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彼とのつながりは

 ポッド。

 その名前は、昔の俺の名前だった。


 若い頃は行商でいくつもの町を渡り歩いていたのだけど、30半ばの頃だったか、商品の補充をしようと山道の途中で山菜を採っていた時に運悪く熊に遭遇して襲われた。

 抵抗した右腕を噛みちぎられ、どうにか命からがら逃げて近くに待機させていた荷馬車に乗って山を下りた。

 下りた先の村にはよく立ち寄っていて顔見知りも多くいた。

 俺が血だらけで御者台に倒れているのを見つけて医者の所まで連れて行ってくれた人達もいた。

 その人達のおかげで命をとりとめる事が出来、俺はその村で暫く静養することになった。

 体力は回復してきても利き腕を持っていかれた事で生活は不便になったし、重い荷を運ぶ行商に戻ることは無理だろう。この体で何が出来るのか……そう考えるとこの先の事には不安しかなかった。

 そんな時、いつも見舞いに来て声を掛けてくれていたのがリェリアンナという農家の娘さんだった。


 彼女は俺が村に行くと必ず『お花はありませんか?』と聞いてきた。

 最初は花なんて扱っていなかったのだけど、俺の顔を見る度に花は無いかと聞いていくので次第に気にするようになった。

 ある日、リェリアンナはいつものように俺の荷馬車を見つけると駆け寄ってきた。

「こんにちはポッドさん」

「こんにちはリェリアンナちゃん。ごめんね、今日も売り物に花は無いよ」

「そう……」

「切り花は別の町で仕入れても、どうしても途中に弱ってしまうんだ。ごめんね」

「謝らないで。それより何度か試してくれたのね? 私その分お支払いします」

「気にしないで良いんだよ。他にも行商の途中で質が落ちてしまう品物も沢山あるんだから。……それと、売り物じゃないけどコレ」

 俺は何種類もの野花が入った鉢を見せた。一つ前の町からの道の途中で目についた野花を引っこ抜いて、予め買って置いた鉢に詰めただけの物。

 それなのにリェリアンナは目を輝かせた。

「すごく綺麗」

「ただの野花だよ」

「でも私このお花は見た事なかったわ。それにこっちも」

「そうなのかい? こういうので良かったらまた持って来てあげるよ。今度は反対の方角に行くから別の花が咲いてるかもしれない」

「本当? 嬉しい!」

 俺の提案は彼女を喜ばせた。その笑顔が俺も嬉しかった。

 それからは行く先々で目新しい草花が無いかと道端を見たり、花屋に寄っては手ごろな鉢植えや種や球根を仕入れて持ち帰るようになった。

「ポッドさん、庭の花壇の花が咲いたのよ」

「ポッドさん、この前貰った花束はドライフラワーにしてもとても可愛いの」

 俺はいつしか彼女に会うのが楽しみになっていた。

 俺の片腕が無くなったのはそんな小さな幸せを感じてから数年後の事だったのだ。


「今日も落ち込んでいるの?」

 打ち解けたリェリアンナはいつもストレートだった。

「無くなってしまったものは仕方ないわ」

「私に腹をたてても貴方の腕はもう生えて来ないわよ」

「取られたのは命じゃないのよ」

「これからどうやって生きていくか考えるべきだわ」

「一人では無理なら誰かに助けてもらうことを考えればいいのよ」

「貴方には誰がいるの?」

「わからないの? 目の前にいるわ」

「私が貴方と生きるわ」

 彼女はどう言い包めたのか親からも許しを得て俺の妻になり、行商の手伝いをし始めた。

 荷物の積み下ろしや馬の世話を一緒にした。得意先への評判も良くて、すぐに俺よりも客の扱いが上手くなった。

 リェリアンナは仕事を楽しんでいた。もしかするとそうではなかったかもしれないけど、俺にはそう見せてくれていた。

「ねえポッドさん、こんな香りのする香草は今まで知らなかったわ。村で育てられるかしら」

 行く先々でリェリアンナは花屋に食料品店、それにレストランを巡って植物の知識を吸収した。

 俺もつられる様に詳しくなった。


 二人で各地を歩き始めて二年ほど経った頃、彼女から家族が増えることを告げられた。

 俺はそれをきっかけに行商の仕事を辞めてリェリアンナの実家のある村で暮らすことを決意した。

 リェリアンナの実家の敷地の一角に家を建て、温室を作った。

 様々な土地から持ち帰った植物の種や苗を育て、増やした。

 自然の多いこの村ではさほど花は売れないが、育てているリェリアンナが楽しそうなので良しとした。

 村の近辺で採れないハーブやその加工品は人気があって、村人たちだけではなく俺たちの回っていたエリアをそっくりそのまま引き継いだ行商の男が定期的に仕入れてくれるようになった。

 行商の男は名前をエリックといった。

 エリックは酒造りで有名な町の青年だった。酒屋に仕入れに行ったときに仕込みの休憩中だったエリックが行商に興味を示したのが始まりで、色んな場所を見て回りたいという夢を持っていた彼は色んな話を聞きたがった。

 俺たちが仕事を辞めることを知ったエリックは自分が後を継ぐと言い出してさっさと工場を辞めてしまった。

「ポッドさん達の話を聞いて、やっぱり自分で行かなきゃって思ってたんです」

「楽しいことばかりじゃない。俺みたいになる危険だってあるんだぞ」

「分かってます。でも俺はポッドさんに憧れてるから」

「変な奴だな」

 エリックは俺たちの家を建てるのを手伝い、その代わりに荷車を譲ってやり、商売についてを教えた。

「ポッドさんたちの名前を出すとみんな快く買ってくれて助かってます」

 エリックは商売の資質を持っていたらしく、何年もしないうちに荷馬車を一台増やした。雇った男も良く仕事ができる上に気さくな人柄だった。

 二人で更に遠い地まで回るようになり、仕入れに立ち寄ると土産話と草花の種を置いていくのが恒例。

 ある時、彼らが遠い地で手に入れてくれた花の実が食品やお茶に使えるとわかった。種から育てたので販売するまでには時間もかかったが、一度売りに出したところ評判がとてもよく、それに応えるために育てる数を増やした。収穫に人手が足りずに、村の人たちに手伝ってもらう。そうしていると加工場が必要になり、手伝いで頼んでいたのが村の若者たちの仕事となり、それでも足りずに他の町から働き手が来るようにまでなった。

「エリックのおかげで順調にやってこれたよ」

「いやあ、こちらこそポッドさんがいなかったら今の私はいませんから」

 俺たち夫婦が老いても子供たちが後を継いで仕事は順調だった。エリックの方も運送業に力を入れて軌道に乗せていた。

 俺たちはいつも温室で花に囲まれ、ハーブティーを飲んでいた。

 俺は皆より先に逝ったけど、きっとその後もあの村には平穏で活気のある毎日が訪れた事だろう。



 ……という事で、目の前のこの人は一体誰だろう。

「エリック?」

「?」

 試しに呼んでみたが反応が無い。一番ありそうだったのに外したか。

「ジョイ? マッド? ……あ、ザックとか?」

 行商仲間や村の友人の名前を挙げてみる。

「何の事だい? えーと…ル…ルイス君?」

 どうも違うようだな。

 …………。

「…………リェリアンナ」

「っ?!」

 ディノーの肩がビクっと跳ねた……。

「なんだろう、すごくドキドキする言葉に感じたんだが……」

「あー……うん、ごめんなさい。もう言わないよ」

 リェリアンナか……。そうか、今世は坊主か、リェリアンナ……。

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