表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/39

6 誘導尋問とガラガラ声

 借り物競走が終わって山岸くんと一緒にテントに戻っていくと、みんなが喜んで出迎えてくれた。


「有紗、速かったやん〜」


「山岸くんのおかげよ。めっちゃ速く走れた!」


「いやほんと、山岸くんもカッコ良かったよ!」


 真衣子が褒めると山岸くんはひょいと頭を下げ、すぐに坂口くんたちの方へ行ってしまった。


「ちょっと有紗、もしかして山岸のこと好きなんやないの?」


 私は真衣子、美佳、奈津に囲まれてコソコソと耳打ちされた。


「あっ、やっぱりそうだ。耳まで真っ赤になっとるや〜ん」


 三人が揶揄うように身体をぶつけてくる。


「えっ、なんでなんで?」


「だってさぁ、二人で座ってる時めっちゃ嬉しそうで甘々な顔してたんよ〜。あれは誰が見てもわかるわい」


「うそぉ。ホントにそんな顔してた?」


「あ。白状したな」


「うえーん。誘導尋問や」


 泣き真似する私を、三人はキャッキャと笑いながらハグしてくる。


「山岸か〜。心配ではあるけど、有紗なら可愛いけん顔直せなんて言われんやろ。大丈夫よ、告っちゃえ有紗」


「ちょ、ちょい待って。まだ自覚したばかりなんやもん。もっと友達として仲良くなりたいな、て思ってるんよ……」


「まあね。まだ高校生活は始まったばかりやもんね。有紗なら他にもええ人おるような気もするけど、好きになったんならしゃあないか。うん、頑張れ有紗。応援するよ!」


 奈津に背中をバシッと叩かれた。けっこう痛い。でも嬉しい。



 そして、いよいよ最後の競技、選抜リレーの時間だ。現時点で青雲グループの総得点は一位の黒龍グループと僅差の二位。選抜リレーで一位になれば逆転も可能だ。一年生から三年生までバトンを繋ぎ、アンカーは三年のグループ長と決まっている。各グループの応援も最高潮を迎えていた。


「行けー! 山岸!」


「山岸くん頑張ってー!」


 一番手で走る山岸くんに、グループ中から声援が飛んでいる。もちろん私も、誰よりも声を上げて応援している。

 青いビブスを着た山岸くんがスタートラインに並んだ。すごく気合の入った顔をしているせいか、やっぱり怒っているように見える。そしてピストルの音が鳴った。


「さあ、一斉にスタートです! おっと、青雲の選手が飛び出しました! これは速い! ぐんぐん加速していきます。二位は紫苑! すぐ後ろを黒龍です。少し遅れて紅蓮。さあ、この後どうなるのでしょうか!」


 放送部のアナウンスも熱を帯びている。山岸君が私たちの目の前に走ってきた。長いストライドで力強く地面を蹴り、コーナーを曲がって行く。二位との差がまた拡がり、私たちは歓声を上げた。


「山岸くーん! 頑張れー!」


 声の限り叫ぶ。こんなに大声で堂々と彼の名を呼ぶことが出来るなんて。私は何度も何度も叫んだ。そして次の選手である奈津にバトンが渡る。


「やったー! 一位よ!」


 先輩たちの声が聞こえる。


「奈津ーー! 行っけえーー!」


 差が少し縮まったが、奈津は一位をキープして次へ繋いだ。学校中の声援がうねるように空へ上っていく。順位に一喜一憂しながらついに、アンカーへバトンが回った。今、青雲は二位だ。一位の紫苑を抜かないと優勝は出来ない。


「さあ紫苑がこのまま逃げ切るか? それとも青雲、抜くことが出来るのか?青雲が迫ります。さあ、どうだーーーー」


 もつれあった二人がゴールに飛び込んだ。判定は……


「一着。紫苑です!」


 ああ……、とため息が青雲サイドに漏れる。だがすぐにそれは拍手に変わり、すべての選手の健闘を称えた。


「みんな頑張ったよ、すごかった」


 隣にいる真衣子に話し掛けた私の声はガラガラになっていた。


「何よ、有紗。変な声!」


 そう笑う真衣子の声もカスカスになっていた。それが可笑しくて、私たちはずっと笑い転げていた。


  表彰式が終わり、それぞれのクラスに戻ると自然な流れで集合写真を撮ることになった。黒板を背に、全員でピース。山岸くんは男子の端っこにいたので近くにはいけなかったけど、同じ写真に収まるという目標はこれで達成できた。


「じゃあクラスのグループラインに写真載せておくから!」


 尾崎君の言葉で解散となり、座席に戻ってきた山岸君に私は声をかけた。


「山岸君すごい速かったね。みんなの応援聞えた?」


(ああ、ガラガラ声なの忘れてた! 長州さんみたいな声で話し掛けちゃったよ)


「和辻さん、すごい声つぶれとるね」


 山岸君は目を丸くして驚いた顔で言った。


「そうなんよ。最後のリレーでつぶれました」


「応援ありがとう。和辻さんの声、すげー聞こえた」


「え……」


 私の声がわかったの? 嬉しくて言葉が出ない私に「じゃあ」と手を上げて彼は部活に向かった。


(やっぱり好き。大好き。こんな一言だけで、幸せで胸いっぱいになる)


 いつか山岸君の特別になりたい。なれたらいいな。それが私の願いになった。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ