最強の加護、覚醒する
神殿から戻ってすぐ、荷物をまとめて今日中に出て行けと父から言われた。
「グズグズするな! さっさっと身支度をすませろ。この恩知らずが!」
父は常に理不尽で、口より先に手が出ることもしょっちゅうだったが、これまで育ててもらった恩はある。
生きて会うことが二度とないなら、別れ際くらいはちゃんとしておきたかった。
「期待に応えられず申し訳ありませんでした。どうかお元気で」
「おまえとは今日限りで赤の他人だ。これからは一人で勝手に生きていけ。おまえの無能スキルでは野垂れ死ぬのがオチだろうがな」
それだけ言うと、苛ついた声で弟の名を呼びながら二階に上がっていった。
きっと、王に言われたとおり、弟の修行をすぐにはじめるのだろう。
母は物心がついた頃には亡くなっていたし、弟は俺の行動に無関心なので、離別を寂しがってくれる人間は誰もいない。
息を吐いて頭を振る。
気持ちを切り替えて自室に向かうと、少ない荷物をまとめて育った家を後にした。
◇◇◇
「……まずは生活費を稼ぐ術を見つけないと」
これまで稼いだお金はすべて家に入れてきたため、自分自身の所持金はごくわずかしかなかった。
どれだけ切りつめても、ひと月後には金が底をつく。
自分の悲運を嘆いている暇などない。
なぜこんなことにと思わないわけでもないが、現実と向き合うことを優先させる。
顔が知られているので、国内で仕事を探すのは難しいな。
隣国ベルナデッド王国の冒険者ギルドを当たってみようか?
ベルナデッド王国は、山を二つ越えた先に国境がある。
徒歩で街道を行くなら、おそらく七日ぐらい。
でも、俺には宿屋に泊りながら進む余裕などない。
そのため、山の中に入って野宿をしつつ食材になるような木の実や動物を探しながら進むことにした。
早速俺は、ベルナデッド王国に向かうための山道へ向かった。
ただ、ベルナデッド王国の冒険者ギルドで仕事が見つかればいいが、【退行】の付く加護持ちだとわかれば、断られる可能性も十分あった。
それだけ【退行憑き】というのは厄介な加護なのだ。
「無能スキルとして、あまりに悪名高いもんな……」
思わずそんな独り言が漏れる。
今まで俺が聞いたことのある【退行憑き】加護だと――。
【退行魔法】というのは、レベルが上がるほど魔力が弱まっていくという能力だった。
その他には【退行速度】などというようなものや、【退行知識学】などというものがある。
どちらも加護持ちの能力をどんどん劣化させる類のもので、訓練したり努力することが却って徒となるのだった。
加護を捨て去ることは、死ぬまで不可能だ。
この運命を共にする能力といかにして付き合っていくべきか、しっかり考えなければいけない。
そのためにもまずは、どういう能力なのかを理解するところからはじめないと。
幸い、この山の中のなら、能力を使っても他者を危険に晒す恐れはない。
このあたりの山は出没する魔物が狂暴なため、近づくものがいないのだ。
木の根元に荷物を置き、軽く肩を回す。
加護でも、通常のスキルと発動方法は同じだ。
心の中でスキルを発動させる呪文を唱えてから、右手を前に伸ばす。
「退行魔術式、発動!」
ブウンッ――。
「……っ!?」
掌から体の内側に向かって、強烈な反動が返ってきた。
耳元では、低く折り重なるような音がこだましている。
それと同時に、頭の中に膨大な量の見たこともない魔術式と聞いたこともない呪文が流れ込んでくる。
魔術式は変形を繰り返し、捩じれたり膨張したりしながら、渦を巻き、加速していく。
「うっ……あ……」
目の前が虹色に光り、何も見えなくなる。
眩暈がして立っていられない。
「……くっ」
俺は頭を押さえながら、膝を付いた。
膨大な量の情報に自分の脳内を引っ掻き回されているようで、吐きそうなぐらい気持ち悪い。
だめだ……。
耐えられない……。
俺はそのまま意識を失ってしまった。
◇◇◇
土の冷たさを感じて、我に返る。
どのぐらい気絶していたのか。
瞬きを数回繰り返しただけで、自分の体に訪れた変化を自覚した。
「え……?」
体の奥から抑えきれないほどのエネルギーを感じる。
戸惑いながら自分の両手を見下ろした俺は、思わず息を呑んだ。
両手を覆うように、青白い炎のようなオーラが出ている。
「なんだこれ……」
まるで能力強化の魔法をかけられたときと似た感覚だ。
でも、体の中を流れるエネルギーのレベルが違う。
自分の体に起こった変化を確かめたい。
試しに単純な攻撃魔法を放ってみよう。
そう考え、軽い気持ちで攻撃魔法を発動させた。
直後――。
天変地異でも起きたのかと思うような轟音が空まで鳴り響いた。
「……………………は?」
ぽかんと口を開け、茫然と立ち尽くす。
目の前に広がる光景が信じられない。
石ころを動かすぐらいの火力で放った攻撃魔法が、一瞬で山一つ吹っ飛ばしてしまったのだ。
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