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25 奏多side2

「俺が見た限りではあの子、山岸のこと好きみたいなんやけどねぇ。それにしてはわざわざ嫌われに来てるみたいだし、不思議」


 俺もそれは感じていた。ずっと、あいつからは嫌われていると思っていたのに、なぜか急に好意を示し始めて。なのに断るとまた悪態をつく。どういう感情なんだろう。


「何があったか教えてくれる?」


「ああ……俺は、小学五年の時にこの家に引っ越してきた」


 ーー凜々花とはそれからの仲だから、幼馴染という程長い付き合いではない。


 その頃の俺は男子の中で一、二を争う背の小ささだった。運動も勉強もたいして出来ず、かと言って面白いことが言える奴でもなく、クラスの女子からはすぐに『対象外』の烙印が押された。


 一方の凜々花は勝ち気な性格で勉強もスポーツも出来て、クラスの中心人物だった。


「せっかく隣に同級生が越してきたのに、あんな奴やったらおらん方がマシ」


 そう言ってるのを聞いたことがある。


 凜々花の兄は三歳上のちょっと道を逸れたヤンキーっぽい奴。でも小学生をビビらすには充分だった。その兄の威光を笠に着て、凜々花は女王様として振舞っていたようだ。


 中学に進んでも凜々花の女王振りは変わらず、カーストトップとして君臨し続け、派手な奴らといつも一緒にいた。

 俺は相変わらずチビで目立たず凜々花からは全く関心を持たれなかったし、無関係なまま平和な日々を送っていた。中学二年の半ばまでは。


 その頃から俺の身長は急に伸び始めた。三年になっても伸びは止まらず、それとともにテニスも急に上達していった。引っ越す前からやっていたテニスをもっと上手くなりたくて、ずっと努力を続けてきた成果がやっと現れ始めたのだ。同時に学業の方も上がり始め、成績が上位に入ってくるようになった。


 すると急に女子の態度が変わった。話しかけてくる子が増え、廊下を歩くと付いてくる。下級生からは黄色い歓声が上がった。ファンクラブも出来た、と噂で聞いた。

 正直言って鬱陶しかった。背が伸びたくらいで態度を変えるなんて薄っぺらい、と意固地になっていたのもある。


 そして総体に向けて必死で練習していた時にあの一件が起こったのだ。

『顔を直してこい』は確かにひどいと思う。だが俺がそれを知ったのは何日か後で、謝ろうにも謝る相手がわからないうちに女子の態度は硬化した。そして完全無視になったのだ。

 休み時間や放課後だけではなく、授業中ですら無視だった。用事があって声をかけても無視されるのはしんどいものがあった。


 そんな中、話し掛けてきたのがーー凜々花だった。


「山岸ぃ。大変な目に遭ってるやん」


 茶色い髪を指で弄びながら凜々花は自分の家の門に立って俺を待っていた。


「別に」


 そのまま通り過ぎようとする俺の前に凜々花は立ちはだかった。


「あたし知ってるよ。顔直して来いってあんたのファンクラブに言ったんは、ほんとは長谷川やろ?」


 俺は何も言わず黙っていた。確かにあの台詞を言ったのは長谷川だ。だけどそもそも俺が追い返してくれって頼んだのだから、俺にも非がある。


「でもみんな誤解してキーキー言ってるやん? 私ならそれ、なんとか出来るよ」


「なんとかって?」


「あれは長谷川が悪いんやって説明する。山岸は悪くないってさあ」


「そんなことしたら今度は長谷川が無視されるやろ。ええよ、別にこのままで」


「大丈夫よ。その辺はちゃんとうまく話すわ。山岸も長谷川もシカトされんようにな。でもそんかわり」


 凜々花は俺の腕に抱きついて、甘えるように見上げてきた。


「私と付き()うてや」


「付き合う?!」


「そう。別にちょっとだけでもええよ。山岸、他の中学でもイケメンって言われてるし、付き合ったら自慢になるやん。まさかあのチビの山岸がこんなイケメンになるなんて思わんかったけどねえ」


「ごめん。俺、付き合うとかはちょっと無理」


「何よ~。そんな真面目に受け取らんでええんよ。軽く付き合うだけやん。合わんかったらすぐに別れたらええし。今までの私の最短交際期間、一日なんよ」


 凜々花はケラケラと笑う。本気なのか冗談なのか、俺にはわからなかった。


「それでも、俺は無理や。付き合うのは好きな人とやないと」


「はあ?」


 凜々花の顔は急に険しくなった。眉間に皺を寄せ、パッと俺の腕から離れると両手でドンと押してきた。


「むかつく。山岸のくせに。もう知らんし。一生、みんなから無視されとけばええわ」


 そう言うと足音も荒く玄関へ向かい、バタンと大きな音を立ててドアを閉めた。





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