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瞬殺してしまったんだが

 背後に庇っている少女のためにも、ここでやられるわけにはいかない。

 俺は意を決し、顎を引いた。


「退行魔術式、発動!」


 初めてこの加護スキルを発動させたときと同じように、脳内で数多の魔術式が巡っていく。

 二十日かけてこの加護と向き合ったおかげで、もう倒れることもなく、意識と体に訪れる変化を受け止めることができた。


 よし、次は――。


 化け物オークが襲い掛かってくるタイミングに合わせて、跳躍する。

 そのまま両手を翳して、化け物オークと自分の真上に魔法シールドを発動させた。

 直後、方向転換した化け物オークが、咆哮をあげながら突っ込んできた。

 避けてる余裕はない。


 一か八か。

 掲げた両手に光魔法のエネルギーを集める。


「くらえッ……!」


 俺の手を離れた光魔法が、ブーメランのように飛んでいく。


 スパンッーー。


 容赦のない音を立てて、光の刃が、仁王立ちしていた化け物オークを真っ二つに割いた。

 頭部から一直線に割かれた化け物オークの体が、左右に分かれて地面の上に転がる。


【退行魔術式】を使う前は、あれほど手こずった相手だったのに。

 まさか瞬殺できてしまうとは――。


「……」


 というか吹っ飛ばして、シールドに激突させ、倒すつもりだったんだけどな。

 やっぱり【退行魔術式】はとんでもない能力だ。


 俺は小さく息を吐くと、化け物オークの死体に近づいていった。


 このオークに何が起きたのか。

 それを知ることができないかと思い、改めて観察したとき、初めてオークの頭部に穴が開いていることに気づいた。


 ぎょっとして目を見開く。

 顔面を覆っている蟲と同じものが、脳みその中でももぞもぞと動き回っている。


 信じられないような事態が、その直後に起こった。

 オークの腕についていたドロドロした液体、あれと同じものを蟲たちが一斉に噴出させたのだ。

 そのうえ、どろどろの液体は意思を持っているかのように動いて、切断された残りの体のほうにじわじわと広がっていった。


「……!」


 割けた体を引き合わせて、再生させようとしている。

 そう気づいた瞬間、俺は、オークの頭に向かって火魔法を放った。


 肉の焼ける嫌な臭いと共に、淀んだ緑色の煙が上がる。

 蟲が完全に動かなくなるまで、しっかり見届けた。


「まさか蟲があんな行動を取るなんて……」


 寄生型の魔物の一種だったのだろうか。

 謎は残るが、とにかく撃退できてよかった。


 シールドとともに【退行魔術式】を解除する。


 それにしても、とんでもなくえげつない戦闘になってしまった。

 すべてを目撃することになってしまった少女のことが心配だ。


 俺は、座りこんだまま動けないでいる少女のもとへ向かった。


「大丈夫?」

「あ……」


 少女は瞳を見開いたまま、俺を見上げてきた。

 さらさらな前髪の下の猫を連想させる大きな目、小さな鼻、ぷっくりとした唇、透きとおるような白い肌。

 あまりに整ったその顔に、思わず見惚れてしまった。

 こんな儚げな美少女を見たのなんて生まれて初めてだ。


 直後、ハッと我に返る。


 ……何考えてるんだ。それどころじゃないだろ……。


 軽く咳払いをして、改めて彼女に尋ねる。


「話せそう?」


 少女がこくこくと頷く。


「……もうここで全部終わってしまうのかって……。でも、あなたが助けてくれた……。すごい……あんな恐ろしい怪物を、あっさり倒してしまうなんて……。ありがとう……。あなたは命の恩人です」

「いや、最初かなり手こずってたよ」

「手こずってた……?」


 きょとんとした顔をした彼女が、震える小声でそう聞き返してきた。

 血の気の引いた顔を見ていると、なんとかして安心させてあげたいという気持ちになる。


「怪我はない?」


 目の前に膝をついて尋ねる。


「私は平気……。それよりあなたのほうが、ここ……」


 俺を見つめながら、自分の口元を指でさす。


「私のせいで怪我をさせてしまって、ごめんなさい……」

「こんな怪我大したことないから気にしないで」


 彼女に笑いかけ、手の甲で口元を拭う。


 恐ろしい思いをして、相当動揺しているのだろう。

 彼女は声だけでなく、体も微かに震えていた。

 おそらく俺の少し下、十五歳ぐらいだろうが、心細そうな態度を取る彼女は幼い子供のように俺の目に映った。


 精鋭部隊にいたとき、魔物に襲われている子を助けたことが何度もある。

 皆、この少女と同じような反応をしていた。

 こういうときはとにかく、大丈夫だと安心させてあげることが大事なのは経験から知っている。

 俺は驚かせないよう少女の肩に触れて、ゆっくりと語りかけた


「もう心配ないから。どこか痛いところがあったら教えてくれる?」


 尋ねながら視線を落とすと、両膝を擦りむいていることに気づいた。

 まずはこの怪我を直してあげよう。

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