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7 太陽と麦わら帽子

 そして7月に入った。夏休みが近づいてくるというウキウキそわそわした雰囲気が学校のいたるところに漂っている。

 もちろんその間に定期考査があったり模試があったり、学生としての本分も頑張ったのだけど。


 ところで7月といえば、ボート大会というとっても楽しい行事があるのだ!


 ボート大会とは、海へ行ってボート競争をしたり、ビーチフラッグをしたりというイベントだ。もちろんこの時も応援合戦はあり、得点を各グループで競い合う。水着で泳ぐことは出来ないけれど、一日中海辺で遊べるという素晴らし過ぎる行事だ。


 ただ、嫌な点がひとつある。海までは、公共の乗り物で行かなければならないこと。そして、全員が着替えられるような更衣室がないので、家から体操服で行かなければならないのだ。(白い半袖に緑色のハーフパンツ。男女同じ)

 電車に体操服で乗るなんて拷問か……と思うのだけど、田舎ゆえ電車の本数は少なくほとんどの生徒が同じ電車に乗ることになるので、数の力で恥ずかしさは多少薄れる。私も奈津たちと待ち合わせ、一緒に海行きの電車に乗り込んだ。


「体操服やなくて、せめてクラスTシャツにさせて欲しいよねえ」


「ほんとほんと。都会じゃ絶対ありえんよね」


 私たち四人は揃いの麦わら帽子を紙袋に入れて持っていた。これまたうちの学校の伝統で、ボート大会の時には女子は飾りのついた麦わらを被るのだ。一体感と日焼け防止の一石二鳥ということらしい。

 なので先週の放課後、百均で買ってきた花やぬいぐるみの飾りを思い思いに接着剤で貼り、グループのカラーである青いリボンもつけて仕上げたのだ。

 作ってる時はノリノリで派手に飾りつけた私たち。でも家に帰って冷静に見てみると少し冷や汗が出た。


「これ被るの勇気いりそう。海でなら平気になるんかねえ」


「潮の香りと強い日差しでなんとかなるんよ、きっと」


 終点に着くと生徒たちがぞろぞろと降りた。砂浜にはもうたくさんの生徒が集まっている。ボートの準備はボート部の人たちがしてくれていた。



「わあ、いい天気」


「これは日焼けするなあ」


「ふっふっふ。みんな私みたいに黒くなればいい」


 年中テニス焼けの奈津がほくそ笑んだ。慌てて袋から麦わらを取り出し被る。


「あっ、青雲グループ集まれって言ってるよ」


 私たちは集合がかかっている場所へ急いだ。そこにはもう山岸くんは来ていた。


(背が高いせいもあるけど、どこにいてもすぐに見つけられるようになっちゃったな)


 私の特殊能力かと思ったけど、奈津たちに聞いたら自分の好きな人にはすぐに目が行くものだそうだ。恋をしたら誰でも身につく能力なのかもしれない。


 山岸くんは今日も坂口くんと一緒にいる。二人とも毎日の部活で奈津以上に真っ黒だ。


 ふと目が合ったので「おはよう」と言った。山岸くんは私の頭を指差して「すげえド派手な帽子!」と笑った。

 笑ってくれたのが嬉しくて、「すごいやろ。被ってみる?」と勧めてみたのだけど、丁重にお断りされてしまった。


 ボート大会でボートを漕ぐ選手になるのはとても人気があり、例年競争率が高い。クジで決めることになり運良く勝ち残った私は奈津と一緒に選手になった。

 山岸くんはクジに外れビーチフラッグに出ることに。もし彼もボートなら前日練習も一緒に行けたのになぁ……なんて、私は勝手に残念がっていた。

 



 ジリジリと焼けつく太陽の下、ボート大会は応援合戦で幕を開けた。暑い中で大声を張り上げて、私はもうフラフラだ。

 でも私たちは半袖短パンだからまだマシだろう。三年生は綺麗だけど暑そうな衣装を着て、歌いながら踊っているんだから。本当に凄いと思う。私たちも二年後にはこんなことができるんだろうか?


 朝の応援が終わるといよいよボート競技が始まる。一年生から順に集まるように言われ、私は麦わらを預かってもらおうと真衣子と美佳を探した。けれどあいにく、二人とも近くにいなかった。


(あれ、どこ行ったんだろう? これ預かってもらえないとボートに乗れないのに)


 キョロキョロ探していると山岸くんとぱちっと目が合った。


「和辻さん、誰か探しよん?」


「うん、真衣子たちにこれ預かってもらおうと思ってたんやけどね、おらんのよ」


 その時もう一度選手集合の笛が鳴った。


「俺、持っといてやるよ。行ってきな」


「あ、ありがとう! お願いします」


 ド派手な帽子を山岸くんに渡して集合場所に向かう。その途中で真衣子と美佳が人混みに隠れながら私に向けて親指を立てていた。


(ああ、そういうことね……! 二人、グッジョブ!)


 山岸くんと話すきっかけをくれたのだ。感謝しながら私は急いでスタート地点に走った。







 




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