12 夏休みの夜市
いよいよ夏休みに入った。私は毎日塾の夏期講習に通っている。
奈津の話によると、テニス部は午前中に校内練習、午後には他校と練習試合をやったりして毎日へとへとらしい。
「男子はトレーニングも兼ねて遠くのコートまで自転車で通ってるらしいから、私らよりしんどいと思うわぁ」
奈津がLIMEで報告してくれる。奈津の好きな人もテニス部なので、男子部の動向は押さえているのだ。
「でさぁ有紗。今度の土曜日、赤津浜の花火大会あるやん? 真衣子らと一緒に行かん?」
赤津浜の花火大会はうちの市で一番規模の大きなもので、毎年たくさんの人で賑わう。私は、実はまだ友達同士で観に行ったことがない。どちらかというと山に近い私の家と、赤津浜は反対方向。ちょっと遠いので中学生のうちは親に許してもらえなかった。
だけど高校生になったら絶対に友達と行こう、と張り切ってはいたのだけれど。
「あ~、行きたいけどごめ~ん。先に、ワカと約束してるんよ。うちの校区の夜市に一緒に行こうって」
夏休みにはそれぞれの町の商店街で土曜日に夜市が開かれる。規模の大小はあれど、これも夏の風物詩だ。
私の校区の夜市は本当に小さな商店街で開かれるので、行けば必ず誰かしら同級生に出会う。ワカは別の高校に行ってしまった同級生のことが好きで、その人が来るかもしれないから夜市に一緒に行って欲しいってかなり前から言われていたのだ。
「そっかぁ、わかった。じゃあ今回は三人で行ってくるよ。また来年、都合があえば行こね」
「うん、ありがと奈津。楽しんできて」
山岸くんの家は赤津浜に近い。もしかしたら花火大会に行ったら彼に会えるかもしれないけど、今回はワカの恋を応援するのが先だ。
「有紗~、当日浴衣着て行かない?」
ちょうど、ワカからLIMEが来た。中学生の間は「夜市には制服で行くように」なんて生徒指導の先生に言われてて、それを律儀に守っていた私たち。でももう、高校生なんだからそんなこと気にしなくていい。
「うん、行こう行こう! 小山くんに会えるといいね~」
ワカからはハートマークいっぱいのスタンプが送られてきた。
そして夜市当日。地元の夕方のニュースでは、赤津浜の花火大会を見るために席取りをしている人たちの映像を流していた。夜店もたくさん出ていて人出がかなり多い。
「はい、できたわよ」
「ありがと、お母さん」
母に浴衣を着付けてもらい、姿見の前で私はくるりと回った。黄色い帯が深い藍色の浴衣によく映えている。
「どう? 変やない?」
「大丈夫よぉ。私が着せたんだからバッチリよ」
「じゃなくて、髪! 初めて自分で編み込んでアップにしたんよ」
「うん、可愛い可愛い。上手に出来てるわよ。あ~、これでデートなら母さん嬉しいんだけどな」
「残念でした。一緒に行くのはワカでーす。じゃあ、行ってきまーす」
ちょうどワカが迎えに来たので私は玄関を出た。ワカは、流行りのくすみカラー、ラベンダーの浴衣だ。小柄なワカによく似合う小花柄。
「ワカ、可愛い! 着崩れる前に写真撮っとこ」
母に頼んで二人並んだ写真を撮ってから夜市へ出発した。
校区内だから歩いて十分もかからない。街灯の少ない暗い道を行くと、夜市へ向かう家族連れや中学生カップルがちらほらいた。
「あ~、えーちゃん来とるかな~。もしかしたら、彼女とか出来て赤津浜のほうに行っとったりして……だったらどうしよう~」
確かに、そんな可能性はあるかもしれない。
でも中学の時、二人はいい感じだったんだよね。……どうか、今日ワカが小山くんに会えますように。
やがて、商店街が見えてきた。いつもはすぐに店が閉まるので夜には真っ暗になってしまう商店街だけど、この時だけは明るい電灯で輝いている。
昔と変わらないヨーヨー釣り、綿あめ、かき氷。フランクフルトにフライドポテト。知ってるおじさんおばさんがやってる夜店だから安心だ。
「あっ……! 有紗、どうしよう! いた!」
前方から歩いてくるのはワカの好きな人、小山瑛太こと「えーちゃん」。彼もワカを見るとあっと驚いた顔をして走ってきた。
「ワカ、来とったんか」
「うん。久しぶりやね、えーちゃん」
「浴衣やから最初わからんかったわ。前はこーんなチビやったのにちょっと大人になったな」
ひどーい、とふくれるワカだけど嬉しそう。小山くんは友達と来てたみたいだけど、彼らには「先に行っといて」と促していた。これは、チャンス。
「あのさ、小山くん! 私、ちょっと用事があるからワカをお願いしてもいいかな?」
「あ、いい、けど……和辻一人で大丈夫?」
「大丈夫! さっき友達見かけたし! じゃあ!」
不自然かなと思いつつも手を振りながら後ずさる。ワカは赤い顔をして、ありがと、と口パクしていた。
(よかったぁ、すぐに小山くんに会えたし、彼もワカと一緒にいたいっぽいし。あとは告白するだけ。ワカ、頑張れ)




