なのだが今回は特別として俺が先陣をきる。
ダンジョンに入ると魔物が所々現れてくる。それを俺か、さっきの剣士、エルドが倒していく。
「おい、このダンジョンはいつも魔物はこれくらいいるのか」
「いや、いつもより少し多い。それにこの魔物はもう少し深い階層のやつだ」
と、エルドが答えてくれる。
となると魔物暴走は確実か。
とりあえずは下るしかないな。
かなりの頻度で戦闘が起こるため、思っていたよりも進行速度は遅く、ようやく中層にきた。
「少し休憩だ」
みんなも疲れが出ていたようだったので俺がそう宣言する。
それから、20分前後の休みをとり、出発しようとした時だった。見張りのやつが慌てて戻ってくる。
「大変だ。大量の魔物がこっちに向かってきた」
「何!?」
俺たちは急いで戦闘態勢に入る。その少し後に魔物たちが姿を現した。
「噓でしょ!百や二百とかじゃない、千はいるわよ」
魔術師の女、エリカが叫ぶ。
「もう戦闘は回避できない、死にたくなかったら死ぬ気で倒せ!」
俺がそう叫ぶと戦闘は始まった。
先ずは俺が少し数を減す。
「ロックボム!」
俺は巨大な岩の塊を魔物たちの真ん中に落した。次の瞬間、空気が震える程の大爆発が起こる。その爆風は離れたところにいる俺たちをも吹き飛ばそうとするぐらいだ。
「うわぁー」
しまった。いつもソロだったから気遣いとか忘れてた。
「おい、そういうことは事前に言え!」
エルドに怒られる。
「すまない。今後ちょくちょく起こる。慣れろ!」
俺はそう返す。
その問答の後ろでエリカが呟く。
「凄い。岩の中に炎!どうやったらそんなことができるの?これが魔導王」
戦いは三十分経っても終わりが見えない。
まずいな。そろそろ皆しんどくなってくるぞ。
実際にミスは目立ち、四人いる魔術師のうちの二人が治癒魔術に専念している状態だ。
均衡は僅かに、しかし確実に崩れ出していく。治癒魔術に専念していた魔術師、ミレイが背後からの攻撃をくらった。
「ミレイ!」
エリカがミレイに駆け寄り、治癒魔術をかけるも今度はエリカが攻撃をくらう。
「おい、魔導王!ヤバいぞ!」
「見れば分かるよ!お前ら少し地面が揺れるぞ!」
俺は攻撃をくらった二人の真下の地面を盛り上げて魔物たちが近寄れないようにする。
「これはただの時間稼ぎに過ぎない。今のうちに回復しろ!それと前衛、一旦下がれ!」
「どうして?」
エルドが聞き返す。
「作戦だ、前衛は俺たち魔術師を守ってくれ。魔術師組は半分が引き続き治癒魔術に専念、残りの半分は簡単でもいいから水魔術を魔物たちに当てまくれ!」
「けど、水魔術では倒しきれないわよ!」
「いいから、やれ。説明している時間は悪いけどない。俺がなんとかする」
俺がそう言うと皆は指示に従ってくれる。
「分かったよ」
俺は意識の半分は前衛の援護に向けて、残りの半分を魔術に向ける。
魔術組の水魔術により辺りが湿気る。
「よし、前衛。俺の後ろまで下がれ!」
俺は皆が下がったことを確認すると、魔術を行使する。
「地を走る電撃」
俺の雷魔術が地面を伝わり魔物たちを倒していく。かなりの範囲であるために多少後ろにも電気が流れる。しかし、既に俺が張った結界があるため他の冒険者たちは皆無事である。
雷で動きのとれない魔物たちを俺は一気に土魔術の槍でとどめを指す。
「やったわ~」
エリカの声が聞こえる。
後ろを見ると皆、安堵の表情を浮かべて喜び合っている。
「安心しているところ悪いが今からが本番だ」
俺は緊張の糸が完全に切れている皆に警告する。
「どういうことだ?」
真っ先に警戒を戻したのはエルドであった。
「さっき俺はかなりの広範囲の魔術を使った。恐らく下にいるやつに気づかれた」
そう、何故俺がさっきの作戦を最初から使わなかったかと言うと、使うと怒らせてしまうからだ。下にいる正体不明の化け物に。しかし、状況的に死者が出そうであったためにやむを得ず使った。使ってしまった。
その時、下から物音が聞こえる。
「おい、マジかよ」
俺はそのおとの正体を信じたくなかったが現実となって現れた。
なんと堅く頑丈なダンジョンの床が崩れ落ちた。
「「「「うわぁー」」」」
とっさのことで皆、気が動転している。
俺は落下方向に風魔術を使い、クッションにする。
「あ、ありがとうございます」
ミレイがお礼を言う。しかし、俺はそれに反応している余裕はなかった。何故なら目の前に水色の鱗を持つドラゴンがいたのだから。
「おい、エルド。このダンジョンにはこんなボスがいたのか?」
「いや、そんなやつ見たことも聞いたこともない」
エルドが声を震わしながら返事をする。
「だよな。さて、どうしようかな」
「悠長に考えている場合か!早く逃げるぞ」
エルドが叫ぶ。
「いや、逃がしてはもらえないだろう。ここに引きずり込まれた時点でな」
「そんな」
エリカが悲観の声を出す。
ドラゴンはそんな俺たちの事情をお構いなしに攻撃してくる。俺はそれを土の壁で防ぐ。
皆は戦意喪失状態か。もう協力は無理そうだな。
俺はそう判断すると皆に命令する。
「俺がこいつを何とかする。お前らは逃げろ!今すぐに」
俺は最初こいつが何を言っているのか理解できなかった。相手はドラゴンだぞ。人間が一人で立ち向かって何とかなる存在じゃない。
「お前、死ぬ気か?」
だからついそう叫んだ。
こいつが、サンドラがすごいのは知っている。最初は疑っていた。いや、今も全ては信じていない。
だってそうだろう?こいつの噂といったら魔物が気づかぬうちに次々に爆発させる。とか、かつて魔神ザウスが使っていた原初の魔術、時空間魔術を使う、とか信じられないことばっかりだったから。
しかし、実際に戦う所を目にしたら嫌でも気付く、こいつは化け物だ。魔術師でありながら前衛をこなし、後衛を気遣い、その上で作戦を立てて、指揮までとる。
だが、そんなサンドラでもあいつはダメだ。あのドラゴンは絶対に勝てない。まるで存在感が違う。
しかし、サンドラはそんな俺の心配を吹き飛ばす。
「大丈夫だ、エルド。今から本気を出す。それに巻き込まれないように逃げろ!}
なんと、あいつはこう言ったのだ。ドラゴンから逃げろと言ったのではなかった、自身の攻撃の流れ弾から逃げろと、そう言ったのだ。
俺は理解した。こいつはさっきまではまるで本気を出してはいなかったのだ。厳密には俺たちに攻撃が当たらないように慎重に攻撃していたのだ。思い返すと最初の爆発魔術の後から手加減していたのだろう。
だから俺は逃げる決心をした。
「分かった、絶対に死ぬなよ」
俺がそう言うと俺達は一斉に駆け出した。
「ふっ。当たり前だろ」
俺は最後に聞こえた。「魔人化」と。そして、その声が聞こえると次の瞬間には辺りに別の更に強力なドラゴンが現れたかのような威圧感を感じた。それでも走った。ずっと。ダンジョンを出ても足を止めずにギルドに向かった。
「はぁっ、はぁっ。ギルド長、大変だ。ダンジョン内部にドラゴンがいた。現在、サンドラが一人で交戦中だ」
「何?」
ギルドに動揺が走る。
「お願いだ。助っ人を呼んでくれ。俺たちは足手まといにしかならなかった」
「しかし、ここら辺でSランク冒険者なんか……」
俺らが慌てているとギルドの扉が開いた。
「大丈夫だ。もう倒した。これが討伐部位だ」
と、サンドラが現れた。
「お、お前どうしてここに。それに倒した、え?」
俺は理解できなかった。あの一瞬で倒してここに戻ってきたと言うのか?しかし、討伐部位もある。
「と、とりあえず、全員ギルド長の部屋に来てくれ。詳しい話はそこで聞く」
サンドラの話では討伐後、調査を試みたが派手に暴れたために現場では何も分からなかったとのこと。だが、ドラゴンと戦った時の意見としてどうも自然に生まれた感じではなく、何者かによって作られた可能性があるらしい。詳しくは分からなかったが魔力の流れに違和感があったらしい。
「と、とりあえず。討伐ご苦労様だった。感謝する。詳しいことは、この後に領主に相談してから決める」
「ああ、分かった」
「それと今回のことでサンドラはSランクに昇格だ」
「了解だ」
「あれ?もっと驚かないのか?」
「ランクにあんまり興味ない」
「そうか。しかしドラゴン討伐にSランク冒険者の誕生だ。しばらく拘束されると思った方がいいぞ」
ギルド長がそう言うとサンドラは顔をしかめていた。
俺たちはギルドを後にした。
「サンドラ、今日は助けてくれありがとうな」
「別に助けたとかじゃ…」
「それでもだ、ありがとう」
「まあ、受け取っておく」
その後、俺たちも領主に呼ばれて感謝を告げられることとなった。
そして、サンドラは改めてSランク冒険者として宣言を受けたのであった。
俺もいつの日かサンドラと同じSランク冒険者になってやるぞ!
途中で視点が変わったのはまだ本編で出てきていないサンドラの能力が出てくる場面だったからです。決してサンドラVSドラゴンを書くのがめんどくさいからではないです。…本当ですよ。
これにて一章終了です。今まで読んでくださり本当にありがとうございます。次からは二章、ヒサメとサンドラの旅が始まります。これからもよろしくお願いします。




