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8 ボートレースとかき氷

「有紗! こっちこっち」


「ごめん、奈津」


 私は慌てて救命胴衣を付け、青いビブスを被った。メンバーは五名、四人がオールを漕ぎ一人はコックスという声掛けのポジションだ。ボートに乗り込み、合図を待つ。そしてピストルの音で一斉にスタートだ。


「キャッチ、ロー、 キャッチ、ロー」


 掛け声に合わせて重いオールを動かす。岸を離れると浜辺の音楽や声援が聞こえなくなり、私たちだけの世界になる。

 キャッチ、ロー、キャッチ、ロー。滑るように進んでいくボート。

 ああ、私、青春してるなあ。そんな風に考えているうちに、ふいに音のある世界に戻ってきた。いつの間にかゴールしていたのだ。


 美佳たちが「お疲れ!」と笑っている。残念ながら私たちのボートは予選で敗れ決勝に進めなかったが、心地よい達成感に包まれていた。


 ボートを降りて浜辺に戻ると、クラスのみんなが拍手で出迎えてくれた。山岸くんも拍手してくれていて、しかも私の麦わらを頭に被っているではないか。


「山岸くん帽子ありがと! めっちゃ似合うやん」


「ああ、これな? メガホンで両手が塞がるから被ってたんよ。ごめんごめん」


 そう言うと麦わらを片手で外し、私の頭にポンと載せて被せてくれた。


「惜しかったけど、和辻さんらカッコよかったよ」


 山岸くんは男子ボートの応援をしに、みんなのところに戻って行った。私は山岸くんの温もりが残る麦わら帽子のツバを、風に飛ばされないようにぎゅっと握り締めていた。


「ちょっとちょっと、有紗! いい感じやん!」


 美佳と真衣子が走り寄ってきた。


「ありがとう。二人のおかげよ」


「山岸くんの麦わら姿、バッチリ盗撮しといたから〜! 楽しみにしとき〜!」


「うそ、マジ? ありがとう真衣子ー!」


 私は真衣子に抱きつき、暑いから離れろと言われてもずっとハグしつづけていた。




 午前中は各学年のボート予選が続き、勝ち残った組だけが午後のレースに出場する。

 七組の男子は決勝に残ったし、青雲グループは他にもまあまあの成績を残していた。午後からの決勝が楽しみだ。

 ここで昼休み。レジャーシートを敷いての楽しいお弁当タイム。とはいえ、あまりの暑さに食欲はほぼないのだけれど。


「はーい! 1-7、集まれー!」


 午後の部の前に各クラスはホームルーム活動というものをそれぞれやる。相撲大会だったりフルーツバスケットだったり、クラスの親睦を深めるために工夫を凝らすのだ。


 うちのクラスはかき氷をやることになっている。ホームルーム活動担当がクーラーボックスに氷、家から持ってきた手動のかき氷機を四台も用意して振る舞ってくれた。イチゴとカルピスとブルーハワイ。好きなシロップをかけてもらって浜辺で食べるかき氷の最高なことと言ったらない。


「奈津、ほら見て」


「あ、有紗、ベロが青やん! 私はねえ、赤!」


 美佳と真衣子も一緒に見せ合って笑っていると、山岸くんと坂口くんが通りすがりにべーって舌を出していった。


「あー、二人とも青ーい!」


 おんなじ色だ。それを見せてくれたのがまた嬉しくて、麦わら帽子を深く被って目線を隠しながら二人の後ろ姿をずっと目で追い続けた。





 さて、午後の最初の競技はビーチフラッグだ。山岸くんを堂々と応援できる機会だもの、頑張らなくちゃ。


 ビーチフラッグには七組から三人出場した。かき氷のおかげですっかり仲良くなっている私たちクラスは、全員で声を合わせて応援した。


「山岸、頑張れよー!」


 うつ伏せで準備している山岸くん。ピストルの音で跳ね起き、振り向いてダッシュする。


「やった! 一番反応がいいよ!」


 でも最後まで気は抜けない。旗を取った者が勝者なのだから。

 ゴール前、後ろから飛び込んできた男子より一瞬速く山岸くんの手が砂浜に立ててある旗をもぎ取った。


「青雲!」


 アナウンスが響いた。砂だらけの山岸くんは私たちに向かって旗を振り上げ、ニッと笑った。

 その時、一瞬私と目が合った気がしたのはきっと、私の勘違いだろう。だって、私の瞳にはもうバイアスがかかってしまっているから。山岸くんに関しては自分の都合の良いように変換してしまう。


「やったー! 山岸くんカッコいいー!」


 盛り上がるクラスメイト。出場した三人中二人が旗を取り、私たち七組は青雲の得点に貢献できたに違いない。そのまま、他の学年の応援も気合を入れて頑張る私たちだった。

 


 そしていよいよ最終競技であるボート決勝が行われた。応援の声は最高潮に盛り上がる。一年生のボートは負けてしまったが、二、三年生の頑張りで青雲はボート競技一位を勝ち取った。総得点でも青雲がぶっちぎりの一位となり見事優勝だ。


「よっしゃあああ――!」


 グループ長の叫びが響き渡る。もちろん、私たちも大はしゃぎだ。向こうで山岸くんがメガホンを叩いているのが見える。本当に楽しそうな笑顔だ。


 山岸くんは目が大きいのに笑うと目がなくなるんだ。いつもはちょっと微笑む程度だけど、こういうイベントの時は大きく口を開けて大笑いをしている。そんな笑顔を見るのが好き。


(もうダメだ。いつの間にこんなに好きになったんだろう。今さらこの気持ち止められないよ)


 泣きそうになりながらずっと見つめていると、ふと山岸くんと目が合った。

 咄嗟に、両手で顔の横にピースを作り、ふざけた顔をして見せた。そしたら山岸くんも私と同じポーズを作って、変な顔をして返してきた。あのクールな山岸くんが。


(どうしよう、嬉しい)


 決めた。いつかきっと告白しよう。

 だって、私の気持ちを伝えたいんだもの。後悔なんかしたくないから。





 

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