表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
95/296

ザワハ

 そこだけ円を描いたような空間が出来ている。草が一本も生えておらず、見えている土の表面はボコボコと荒い。

 その中心に背の高い木が一本。

 青々とした葉と赤々とした実が色鮮やかだ。

「う……コレ?」

 フィリーアが一目見て足を止めた。近づくのを躊躇するのはとてもよく分かる。

 真っ赤な果皮が鮮やか。それだけなら良い。

 けどその外皮はパックリと割れていて、中の丸くて大きな黒い種がちょうど不気味な塩梅で白い果肉に覆われ、それがまるで目玉のように見えるのだ。

「うわ、めっちゃ見てくるよ……私ムリ」

 無数の目に見られてるみたいな感覚に耐え切れずフィリーアが降参して最後尾に逃げた。

 俺たちも取り敢えず遠巻きに様子見をする。

「マグマ、これ食ったの?」

「食った!」

「食われそうになった時は?」

「食われる前に食った!」

「みなさん、対処方は『食う前に食われそうになったら食う』だそうです」

「さすがマグマ。でも俺たちはこれを持ち帰りたいんだよ」

 ロディがマグマの頭を撫でた。

「ジェイマー情報はどうなのー?」

「俺たちはザワハって呼んでる、ここの一本しか見つかっていない珍しい木だ。村で増やそうと色々試してみたけどダメで、年に2度だけここに来て決めた数の実を採るだけにしている。あの種の所が魔力を貯め込んでて、独特の甘みがあるから焼き菓子とかに使っていることが多いかな」

「そうなのー? じゃあもう私たちは食べた事あるかもだねー……あのクッキーかなー…」

 これが美味しいのかー、とササが茂みから土の地面へ一歩踏み出す。

「!」

 目玉の一つがゴムのように蔓を伸ばして飛んできた。二つに割れた外皮は倍以上に大きく膨らみ、ササの頭に食らいつこうと口をあける。

「おっと」

 ジェイマーがササの腕を掴んで後ろに引き戻す。

 ザワハの実は何も口に出来ないまま元の位置に戻っていった。

「この何にも生えてないところまでがアイツらの領域なんだ。入ったら今みたいに食われる。全部いかれるからな」

「全部?」

「根こそぎ全部さ」

 それを聞いたロディがアイテム在庫から一匹の川魚を取り出し、木の前に放り投げた。

 今度は瞬時に何十個もの実が反応して魚に飛びかかってきた。

 ザワハ同士で取り合いになり、魚に食らいついた実に食らいつくものもいる。

 既に死んでいた魚なので分かりやすいとは言い難いけど、魔力を吸いつくされた後のそれは明らかに鮮度も色味も落ちていた。

「この残ったのはどうなるんだ?」

 その疑問はすぐに解決した。

 木が僅かに揺れ、ボコ…ボコ…、と木の根元の土が盛り上がる。

 そうして出来た土の割れ目から現れた根っこが、魚を器用に絡め取って地中に引きずり込んでいったのだ。

「木の根っこが生命力を吸う。はっきりしないけど、干乾びた残りは幹の根元に口があってそこで食ってるんじゃないかって話」

「……念のため聞くけど、君の村の人たちは食べられたりは……」

「してないしてない! この森に入るのは熟練の爺さん何人かに決めてるから居なくなったらすぐにわかるさ。この前帰った時も皆ピンピンしてたぜ」

 それは良かった。材料が人間を食った木の実、となると食欲も何処かへ行ってしまいそうだからな。

 ……と言ってもこの辺の魔物達は食われて養分になってるんだろうけど。

「その爺さん達はどうやって取るんだ?」

「簡単な仕掛けさ。……フィリーア、採取カゴ持ってないか?」

「あるけど……使うの?」

 フィリーアが渋々採取カゴを取り出してジェイマーへ渡す。

 本来なら背負いながら移動して採取したものを入れるためのカゴを、ジェイマーは草が生えたエリアと土のエリアの真ん中に置いた。魔力の無い道具にザワハは反応しない。

「例えばここに毟ったばかりの草を入れると……」

 足元の草を一掴み、かごの中に入れた。

「来た!」

 赤い実が二つ飛んできてカゴにダイブする。

「で、ここをチョキン」

 ジェイマーはナイフで蔓を切断する。

 危険エリアにかからない様にカゴの手前を持ってこちらに引き寄せ、中を俺たちに見せた。

 中のザワハの実はもう動いていなかった。

「な、簡単」

「確かに」

 ロディが頷いた。

「深く立ち入るとその分反応する実が増えるから極力ギリギリの所でおびき寄せるのが良いぜ」

「よし、ではルイス。やってみようか」

「え……俺?」

 突然の指名に驚きつつも、難しいことではなさそうなので前に出ていく。

「何個くらい採れば良いんだ?」

 俺がジェイマーから採取カゴを受け取ろうとしたその時。

 横から伸びてきた手が一瞬早くそれを奪った。

「普通に取っていては修行にならないよね」

 ロディがにっこり笑った。

「……どうしろって?」

「間近で見てみたいんだよ。君の動きを」

「なっ?!」

 どん、と肩を突かれ、俺はよろめいた。

 踏ん張った足元には草が生えていなかった。

 慌てて振り向く。赤い実の襲ってくるスピードはもう確認済だ。

 きっとうまく後ろに跳べば回避できるはず……。

「…………あ」

 ザワハの実は俺を認識しなかった。

「……あ! そうか、失念していた!」

 ロディめ。がっかりした声を上げやがって。

「ちょっとロディー、今のは酷いよー?!」

 俺が叫ぶ前にササが怒ってくれた。

「悪かったよ、ルイス君の戦闘スタイルを観察するのに適しているんじゃないかと思ってしまって」

 残念だったな。ざまあみろ。

「で? 結局何個採れば良いんだ?」

 俺はそのまま実を採ろうと木の方へ近づいて行った。

「馬鹿ルイス! 戻れ!」

「え? ……あ!」

 ジェイマーの声で気付いた。ホント馬鹿だ俺。

 さっきこの目で見たばっかりなのに……俺の足にはもう木の根が絡みついていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ