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27 奏多Side4

 あの日、緊張して登校した俺に、隣の席の女子が明るく話しかけてきた。


「おはよう、山岸くん。私は隣の席の和辻です。よろしく」


 思いがけない状況に俺は対応し切れず、軽く頷くだけしか出来なかった。そんな自分が不甲斐なく、とりあえずイヤホンで外界をシャットアウトする。


(何やってんだ。これじゃあ中学生と変わらない)


 挨拶してくれた和辻という子は前の席の女子と話している。確か、あれは西中のテニス部にいた女子だ。だとすると俺の噂も知ってるかもしれない。

 そんなことを考えながら机に突っ伏したままひたすら寝たふりをしていた。


 テニス部に入った俺は同じクラスの坂口と仲良くなった。テニスも上手いし勉強も出来る。不思議な雰囲気を持った奴で、絶対、只者じゃない。

 のほほんとした坂口と一緒にいるお陰で、クラスでも部活でも男子とはすんなり馴染むことが出来た。これなら高校生活スタートとしては上々だ。女子と話せないくらい、別に気に病むことではない。


 だけど、こんな俺にも和辻はいつも朝の挨拶をしてくれる。資料集を忘れた時も嫌がらずに見せてくれたし、テニスの話もしてくれた。俺の練習を見たと言ってくれたのが嬉しかった。

 

 和辻は身長が高い。百六十後半くらいだろうか? 姿勢が良く、立ち姿が綺麗だ。ストレートの黒髪がサラサラ揺れるのもいい。いつしか、彼女の姿がどこにいても目にとまるようになっていた。


 グループの応援練習も始まり、クラスの雰囲気が盛り上がってきた。和辻はいつも楽しそうだ。見ているこちらが元気をもらえそうな、そんな笑顔。


 リレー大会の日は、揃いのTシャツを着て応援で大声を張り上げた。行事に無関心・無感動だった中学時代の自分が嘘みたいだ。みんなで熱くなるのがこんなに気持ちがいいと初めて知った。


 そして競技が始まり、借り物競走に和辻が出場するのをみんなで声援を送りながら見ていた。

 スタートの合図が鳴り彼女は俺たちが座っているところへ走って来て――思い込みかもしれないが目が合って――そして、


「山岸くん!」


 俺の名前を呼んだんだ。その瞬間、考えるより早く身体が動いていた。彼女の伸ばした手を握るのは照れ臭くて、手首を掴んで走り出した。


 二人でゴールテープを切った瞬間――ああ、俺はこの子が好きなんだ。そう思った。


 ーー凛々花のことを話し終わると、坂口はうーん、なるほど、と言った。


「なんかしら拗らせてるんだねぇ。プライドが高すぎて素直になれんってとこかな。ま、彼女には彼女なりの理由があるんかもしれんけど、相手にしないほうがいいよ、山岸」


「もちろん。ただ、あいつが有紗に」


「んん? 有紗? もう名前で呼ぶようになったんか〜!」


「ちょっと坂口、今そこ突っ込むとこか⁈」


「いやいや、これは突っ込んどかなきゃ。で、和辻さんに何?」


「や、あいつがさ。有紗に何かするんじゃないかって、それが心配で」


「うーん、それは心配しなくても大丈夫やない? まさか暴力振るうってことはないでしょ」


「そうだな。まあそこまではない……か。でも有紗にこの件はちゃんと話しておかないといかんな」


「そうやね。それがいいかも。何も知らない和辻さんにいきなり接触されたら困るよね」


「ああ。ありがとな、坂口。いろいろ聞いてくれて」


 坂口はユラユラと身体を揺らして笑った。


「じゃあそろそろお暇しよーかなあ。明日も試合だし」


「そうやな。試合も近いし頑張らなきゃな」


「ダブルス、絶対県大会に行こうな」


 いつも笑っている坂口が、その時だけは真剣な目をしていた。もちろん俺も同じ気持ちだ。


 テニスも恋も友情も充実してる。今が人生で一番楽しい、と俺は思った。






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