表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/8

助けた美少女の様子がおかしい

 回復魔法を唱えるために、鮮血の滲んだ膝に手を翳そうとしたら――。


「……それよりも、あなたの名前が知りたい……」


 俺の指先を握って、回復魔法をかけるのを止めた彼女がそう言ってきた。


「え?」


 予想外の言葉に驚いて、まじまじと彼女を見返す。

 俺の名前なんかより、傷を治すことを優先させてあげたいのだけれど。

 俺は戸惑いながらも、一応名乗った。


「えっと、俺は、エリアス」


 家を追放された身なので、グラントという家名を名乗るのは躊躇われた。


「やっぱりあなたがそうなんだ……」


 俺の指を掴んでいた彼女の手に、きゅっと力がこもる。


「……やっと出会えた……」


 俺は思わず息を呑んだ。

 まるでずっと離れていた大切な人との再会を噛みしめるような言い方だったから。


 ……この子、何を言ってるんだ?


 切実とさえ思える態度で、彼女が俺を見つめている。

 相手が美少女なこともあって、こんな態度を取られると勝手に顔が熱くなってしまう。


「私、ずっとあなたと出会う日を待っていたの……!」


 前のめりになってそう叫んだ彼女が、顔を顰める。


「痛っ……」

「危ない!」


 バランスを崩した彼女の体を慌てて抱き留める。


「ご、ごめんなさい」


 頬を赤く染め、消え入りそうな声で謝ってくる。

 意識されるとこっちまでドキッとしてしまう。


「や、だ、大丈夫。足首も痛めているみたいだ。ちょっとごめんね」


 今度は彼女も止めることなく、大人しく俺に回復魔法をかけさせてくれた。


「ありがとうございます」

「他に痛いところはない?」

「うん、大丈夫……」

「それじゃあえっと、さっきの話、どういう意味か聞いてもいい?」


 彼女がこくこくと首を振る。


「月が消失する夜が明けた朝、Eの文字を持つ救世の英雄に巡り合えることだけが、私の心の支えだったの。その人があなたで、だから私は今とても興奮していて……」


 ……言葉の選び方が独特で、伝承の朗読でも聞かされているような気になる。

 なんだかめちゃくちゃ不思議な子である……。


 それにしても……、『救世』に『英雄』か。

 あの加護鑑定を受けた日、その言葉に見合う価値のない人間だと全否定を受けた俺としては、その単語を聞くだけでも複雑な気持ちになった。


 俺はそもそも、王室付予言師であるタオ老師が予言した『英雄』に該当するかもしれない者として、九歳のときに『英雄候補者』に抜擢され、その後、様々な訓練を受けた後、精鋭部隊のメンバーになったのだった。

 結局、加護鑑定の結果、俺は単なる候補者だっただけで、真の英雄ではないと判断されたわけだけれど。


 タオ老師の予言自体は国中の人間が知っているし、この子が俺のことを英雄だと思い込んでいるのは予言のせいだろう。

 ただ、『出会うのを待っていた』という言葉や『月が消失する夜が明けた朝、Eの文字を持つ救世の英雄に巡り合える』という言葉の意味は謎のままだ。


 表情を見て、俺の混乱に気づいたのか、彼女がハッと息を呑む。

 それからしゅんと肩を落とした。


「ごめんなさい……。うれしくてちゃんと話せてないみたい……。ふう。……落ち着いて、説明します」


 胸に手を当てて、彼女は何回か深呼吸を繰り返した。

 表情がそんなに変わらないうえ、整い過ぎているから察せられなかったが、もしかして結構動揺しているのだろうか?

 ……震えるほど怖い思いをした直後だしな。


 再び彼女に自分の疑問をぶつけようとしたとき、森の奥から魔物の咆哮が聞こえてきた。

 先ほどの化け物オークの声と似ている。


 俺は頭を失ったオークの死体を振り返り、眉に皺を寄せた。

 もしかして、あの蟲に憑りつかれた魔物がまだ存在しているのか?


「……」


 この辺りは精鋭部隊にいた頃、俺が守っていた東ローデイガン領の北に広がる区域である。

 まさかあの【森】の問題と関連が……。

 そんな考えが、ふと頭に過る。


 再び地を這うような吠え声が聞こえてきた。

 嫌な声だ。


「ここにいるとまた魔物が現れるかもしれない。もう少し君の話を聞きたいし、安全な場所に移動してもいい?」

「私も話を聞いてほしい」


 そう答えた彼女とともに、ひとまず国境の検問所まで向かうことになった。

「続きが気になる」「早く更新しろ」などと思ってくださいましたら、

スクロールバーを下げていった先にある広告下の『☆☆☆☆☆』を、

『★★★★★』にして応援していただけるとうれしいです……!

ブックマーク登録もよろしくお願いします


応援にお応えできるよう、更新をがんばります

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ