10 打ち上げの帰り道
九十分コースの食べ放題が終わり、会計を済ませた私たちは店の前でたむろしていた。この後はカラオケ行く人、帰る人、お茶する人、それぞれに分かれる。
「有紗!」
奈津、真衣子、美佳が私を小声で呼び、コソコソと話す。
「山岸たちは帰るみたいだから、一緒に帰りな」
「えっ、でも」
「いいから、私らで上手く一緒に帰れるようにしてあげるから」
そんな事を話していると突然坂口くんが後ろから話しかけてきた。
「ねぇねぇ、和辻さんたちはカラオケ組? それとも帰る組?」
「あ、帰る組、です」
「だったらさあ、和辻さん、俺らと一緒に帰らん?」
突然の申し出に戸惑っていると、三人がひゃあっと言って、奈津が代表して返事した。
「はいはいはい! この子は帰る組なんで、よろしく頼むね! 私らはちょっと寄り道して帰るから。有紗は電車やから、ちゃんと駅まで送ってやってよ!」
オッケー、と坂口くんは山岸くんの方へ向かった。奈津たちはキャッキャとはしゃぎ、「有紗、頑張れ! 後でLINEするから!」と私の背中を押して送り出してくれた。
(ホントに一緒に帰れるのかなぁ? なんか嘘みたい)
向こうの方で坂口くんと山岸くんが何か話してる。山岸くんはなんだか焦っているようで、いつになく動きがジタバタした感じだ。私はドキドキしながら二人の所へ行った。
「あ、和辻さぁん、帰ろっか〜」
のほほんとした声で坂口くんが言う。
「あ、うん、お願いします」
「俺たちはチャリ通だから駅まで押して歩くね~」
私たちは三人で焼肉屋を後にした。こっそり振り向いて手を振ると、奈津たちの視線が熱かった。口パクで頑張れーって言っている。
他の人たちはカラオケに向かっているようで、駅へ向かうのは私たちだけだった。
どうしよう。嬉しすぎて死にそうだ。山岸くんと一緒に歩けるなんて。(坂口くんもいるけど。)
駅までは徒歩だと十五分。もっと遠ければいいのに。
「今日楽しかったね。男子があんなにお肉食べるなんてビックリしたよ」
「そう? たぶんあれでもまだ遠慮しとるよ。男だけやったらもっと凄いよ。誰が一番食べるか競い合ってしまうけん、苦しくても無理して食ってしまうんよ」
山岸くんが言うと、坂口くんも深く頷く。
「そうそう。負けた奴が支払う、なんてルールにするともう地獄。俺ら、そんなに大食いじゃないしさあ、でっかい奴にはかなわんよねえ~」
「男子って大変やねえ」
「ついつい競ってしまうんよなあ。今日みたいに程々の量にしといた方が美味しいのにな」
「それにしても、山村さんがわんこソバみたいにどんどん皿に肉入れてくるのはちょっと困ったけどねえ~」
そんなたわいもない話をしながら歩くうちに、駅が近づいてきた。あと五分くらいで着いてしまう。
突然、坂口くんは「あっ」と言って立ち止まった。
「俺ちょっと寄るところあるからここで~。じゃあねえ、坂口、和辻さん。バイバ~イ」
そして急に自転車にまたがると、手をひらひらと振りながら角を曲がって行ってしまった。
あっけにとられる私。山岸くんも驚いているのか、しばらく坂口くんを目で追っていた。
「あのさ」
「は、はいっ」
私もつられて立ち止まる。
「櫓……頑張ろうな」
「ね。一緒に頑張ろう」
目を見てそう答えると、山岸くんは少し頭を掻いてそれから笑った。
決めた。チャンスは今しかない。
「あのっ、山岸くん! 夏休みに入ったら会えなくなるし、たまにLIMEなんかしてもいいかな?」
「あ、うん。もちろん」
「ありがと」
良かった、断られなくて。二学期になったら席替えがあるし、きっと離れてしまうだろう。その前に少しでも距離を近づけておきたかった。
再び歩き始めるとすぐに駅に着いてしまった。大人たちが次々吸い込まれて行く。ちょうど、電車が来る時間なのだ。これを逃すとあと二十分待つことになる。
「じゃあ、電車乗るね」
「ああ。気をつけて」
電車がホームに滑り込んできた。私は改札を抜けて振り返り、山岸くんに手を振る。彼は、軽く右手を上げた。
発車のベルが鳴り電車が走り出す。山岸くんの家とは反対方向へと。建物に隠れて、電車からは彼の姿は見えなかった。
(せっかく二人きりだったし彼女がいるか聞くべきだったのかな。でも、LIMEできるだけでも嬉しいからいっか。まだ山岸くんには私のこと全然知ってもらえてないし、もっとたくさん会話して好きになってもらえるように頑張ろう)
三両しかない小さな電車に揺られながら、私は幸せな未来を思い描いていた。




