24 奏多 Side1
後夜祭が終わり、有紗を駅まで送ってから自転車に乗った。お互い離れがたくて電車を一本遅らせてしまったけれど、流石に家族が心配しているだろうと改札で見送った。
電車がホームを出て行ったあと、俺もようやく帰路についた。ここから自転車で20分、いつもならだるく感じる道のりだが、有紗に好きだと言ってもらえた嬉しさでペダルが軽い。
「あれ? 坂口、来てたのか」
俺の家の前で自転車を止め、スマホを見ている坂口。
「おっかえり〜。その顔は、上手くいった顔だな?」
「……まぁな。入れよ、坂口。メシ、まだだろ?」
「やったね〜、お邪魔しま〜す」
いつも通り、気の抜ける喋り方。でもそれは、頭の良さを隠すための世渡り術だと俺は知っている。大した努力も見せずに何でも器用にこなしてしまう坂口は、ともすると妬みの対象になってしまうのだ。
鞄から鍵を取り出し玄関を開ける。締め切った家の中はムッとする匂いが籠っていた。
「ちょっと換気してくるから」
中に入り、リビングや台所、二階まで窓を開け放し空気を入れ替える。
坂口はさっさと靴を脱いで中に入り、慣れた様子で仏壇に手を合わせた。俺は冷蔵庫からコーラのペットボトルを取り出し、グラスと一緒に坂口に渡す。
「ちょっと飯作るから、部屋上がっといて」
「はいよ〜」
鮭フレークとコーンをバターで炒め、醤油と塩胡椒で味付け。炒飯をサッと仕上げると一皿はラップをかけてテーブルに置いた。これは夜勤明けの親父の食事だ。
残りの炒飯を持って部屋に入ると坂口はスマホで漫画を読んでいた。話題の漫画はほぼ読んでいる坂口だが、それでいて成績は上位をキープしているんだから恐れ入る。
「お待たせ」
「いい匂いやな〜。山岸、いいお婿さんになれらい」
「簡単なもんしか作れんぞ。味も保証せん」
坂口はパッと一口食べて笑顔を見せた。
「味が濃いくて美味い! これぞ男飯よな。で、どう? 上手く行ったんデショ」
「うん、まあ。恥ずかしいから詳しくは言わん」
「え〜ケチ〜。いろいろキッカケ作ってやったやんかぁ」
「……さんきゅ」
素直に礼を言うと坂口はニコッと笑って体をユラユラ揺らした。嬉しい時の癖だ。
「へへ。どういたしまして」
ちょうどその時、俺のスマホがピコンと鳴った。
「あ。和辻サンじゃね?」
パッとスマホを見る。有紗のLIMEだ。
『家に着きました』
『今日はありがとう。すごく幸せ』
こんな会話が出来るようになったのが嬉しい。すぐに返信する。
『こちらこそ』
『連絡ありがとう。今、坂口来てるからまたあとで連絡する』
それからスタンプを一往復して会話は終わった。
「俺のことなんか気にせんと、会話していいのに〜」
「まだ、ひと言送るだけでも緊張するからさ」
「ふ〜ん。初々しいのぅ」
開け放した窓から、隣の家の笑い声が聞えてきた。今日も凜々花は友人と騒いでるんだろう。俺は窓とカーテンを閉め、エアコンのスイッチを入れた。
「で、あの子は結局何しに来たんかねぇ?」
炒飯を食べ終わった坂口がスプーンで隣を指しながら聞く。
「さぁな。俺にはあいつのことは全くわからん」
今日、俺が有紗との約束に遅れた理由は凛々花だ。靴箱の前で待ち伏せしていた凛々花が俺の前に立ちはだかり、邪魔してきたのだ。
『もう終わったんやろ? 体育祭。一緒に帰ろ』
『いや、これから後夜祭やし』
『じゃあ、それが終わってからでいいよ。待っとる』
『俺、一緒に帰る人おるから。お前に待たれても知らん』
『……ええの? あたしにそんなこと言って。また高校でも女子から嫌われることになるよ』
何を言ってるんだ、こいつは。あまりの訳わからなさにイラっとした。
『知るか。お前には関係ない。さっさと帰れ』
すると凛々花は眉を吊り上げ、後悔すんなよ、と言い残して立ち去った。俺は腹が立ってしょうがなくて、坂口に肩を叩かれるまでずっと拳を握り締めていた。




