21 差し入れと私の決意
どのくらい視線を合わせていただろう。体感は長かったけど、たぶん10秒も経ってないはず。
目を逸らしたら負けな気がして私もずっと彼女を見続けていた。
「有紗! 次、一年の組体操だよ!」
奈津が呼びに来るまでずっと、そのままでいた私。
「どしたん? ぼーっとして」
「あ、ううん、今そこにね」
奈津に彼女の存在を教えようと振り向いた時には、もうその姿はなかった。
「はよ行こ! 並ばないと」
急かされて一緒に入場門へ走る。その間ずっと、私の胸はざわついたままだった。
(あの人、山岸くんのこと好きなんだよね……ただの幼馴染だって山岸くんは思っていても、相手はそうじゃないってこと)
ちらりと男子が山の演技しているほうを見る。山岸くんは背が高いから、土台の部分にいる。私たち女子は並んで手を組み、海を表現中。
(今もきっと、どこかから山岸くんを見ているんだろうな。やっぱり今日、絶対に告白しよう。絶対に……)
集中できないままに組体操が終わり、午前中の一年生の演目は終わった。このあとは昼休憩だ。
(お弁当は教室に戻って食べるから、山岸くんが彼女に会うことはない、はず)
そう思っていたけれど甘かった。
「ただ今より1時間の昼休憩です。三年生はグラウンド劇の準備をお願いします」
放送部のアナウンスで私たちはぞろぞろと校舎へ向かう。その途中で母が手を振っていた。
「有紗! お弁当よ〜」
「お母さん! ありがと」
「有紗の勇姿、バッチリビデオに収めたからね♪」
照れ笑いしながらお弁当を受け取る。周りにもそんな子はたくさんいた。そんな中で。
「奏多!」
可愛らしい高い声が響く。あの子だ。
「あ、じゃあ私もう行くね、お母さん。ありがと!」
母に手を振り、教室へ急ぐ……ふりをして、声のした方へ向かった。
あの子が山岸くんに何か渡している。隣には、竹取りの時にもいた紫苑グループの、須藤さん。彼女も山岸くんと同じ中学なのだ。
「いいって。弁当は作ってきてるし、いらん」
「いいやん、せっかく持ってきたのに。『アンドレア』のサンドイッチやし、間違いないやろ。これ食べて午後も頑張って!」
山岸くんに無理やり渡すと、そのままダッシュでどこかへ走って行った。
「山岸ぃ、可愛い子やん。彼女かぁ?」
どこかのクラスの男子がからかう。
「違うって。同じ中学なだけ」
「同じ中学ってだけで差し入れなんか持ってくるかよー」
「違うよ〜、山岸は何とも思ってないんだって〜」
坂口くんが助け舟を出している。
「ほんまにー? それにしてもあんな可愛い子に片想いされて揺らがんとは、お前すげぇな」
「……別に。片想いなんてされてないし」
少し苛立った様子の山岸くん。そのまま坂口くんに肩を抱かれて歩いて行ってしまった。
教室に入ると奈津たちがこっちこっち、と手を振る。クーラーがついているので校舎の中は涼しい。
「はよ食べよ~有紗。お腹空いたわ」
「ごめんごめん、待たせちゃった」
ちらりと山岸くんのほうを見ると、坂口くんたちとお弁当を食べていた。さっきの差し入れは、坂口くんの机の上に置いてある。
(坂口くんにあげたのかな……)
「どしたん~、有紗? 顔が暗いぞっ」
(いけない、心配させてるな。そうよ、せっかくの体育祭なんだからこんなこと気にしないで楽しまなきゃ。後夜祭だってあるんだし)
「ごめんね、真衣子。暑すぎてぼーっとしてたみたい」
「ふふ〜ん、さっきのお姫様抱っこの余韻にやられてるんやないの~?」
そうだった。さっきの距離の近さを思い出して私は急に暑くなってきた。首に手を回してぴったり引っ付いて山岸くんの呼吸をすぐ近くで感じて……。
「ほら。もう、真っ赤じゃん」
三人にからかわれるけどそれも嬉しい。
(決めた。もうあの子のことは気にしない。私は今日という日を楽しむ)




