初めての仲間
俺は少女を連れて国境にある検問所までやってきた。
検問所の周囲には、厳重に武装した兵士たちがたくさんいて物々しい雰囲気が漂っている。
これは化け物オークの出現と関連があるのだろうか。
いくつかの質問に答え、所持品検査が終わると、無事に検問所を通してもらえた。
国境を越えた塀の向こうには宿場町が見え、行商や冒険者達の姿で町は賑わっていた。
人の流れに合わせて少し歩いてみると、宿屋兼酒場の看板を見つけた。
「酒場で話すでいい?」
俺の問いかけに少女が頷く。
ざわつく酒場内は昼時ということもあり、かなり混雑していた。
なんとか端の方に空いている席を見つけたので、小さな丸テーブルに二人で座る。
とりあえず飲み物と軽食を頼んで一息つくと、彼女が口を開いた。
「私はフレデリカ。あなたに出会うために生きてきたの」
「……さっきもそんなことを言ってたけど、俺に会うためって……。……からかってるの?」
「からかってなんかない。お願い、真剣に話を聞いて」
真っ直ぐ俺に向けられた少女の眼差しから、冗談でないことが伝わってくる。
「さっき話した通り、私は予言から、今日あなたがあの森に現れることを知っていたの。あの森が危険なのはわかっていたけれど、どうしてもあなたに会いたくて……。あなたが予言によって英雄になる未来を示されたように、私自身にも予言が与えられているの。あなたを支えて、あなたの力になる。それが私に課せられた宿命」
フレデリカの言っていたことと、行動理由がようやく理解できた。
彼女は心から予言を信じ込んでいるのだ。
「あなたの為にすべてを捧げる覚悟はできているから。これから、あなたの旅に同行させてほしいの」
ギルドで受けた依頼をこなすにしても、一人より複数人のほうが危険度が下がる。
だからほとんどの冒険者はパーティーを組んでいるし、一人で旅をするものはかなり珍しい。
俺もゆくゆくは仲間を探したいけれど、フレデリカを二つ返事で受け入れることはできなかった。
「……正直な話をすると、俺は予言を信じてないんだ。予言のせいで人生を振り回されたようなものだし」
過剰に期待され、過剰に失望されたのも、すべて予言によって英雄候補者などになってしまったがゆえだ。
「私は養って欲しいわけじゃない。それにあなたが命じてくれれば、私がお金を稼いでくるから」
「いやいや、そんな事はさせられないよ」
「私に与えられた加護は戦闘向きのものではないけれど、家事全般こなせるから、奴隷として傍に置いてくれるのでもいいの」
「ますます、そんなことさせられないよ……!?」
冗談だと信じたいが、大真面目な顔をしているので心配だ。
「……何もしてくれなくていいの。ただ、傍にいたいだけだから。一緒に行動することで邪魔になってしまうのなら、少し離れた場所からついていきます」
うーん……。どうしたものか。
俺が戸惑っていると、注文していた料理が運ばれてきた。
「とりあえず食事にしよう」
「……承諾の返事がもらえるまでは食べません」
そう言いながらもフレデリカの目は、運ばれてきたサンドイッチに思いっきり注がれている。
細い喉がゴクリと動くのも俺は見逃さなかった。
――ぐうううう。
「あっ……」
かわいい音でフレデリカのおなかが鳴ったあと、彼女はポッと赤くなった。
「おなかすいてるんでしょ?」
苦笑しながら尋ねる。
フレデリカは真っ赤な顔で、小さく頷いた。
人形のような美少女が初めて見せた人間らしい反応がかわいくて笑ってしまう。
「遠慮しないで食べてよ」
フレデリカはまだ頷いてくれない。
「一人で食べると味気ないから、付き合ってくれるとうれしいんだけど」
「……そういうものなの? ……そ、それなら……」
ようやく彼女がサンドイッチに手を伸ばしてくれた。
「いただきます……」
小さな口を開けて、はむっとサンドイッチを頬張る。
もぐもぐしている姿が子供みたいでかわいい。
無意識に口元が綻んでいて、おいしいのだということが伝わってくる。
幼い態度を垣間見てしまったせいか、同行を断りづらくなってきた。
……悪い子じゃなさそうだしな。
俺は覚悟を決めてこう言った。
「俺は世界を救うような人間じゃないと思うし、職を探し中の単なる冒険者だけど、それでもよければ仲間になる?」
「……! うれしい……」
フレデリカはほっとしたのか、肩の力を抜きにこっと微笑んでくれた。
その遠慮がちな微笑みを見た瞬間、俺の心の中がぽっと温かくなった。
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