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26 奏多side3

 それからさらに事態は悪くなった。女子だけでなく男子からも無視されるようになったし、他の中学にまで噂がばら撒かれた。俺はもうどうでもいいと思い、何もせずに放っておいた。


 悪いことは重なるもので、その頃、入退院を繰り返していた母が死んだ。母の病気がわかってからこの町に引っ越し、一進一退を繰り返しながら頑張ってくれていた母。家に戻れた時にはいつも優しく笑って俺の話を聞いてくれていた。


 そんな母の死は俺にとって辛く悲しいものだった。だが誰かに聞いてもらいたくとも凛々花たちの報復が怖くて俺と喋ってくれる人は誰もいない。孤独だった。


 だからこそ、テニスと勉強に打ち込んだ。あと半年耐えれば新しい環境に変わる。それまでの我慢だ。そう信じて受験を乗り越え、志望校に受かることが出来た。県でも有数の進学校だ。


 卒業式の翌日が公立の合格発表だった。

 一人で発表を見に行き、結果に安堵して帰宅したちょうどその時、凛々花も帰って来たようで門の前で出くわしてしまった。


 そのまま、家に入ろうとした俺を凛々花が呼び止める。


「山岸。合格してたん?」


 ずっと無視していたのに突然話しかけてきたので驚いたが、平静を装って短い返事をする。


「ああ」


「あっそ。良かったやん。私は落ちたから滑り止め行くわ。まあどうせ、高校でも遊びたかったし、ちょうどええ」


「そっか」


 まだ話があるのだろうか。凛々花は家に入ろうとしない。俺はじゃあ、と言って立ち去ろうとした。


「あ、山岸。あのさー」


 昨日の卒業式までずっと無視していたくせに、今さら何なんだ。ちょっとイラッとした俺は少し顔に出してしまったかもしれない。


「何?」


「いや、えっと。今からさ、うちで卒業パーティーやるんよ。アカリやレイナ、ケント、タツローとか他にもたくさん来る。山岸も()ん?」


 俺は呆れてしまった。そいつらはいつも凛々花と一緒にいたグループで、俺を無視したりからかったりしていた奴らだ。卒業してまで、まだ虐げようとしているのか。


「悪いけど俺はもう中学の奴らとは付き合わないから」


 強めにそう言うと凛々花は一瞬悲しそうな顔をして、それからいつものように強気な言葉を発した。


「あっそう! せっかく仲間に入れてやろうと思ったのに可愛げないわ! もう知らん! あんたなんかずっと拗ねたまんまでおったらええ。同窓会も成人式も絶対に()んなよ!」


 ガシャンと大きな音で門を開けると、同じく大きな音を立てて閉め、ドタドタと玄関へ姿を消した。


(何なんだ、まったく……)


 それから春休み中は毎日のように凛々花の部屋から大騒ぎする声が聞こえた。昼はどこかに遊びに行き、夜は凛々花の家で騒ぐのがお決まりのようだ。時々、男のふざけた声で


「山岸ぃ〜! 顔を直して来いよ〜」


とこっちに向けて叫ぶこともあった。キャハハと笑う女子たちの声。イライラする。


(高校に行っても女子と話すなんて出来そうもないな。嫌な思いばかりしたから……)


 とにかくテニスと勉強をしっかりやろう。友達なんて出来なくてもいい。高校を卒業したら絶対に他県の大学に進学してここから離れてやる。隣の凛々花とずっと顔を合わせるなんて御免だ。


 そして入学式の日、隣の席になったのが――和辻有紗だった。






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