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15 竹取りと見知らぬ少女

 長かった夏休みも終わりに近づき、いよいよ体育祭の準備が始まった。

 三年生の受験の都合もあり、体育祭は9月の第1週に行われる。準備は8月の最終週と合わせて実質2週間しかない。

 その間生徒たちはそれぞれのパートに分かれ、パート長の指示のもと作業にとりかかる。


 そして初日の今日、私たちは櫓を組むための竹を山に取りに来ていた。


「すごいねえ、これだけの竹を提供してくれる地主さんて」


「わが校の卒業生だから、毎年提供してくれるんだって」


「竹を運ぶ軽トラックも卒業生が出してくれるし、ほんとにうちの体育祭って地元に愛されてるんやねえ」


 そんなことを奈津と話しながら、うんせうんせと切り出した竹を山の上から下まで運ぶ。けっこうな重労働だけど、好きな人も一緒だと思うと心は軽い。


「和辻さん、山村さんもあんまり無理せんように。男手はいっぱいあるんやし」


「ありがと、山岸くん。大丈夫よ、楽しいから!」


「ならいいけど」


 そう言いつつ、荷台に竹を持ち上げられずに困っていたところをひょいと手伝って載せてくれた。お礼を言うと軽く手を上げて去って行く。


「ちょっと有紗! ずいぶんといい感じになっとるやん! 夜市効果、あったみたいやね!」


 奈津たちには夜市のことはLIMEで報告済みである。


「いやいや、そんなことないって。ほら、山岸くん、他の人のも手伝ってるやん」


 運動部の男子たちは力の弱い人たちを率先して手伝ってくれている。みんななんて優しいんだろう。中学校ではまだ男女が反発しててこんな風じゃなかった気がする。それだけ、大人になったってことかな?


「でもな〜、なんか有紗に対しては特別な気がするんやけどな。それにしても、じれったいくらい進展せんけど、ほんとにそれでええの? 告白せんの?」


 首に掛けたタオルで汗を拭いながら奈津が尋ねる。山を登る時には竹を持ってないから腕は楽だけど脚はキツイ。


「うん、いつかはするつもり。でもまだその時じゃないかなって。ていうか、振られて今のこの感じじゃなくなっちゃうのが怖いだけかもしれんけど」


 真面目にそう答えると、いつもポジティブな奈津が珍しく眉を下げてわかる、と言った。


「私も告白なんてできそうにないんよ。緒方くん同じテニス部やし、振られたら気まず過ぎるやん? 確実に好かれてるって確信がないとできんわ」


 奈津の好きな人、緒方くんは黒龍グループの櫓パートにいる。今日の竹取りは全グループ合同なので緒方くんの姿もけっこう見かけるし、すれ違えば奈津と冗談を言い合っていていい感じだ。


「奈津だって仲良さそうやん。お似合いだと思うけどな」


「仲はええけど女子として見られてない気もするんよね。華奢で色白で女の子らしい子が好みやったら私には無理かも」


 ちょうどその時山の上に着いた。すると上にいる男子が「もう竹はないよー。みんな降りてー」と呼び掛けていた。


「あれ、せっかく登ってきたのに損しちゃったね」


「しょうがないよ。下に降りようか、奈津」


 手ぶらで下るのはめっちゃ楽だ。はしゃぎながら降りていくと軽トラの周りには各グループの三年生たちが集まっていた。


 「じゃあ竹取りはこれで終了! 今日は一応解散だけど、学校に戻る人は気をつけて戻ってきてくださーい」


 三年生たちは、皆学校に戻るようだ。少しでも一緒に過ごしたいのかな。一、二年生は帰る人も多い。


「どうする、奈津」


「そうねえ、今日は帰ろうかな。疲れちゃったし」


 確かに、慣れないことをしたからあちこちが痛い。


「有紗はバスでここまで来たんやろ? バス停まで一緒に行くよ」


 普段から自転車通学の奈津は、この山にも自転車で来ていた。


 山岸くんたちは帰るのかな、と彼の姿を探していた私の目に飛び込んできたのは。


 私服を着た可愛い女の子が山岸くんの名を呼びながら近づいて、眩しい笑顔を見せている場面(シーン)だった。


奏多(かなた)!」


 振り向いた山岸くんはすごく驚いた顔をして「凜々花?」と言った。


(え? お互いの名前を呼びあう仲? しかもめちゃくちゃ可愛い子……)


 いけないとわかっていても、全身のアンテナが二人に向かって伸びてしまう。茶色い髪を綺麗に巻いて、大きな目がお人形のようなあの子と、山岸くんはどんな関係なの?


「なんでここに?」


「今日この山におるって亜香里に聞いたけん、夏休みでヒマやし見に行ってみよ、と思て」


 凜々花という子の隣には紫Tシャツを着ている女の子がいた。紫苑グループの一年生だろう。


「なあ奏多、もう作業は終わったんやろ? 今からタツローらと合流してカラオケ行くんやけど一緒に行かん?」


 すると山岸くんはすごく嫌そうな顔をして断った。


「行かん。カラオケ好きやないし」


「えーつまらん。じゃあせめて一緒に帰ろや。私も自転車で来とるんよ」


「いい。俺は友達と帰るから」


 なんでよ、ケチ、と騒ぐ二人に背を向けて山岸くんは坂口くんのところへ走り、そのまま自転車に乗って帰ってしまった。


「有紗。大丈夫? 顔色悪いよ」


 一部始終を私と一緒に聞いていた奈津が心配してくれる。


「だ、大丈夫。ちょっと驚いただけやから」

 

 そんな私の気持ちも知らず、凜々花さんたちは口を尖らせながら歩いて来てすれ違った。その瞬間、なぜだか一瞬私と目が合った気が。私があまりにも彼女を見過ぎていたからかもしれないけれど。


「奏多のやつ、相変わらず愛想ないなぁ」


「でも山岸、最近女子から人気出てきたぽいよ」


 その言葉に凛々花さんは眉間に皺を寄せて嫌そうな顔をした。


「また? 面倒くさ。ま、今日は大人しくタツローらと遊ぶかあ。亜香里、うち体育祭も遊びに行くけん、よろしくね」


 そして二人は自転車に乗って帰って行った。







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