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38 最終話 クリスマスデート

 時は流れ、街はすっかりクリスマス仕様だ。商店街の入り口には大きなツリーが飾られ、クリスマスソングが賑わいを盛り上げている。


 今年のクリスマスイブは嬉しいことに日曜日。奏多の練習が終わったら、デートすることができる。


 ……と思っていたのに、年内最後の練習試合が入ったんだって。しかも遠方。練習試合は朝から夕方までやるし、何時に帰ってくるかわからない。だから予定が立たないのだ。


(顧問の先生だってきっとクリスマスを家族や好きな人と過ごしたいはず。先生も可哀想なんだから恨んじゃダメ……)


 そう思いつつも肩を落とす私。


「ごめんな、有紗。今年は23日にデートしよっか」


「謝らなくていいよ。奏多のせいやないもん。来年は、イブにデートできるかもしれんしね」


「来年も一緒にいてくれるってこと?」


 奏多が上目遣いに私の顔を覗き込む。いつも思うけどその顔はあざとすぎる。イケメンなのに可愛いってどういうことなの、ほんとに。


 いつものように手を繋いでの帰り道。最近は、少し遠回りして大きな公園のベンチに座り、少しお喋りしてから帰っている。電車一本遅らせるだけだけど、私たちにとってとても大切な時間だ。


 

「寒くなったよねえ」


「そうやなぁ。年が明けたらもっと寒くなるな」


「初詣も一緒に行こうね」


「もちろん。夜は出られるん?」


「うーん、うちは夜は無理かも……電車も動いてないし」


 そうなのだ。私の住んでる町は最終電車が10時半、始発は6時。年末年始でもそれは変わらない。その時間に父が外出を許してくれるかというと……正直自信がない。


「じゃあ、元日の昼でええよ。元日がダメなら二日でもええし。有紗と行くのが俺にとっての初詣やから」


「ありがとー……」


 奏多はいつも私の家族の事情を考えてくれる。一人娘でちょっと過保護な我が家、もっとみんなみたいに夜の外出もしたいのだけれど、こればかりはしょうがない。

 来年はもう少し門限を遅くしてもらえるよう、母にも協力してもらって直談判するつもりだ。



 そして23日、待ちに待ったクリスマスデートの日。

 奏多の部活が終わったあと、15時に百貨店入り口で待ち合わせ。今日はお気に入りの白いふわふわニットとフレアスカート、ヒールの低いショートブーツで。


 散々悩んで用意したクリスマスプレゼントはストライプのマフラー。大きくて温かいから自転車通学にもいいだろうと思って。

 アクセサリーなんかも考えたけど、それはもっと好みが分かってからの方がいいかなと思ってやめた。クリスマスはまたくるし、誕生日だってあるしね!


 そうそう、ちなみに奏多の誕生日は夏休み中に終わってしまってたので、お祝いできるのは来年だ。私も、4月なので以下同文。


 これから二人のイベントが増えていくと思うと楽しみしかない。

 

 改札を抜けて少し歩いたところにある百貨店の中が待ち合わせ場所なんだけど、奏多は改札で待っていた。


「奏多! 寒いから中に入っててって言ったのに」


「改札抜けてくる有紗を見るのが好きやから。……今日もめっちゃ可愛い」


 照れてるのか寒いからなのかわからないけど、鼻の頭が赤い奏多。照れてるんだって思っておこう。


「あ、ありがと……良かったぁ」


 今日の奏多はグレーのダウンにグレーブルーのパーカー。寒色でまとめてて素敵。チラリと見える白Tが効いててオシャレ。


「奏多も、今日もカッコいいよ」


 奏多は私に手を差し出しながらクールに笑う。


「どうする、有紗? 百貨店の中に入る?」


「それより、二人で歩きたいな」


 人の多い商店街を通らずに、緑の多いお堀に沿って歩く。寒いけれど繋いだ手が温かい。


「有紗、進路志望の紙、冬休み明けに提出やろ? 有紗は理系だっけ」


 二年生になる時に、文系と理系でクラスが別れる。どちらを志望するかという紙を、親と相談して提出しなければならない。


「うん。私、歯医者になりたいから……奏多は?」


 私の父は歯医者の二代目だ。家の近くの県道沿いに医院があり、そこには祖父母が住んでいる。一人娘だから継ぎなさい、なんて言われたことは一度もないけれど、私は小さい頃から歯医者になることを決意していた。


「俺も理系に行く。建築系の学部に行きたいと思っとるから」


「じゃあ、もしかしたらまた同じクラスになれるかもね」


「だとええな。でも違うクラスになったとしても、しょっちゅう会いに行くから」


「うん、私も……」



 ゆっくりゆっくり、時間を惜しむように歩いてから予約していたカフェに入った。中は暖房が効いていて、冷えた体が急速に温まっていく。


「ここのパンケーキ、絵本の『ぐりとぐら』に出てくるパンケーキをモチーフにしてるんだよ」


 焼くのに20分かかるため個数制限があり、予約しておかないと食べられない。今日出掛けることが決まってすぐに、私はスマホで予約した。


 スマホで調べた感じではナチュラルな内装のカフェだったけど、さすがに今日はクリスマス仕様の飾り付けになっていた。緑と赤がとても可愛くて、さらに気分が盛り上がる。


 焼けるのを待ってる間にプレゼントを交換。


「あ……被っちゃったね」


「ほんまや。俺もマフラーにした」


 お互いに顔を見合わせて笑う。奏多がくれたのは水色とグレーのリバーシブルマフラー。巻くといいニュアンスが出てめちゃくちゃ可愛い。


「有紗に似合うと思ってさ……一人で買うのなかなか恥ずかしかったけど」


「嬉しい。ありがとう」


「俺も嬉しい。これ、学校で使ってもええの?」


「もちろん! 通学の時に温かいと思って買ったんやもん」


 ちょうどパンケーキが焼き上がり運ばれてきた。

 切り株を利用したトレイの上に鉄製の小さなフライパン。そこからはみ出んばかりにふくらんだパンケーキはまさに『ぐりとぐら』だ。割れ目にバターが乗せられじゅわっと溶け出した上に粉砂糖がまぶされていて、とても美味しそう。

 ふかっとしたケーキにナイフを入れるとしゅわしゅわと空気が抜けていく。口に入れると軽くってほんのり甘くって、何もつけなくても十分なほど。

 別添えされたクリーム&バニラアイスは甘すぎずさっぱりしていて、ケーキにつけてもくどくならない。その上からメープルシロップをかけるとさらに美味しくなる。


「美味しいー! ね、奏多。美味しいよね」


「そうやな。大きいけど軽いからぺろっといけるな」


 奏多がホントに美味しそうに食べてくれているので、この店にして良かったぁ、と嬉しくなる。


「ねぇ奏多。これからもずーっとこうして美味しいもの食べたり綺麗なもの見たり、並んで歩いたりしたいね」


「……それはプロポーズってことでいいですか」


「え? あ! ほんとだ」


 焦ってあたふたする私の手にそっと奏多は手を重ねる。そして目だけは楽しそうにおどけているけれど、ぺこりと頭を下げて言う。


「よろしくお願いします」


(よろしくされちゃった! あれ? 気がつかないうちにプロポーズ成功したってこと?)


 奏多は蕩けそうに甘い微笑みを浮かべて私を見てる。この顔は、私の前でしか見せない。私だけの奏多だ。



 カフェを出るともう暗くなっていた。夏はあんなにも日が長かったのに。もう、駅に向けて帰らなければならない。


 私たちは自然と公園のほうへ歩いて行った。いつも学校帰りに寄っている公園。緑が多いこの公園にも、今日明日だけはイルミネーションが点灯しているはず。


「あ、あった」


 公園の中央にある手頃な大きさの木に飾り付けがしてあった。その飾りは実はみかんの皮でできている。我が県の名産である温州みかんの皮を乾燥させて丸く形づくり、LEDの電球を中に入れてオーナメントにしているのだ。

 都会でよく見るような派手な電飾ではないけれど、オレンジ色の光が温かい、手作り感いっぱいの可愛いらしいツリーだ。


「ロマンチックな感じはしないねぇ」


「そうやなぁ。ほのぼのって感じや」


 広い公園内にはベンチが点在していて、座っているカップルも多い。私たちも隅っこのベンチに腰を下ろし、寒いからぴったり身体を寄せて座った。


「大丈夫? 寒くないか、有紗」


「引っ付いてるから大丈夫。奏多は?」


「寒さは大丈夫やけど、理性がどっか行きそう」


「?」


 奏多は見上げる私の顔をじっと見つめて。


「俺、有紗の顔ほんとに好きだ……もちろん、性格も全部好きやけど、顔がめちゃくちゃ好み。あくびしててもしかめ面してても、どんな顔してても可愛い」


「ええっ」


 急な告白にドキドキしてしまう。そんなに褒められるの、慣れてないもの。


「わ、私だってそうだよ。最初からカッコいいと思ってたし声も大好きだし、優しいところも二人きりの時はいたずら好きなところも、奏多の全部が好き」


 私が言い終わると沈黙が訪れた。奏多は優しい顔をして私を見つめている。その瞳から目を逸らせない。

 そっと奏多の顔が近付いてきた。甘い予感に目を閉じると、ほんの微かに唇に温かい何かが触れた。


「有紗……」


 奏多が呟く。ああでも、初めてのキスなのにあまりにも一瞬の出来事だったからよくわからなかった。


「奏多、もう一回……」


 そうお願いすると奏多は、有紗可愛いすぎ、と俯いた。そして今度は肩を軽く抱いて引き寄せて、少し長いキス。唇が重なっただけなのに、奏多と一つになったような気がするのはなぜだろう。


「……ふぁっ……」


 息をするのを忘れていて、変な声が出てしまった。そんな私を笑ったりせず、奏多が抱きしめる。大きな私でもすっぽりと包まれるのは奏多の背が高いから。

 そして、大好きな低い声が耳元で囁く。


「有紗、一生大事にする。ちゃんとしたプロポーズはまた大人になったらするけど、有紗の隣はもう俺だけにして」


「うん。もうずっと、奏多だけだよ」


 奏多の言葉が宝物のように胸に響く。最初は無口な人だと思っていたのに、こんなにたくさん素敵な言葉をくれる人だったなんて、嬉しい誤算だ。


(奏多、大好き。あなたとずっとずっと一緒にいたい)


 クールな奏多の温かい腕の中で、私は世界一幸せな女の子になった。






(完)



〜〜〜〜〜


最後までお読みいただきありがとうございました!





 







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