予言と英雄
店の中では迷惑がかかるので俺と赤毛の男は外に出た。
揉め事を楽しむ野次馬たちで、あっという間に人だかりができてしまう。
できれば手荒らなマネはしたくなかったが、そんなことを言ってられる空気ではない。
だったらさっさと終わらせるだけだ。
「先にそっちから攻撃させてやるよ。無能だと騒がれている『退行』スキルがどのぐらい使えないのか見てみたい。さあ、笑わせてくれ」
俺は呆れながら肩を竦めた。
「こんなくだらない喧嘩で人を殺す気はない」
「ぶっ! 無能スキルで俺を殺せると思ってんのか! 渋るって言うなら、スキルを発動させるしかない状況まで追い詰めてやるよ」
赤毛の男は鞘から剣を抜くと、見たことのない構えで向かってきた。
「仕方ないな。――こい!」
男は剣を自在に操りながら、変則的な動きでこちらを攪乱してくる。
スピードも速いし、なにより驚いたのは男のスタミナだ。
連続で振り続けても、息ひとつ乱さない。
なるほど。
口だけというわけではないらしい。
「子供みたいな絡み方をしてきたわりに、意外とやるな」
「あんたこそ、俺の攻撃を容易くかわすとは、無能扱いは撤回しよう。――だが、勝負は実力がすべてじゃない」
男がそう言った直後――。
「きゃっ……何をするのです……!?」
不快そうなフレデリカの声を聞いて振り返ると、赤毛の男の仲間がフレデリカの首筋に短剣を押し付けていた。
「……こんな汚い手を使わなければ、俺に敵わないと思ったのか?」
男が軽く肩を竦める。
「なに、あんたを本気にさせる為さ。さぁ、どうする? 早く俺を倒さないと女の首が血で染まることになるぞ」
「――いいだろう。お望みどおり、俺の加護を見せてやる」
目立つのは好きではないが、ここで一度派手に倒しておけば、今後は鬱陶しい絡みをしてくれる連中も減るだろう。
そうと決めた俺は、迷わずに【退行魔術式】を発動させた。
男は興味深そうに眺めている。
その隙だらけの体の頭上で、俺は魔法シールドを展開させた。
「魔法シールド? こんなものに閉じ込めてどういうつもりだ?」
答えの代わりに、男に向かって水魔法を発動させる。
はじめて焦りの表情を浮かべた男は、次の瞬間、大洪水のように襲い掛かる水に飲み込まれていた。
ぐるぐると渦を巻く水の中で、男が苦しそうに藻掻いている。
こんなところか。
殺す気はないので退行魔術式を解き、水魔法をシールドごと消す。
四つん這いになった男は、ごぼごぼと咽ながら水を吐いている。
回復魔法をかけようと手を翳すと、さきほどフレデリカを人質にとった男が慌てて声をかけてきた。
「止めを刺すのはやめてくれ……! こちらが悪かった。君の実力を知りたかったんだ」
「なんだって?」
「私たちの探していた予言されし英雄は、紛れもなく君に違いない……!」
どうやらこいつらは、偶然遭遇して絡んできたわけではないようだ。
それにしてもまた予言と英雄の話しか……。
俺はため息を吐きながら腰に手を当てた。
「詳しい話を聞かせてもらおう」
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