馬対談
≪ここより【未開の森】≫
≪触るなキケン!≫
≪採取は専門家に依頼しましょう≫
≪むやみな戦闘は自然を壊す≫
≪乱獲はあなたの首をしめる≫
≪個体数調整にご協力・ご理解を≫
≪欲深いほど身を亡ぼす≫
森の入り口に立札が無数に立っている。
「さっきも言ったけど、ここは手を出さなかったら安全な場所だ。ただ、向こうが攻撃されたと感じた時は防衛のために攻撃してくるから各々で気をつけてくれよ」
「了解」
目当ての果物の木までの道は狭そうで、マグマはギリギリ通れるがセシルは無理そうなのでアデギウスの腕の半球体で一旦待機させる。
「昨夜はお前らどうやって見つけたんだ?」
「飛んでたら匂いがした」
「空からか」
チラっとジェイマーを見ると、両手で大きなバツを作った。
「日が高い間は蔦を伸ばして上空からの侵入を防ぐ植物が見張ってるから面倒だ」
「…陸路で案内できるか?」
「おう! じゃあ俺が一番前だな!」
マグマが嬉しそうに列の先頭に出ていくのを見送り、俺はしんがりに付けたガララに乗せてもらう。
「マグマに乗らないのか」
「あいつが調子乗って先走って皆とはぐれたら困るし」
案の定マグマの進むペースは速くて、後続は小走り気味について行っている。
「張り切っているな」
「いまは腹もいっぱいだから他の食い物にも目が行かないみたいだ」
ガララの上からでも木々の根元にキノコが生えているのが見えるのにマグマはそれには見向きもせずに突き進んでいく。
「そういえばさ、コイツはここで何にも食わないで生き続けるのかな?」
オザダの首に揺れるナイトメアに目をやる。
すると向こうもこちらを見ていて目が合った。
ナイトメアが前足を一本上げた。
「よう!」
「……軽っ」
「どうした?」
「こいつ、今『よう!』って」
「そうか、これとも話せるのか…」
オザダは自分の身につけているものが生きてて話せる魔物なのだと再確認して複雑そうな顔をする。
アデギウスとセシルみたいに『相棒を肌身離さず』というのとは違うだろうしな。
「なぁ兄ちゃん、俺をここから出してくれないか?」
いきなり兄ちゃん呼ばわりか。
「出してくれたらもう人間に悪さはしないからさ。な?」
誰か…ナイトメアが馴れ馴れしいんですけどどうすれば良いですか。
「…人を操る技を持ってる奴にそんなこと言われて、素直に信じると思う?」
「いやー、そこは信じてもらわないと話進まないしさー」
ホントに何なんだコイツ。
見た目は重厚感あって渋いイメージなのに。真逆かよ。
「そうだ、出してくれたら俺らの秘密教えちゃうし。知りたくない? 俺らがあそこで何をしてたか」
「……」
交換条件を出してくるとは、卑怯な馬だな。
「知っておかないといつか大変なことになるかもよ?」
「なんだよ大変なことって」
「だからそれは出したら教えるって」
「情報が先だ」
「わかってるんだぜー? そんなこと言って、情報だけ聞いて俺の事解放しない気だろ?」
「そっちこそ先に解放したら逃げる気だろうが。その手には乗らない」
「…チッ。ノリ悪ぃな」
うん、コイツ嫌いだ。食い物の心配とかして損した。
悪態つくならせめてこっちに聞こえないようにしろよ。
「情報はいらないからお前とはもう目を合わせないことにする。こっちは飛行と馬たちとの会話に使えればそれで良いんだから」
「ちょ、ちょっと待ってくれよ。そんな寂しいこと言うなよ兄ちゃん」
「あんまりうるさいと持ってるのも嫌だな…。折角だからお前等のことを心底恨んでる人の前で解放してやろうか。出た途端に瞬殺だろうな」
「なっ……人でなしか!」
「知るか。もう良いか? じゃあ……」
「待て! 待ってくれよ!」
目を逸らそうとする俺に焦ってナイトメアがガラスの中で暴れる。
「良いよ、分かった降参。もう俺は一生このままで良い。だから殺さないでくれ」
「自分の立場が分かったみたいだな」
「その代わりさ、一つ頼みを聞いてくれよ」
「……」
こういうときに流れで返事をしてはいけないものだと本能が…これまでの経験がストップをかける。
「そう警戒するなよ。頼みってのはさ、こういう時間が欲しいってそれだけのことさ」
「こういう……って?」
「ここに一人でずーっといると気が滅入るんだよ。今まで兄弟とワイワイやって来たもんで孤独には慣れてねーの。だから、話し相手が欲しいわけ」
「贅沢な」
「……ルイス?」
眉根を寄せた俺にオザダが心配になったらしく声を掛けてくれる。
「あ、ごめん。たぶん大丈夫」
「……」
少し疑っているようだけど、オザダは頷いてそれ以上口を挟まないでくれた。
ナイトメアに目を戻す。
「……ってほら! 俺いま滅茶苦茶不安で死にそうだったの分かる?!」
「知らんってば」
「せめて一日に一度は誰かと喋りたいのよ。なぁ、何とかならない?」
「……それさ、聞き入れたら何かこっちに良いことあるの? 今のところ立場が下なのはお前の方で、こっちは別にお前が孤独死しようがどうでもいいんだけど?」
「損得で動くとか人として良くないぜ?」
「……終了~」
「待て待て待てって! も~、ちょっとは駆け引きを楽しもうぜ~」
「……」
「……ゴメン、えっと、ここに閉じ込められてると攻撃系の技は使えないし……他にとなればですねー、うーんと…」
何にもないんだろ。無いって言えよ。
「あれ! あれが出来るよ。雨降らせるヤツ」
「……あの黒い雨か?」
「あれは頭数必要な攻撃技。じゃなくて、俺らが【白い雨】って呼んでる持続回復スキルの方なんだけど、広い範囲に体力が回復する雨を降らす事ができるんだ。ほら、その辺でお気楽に暮らしてる人間たちってすぐ怪我するし、もともとあんまり体力もないじゃん? ちょいちょい回復させてないと長く使えないんだよな」
使えないなら使うなよ。
「戦況見て大事なとこでスキル使ってやるよ。どうだい?」
「……その雨、戦ってる相手が浴びたらどうなる?」
「仲間にしか効果は発動しないさ。あ、ここで言う仲間ってのはもちろん兄ちゃんたちの事な」
「……」
悪い話じゃないんだよなぁ……でもなぁ……。
「正直なところ、お前とこうやって目を合わせて会話するのが凄く面倒だ」
「あー、そっち問題?」
「話し相手って俺じゃなくても良いのか? 例えばガララとか」
「ガララってこの馬鹿丁寧な馬だろ? ……美人だけど話が合わなそうなんだよなぁ」
そうだろうな。俺も名前を挙げてはみたものの、可愛いガララにはコイツと付き合って欲しくない。
「となると……キン! キンちゃーん、ちょっといい?!」
今日のキンは中身が空洞の軽量タイプでノーメイク。
パームの恰好でガララの前を走っていたのを呼び止めるとドロっと溶けてガララの前脚から上がってきた。
俺の腿の上に顔だけ作り直す。
「困ったときはキンに頼むのが一番だよな」
「はい、キンはお役に立ちます」
「良い返事。実は馬の姿になってこの小さいヤツの話し相手をして欲しいんだ」
キンにナイトメアを見せる。
「多分勝手に喋ってると思うから、たまに返事してやればいいからさ」
「分かりました。いつもガララを見ているので馬への変形は得意です」
出来上がったばかりのパームの顔がグニャリと崩れる。
変形するときは熱で溶けるのかと思ってたけど、形を変えている最中も特に熱さを感じなかった。
細い4本の脚が、残りの塊を持ち上げながら伸びていく。
その塊から曲線のきれいな胴体が作られ、そこに尻尾が生える。
逆側には首が伸び、最後に頭部が出来た。
見た目はやはりガララに似ている。
ちょうど俺の両腕で抱えられそうなサイズの黄金の馬。
この出来でもし土産物屋に売ってたら即買いだろうな。
キンが後ろ足で立ち上がって俺の肩に前足を掛けたので、胴体を抱きかかえてやる。
俺の肩に顎を乗せ、ナイトメアとの対面だ。
「……」
「……」
「……」
「……」
……双方の声が聞こえないから上手くいってるのかが分からないな。
「キン、どう? 話出来てる?」
じっと動かなかったキンがこちらに顔を向ける。
「…………ロッジャルという名前だそうです」
言葉は脳内に届いた。
「ああそう、ロッジャルね、分かった」
個体ごとに名前があるのか。という事は俺の中のヤツにもあるんだろうな。
「それから『綺麗な色してるね、今度二人で遊びに行かないか』との事です」
「そういう理解できない話には返事しなくていいよ」
「分かりました」
「ひとまずありがとう。助かったよ」
「はい」
キンは馬のまま飛び降り、そのまま前を追って駆けていく。
4本足の方が速く走れるようで、小さな馬はスルスルと人の間をすり抜けてすぐに先頭を行くマグマの横に付けて並走し始めた。
「……どう?」
「最高! 特に俺の話をじっくり聞いてくれるところが気に入った!」
ロッジャルが狭い空間で飛び跳ねている。
「うん、じゃあその方向で」
「サンキュー兄ちゃん! ちなみにさっきのあの子フリーかどうか分か……」
めんどくさくなって顔を逸らす。
「オザダ、くれぐれもそいつとガララを会話させないようにな」
「……?」
そうこうしているうちに、前方に赤い実をつけた大きな木が見えてきた。




