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腹ごなし

「釣り糸じゃああんまりよね」

 翌朝にはフィリーアが幅広の平たい皮に魔力伝導率の高い金属で縁取りをした革紐をこしらえていた。真ん中辺りにガラスの八面体を脱着出来る石座が取り付けられている。

 ガララの首に革紐をまわし、長さをピッタリに調整して留め具でガッチリ固定した。

 ガララが俺に目を合わせる。

「ありがとうございますとお伝えください」

 見てすぐわかるほど喜んでいたので伝えなくても良さそうだったけど、一応その通り伝えるとフィリーアが甚く感動した。付けたばかりの八面体を外して自分の手に握るとガララの正面に立つ。

「お願い、私に直接もう一回言ってみて!」

 ガララが首を上下に揺らす。

「……っ! 良いのよ~こんなの全然大変じゃないから! 今度また何か作ってあげるね……うん? ううん、良いんだってば、私こそいつもお世話になってるし……、うん、うん、そうよね……」

 と、話し込む二人。

 物静かな性格だと思っていたけど、もしかするとガララも本来は結構お喋りなのかもしれない。

「フィリーアばっかりずるいー」

 そこからはガララと会話してみたい人たちの列が出来、八面体が手渡されていく。ガララの人柄……馬柄? が良いからか、全員が話を弾ませた。

「で、こっちはオザダに」

 フィリーアからオザダへと手渡されたのはガララの革紐とお揃いのペンダントで、八面体を中に入れるための枠型のペンダントトップが付いている。

「ガララと会話したいとき手が塞がらなくて済むでしょ。それだけ付けててもちょっとだけだけど重力軽減が効いてるから無駄ではないと思うよ」

「ありがとう。使わせてもらう」

 オザダは自分のもとに戻ってきた八面体をペンダントトップに嵌め込んだ。

 檻の中で小さなナイトメアがちょこちょこ跳ねている。

「もうガララで飛ばないのか?」

 アデギウスに問われて頷くオザダ。

「飛ぶのは大変な時と大変じゃない時だけにしようと思う」

「…ふぅん?」


「ルイス、腹減った」

 ガララとのひと時を過ごし終え、出発しようと準備しているとき。

 マグマが俺の腰のあたりをつついてきた。

「は? お前、昨夜は厩舎を抜け出して何か食ってきたんだろ?」

「あっちの森で果物を取って食ったけどそれだけだよ。途中でガララ達を見つけて戻ってきちゃったし」

「その割には魔力溜まってるみたいだけど?」

 ナイトメアとの戦いで魔力を使い切りそうだった上に、続けて宿までの移動もあったせいで到着したときには首輪はしっかり余力無しの色になっていた。それが昨晩抜け出して戻ってきたときからもう真っ赤になっている。

「そんなの知らないよ! ホントに小さいのを4個くらい食っただけなんだってば! 腹減った!!」

「そんなこと言っても魔力が満タンなとき更に食わせたらお前どうなるか分かんないだろーが」

「むぅーーー!」

「マグマは今日も元気だな。どうかしたのか?」

 話しかけられてロディがすぐ傍に来ていたことにやっと気づいた。

 もしかしてこの人、今日も俺から離れない気か…?

「腹が減ったって煩くて……。果物を何個かしか食ってないって嘘ついてるし」

「嘘じゃない!」

「すごく怒ってるぞ…疑われてるのが気に入らないんじゃないか?」

「でもコイツの魔力量が全回復するような果物なんてある? ないだろ?」

「ふむ?」

「あるぞ、大量に魔力を貯めてる果物」

「え、ホント?」

「ほらー!」

 マグマは味方の登場に勢いを増す。

「あいつらに言ってやってよジェイマー!」

 ジェイマーは地図を広げ、厩舎の壁に押し付けながら説明する。

「ここ、現在地。で、ここが【未開の森】。実際の所はかなり探索され尽くされてるから未開ではないんだけどな」

「知らなかったな。有名なのか?」

「ロディはあんまり関係ない場所かもな。なんたって『襲ってくる魔物がいない森』として有名だから」

 しかし、

「へぇー、そんな森があるのね?」

「俺もこっちはよく来てたけど知らなかったなぁ」

 思っていた反応が来ないらしくジェイマーが不安な表情を見せ始める。

「……あれ? もしかして有名じゃないのか?」

 みんなが揃って首を横に振る。どうも知っているのはジェイマーだけのようだ。

「ソリアの村ではこの森から食材を調達してるんだぞ……っと、…あー、そういえばこの場所は村人以外には口外禁止って言われてたような……?」

「そりゃ言っちゃだめだろ師匠」

「だな。忘れてくれ」

「てことで疑ってごめんマグマ。飯にしよう」

「飯!」

 アデギウスに預かってもらっていた肉の塊を出してもらい、それをしっかり焼くことでマグマに魔力を使わせてみるがその程度では全然減らない。

「一発デカいの空に吐いたら半分食っていいぞ」

 マグマは素直に空に向かって口を開ける。

「あ、そうだ。僕も」

 マグマの隣にカラビウが立ち、発火の書を開いた。

「勝負だ、マグマ君!」

 カラビウが右手を空に翳す。炎が現れ、回転しながら炎の玉を作り出した。

 玉はどんどん大きさを増していく。

 それを見てマグマが一旦口を閉じる。

「ングムムムム……!」

 体を震わせながら踏ん張るマグマ。

 体内に魔力を貯め込んで一気に放出したいらしい。

 けど急にそんな器用な芸当が出来るわけもなく、すぐに炎の玉が口から出てしまった。

 ……とは言ってもしっかりちゃんとバカデカいんだが。

「失敗した〜」

「フフッ、その程度かい」

 カラビウの炎はうねりながらまだまだ大きくなっていく。既にマグマの炎の玉よりも大きいのに、まだ止めようとしない。

「ちょっとー、あんまり調子に乗るなよー?」

「大丈夫ですよ姫。僕は絶好調です」

「あ」

「…え?」

 話しかけられた拍子にカラビウの気が散ったのか、大きめの火片が舞い落ちてきた。

「あー!」

「まずいっしょアレ」

 火片は宿の屋根に落ち、すぐに煙を上げ始めた。

「バカ! すぐ消せ!」

 ササが怒鳴ってカラビウを蹴った。

「ヒィッ」

 カラビウがつんのめって転ぶ。

「マグマ」

 炎の玉を水砲で上空に弾き散らし、ついでに屋根の鎮火の仕事もしたマグマは猪一頭食えるまで魔力を減らすことが出来た。

「美味いか」

「美味い!」

そりゃ良かった。

 焦げた屋根の被害は小さく済み、フィリーアとジェイマーとで急いで修復した。更にロディが温泉水を大量に購入することで宿の責任者には許してもらえた。しかしその間ずっとササはカラビウに怒りをぶつけているのだけどこちらは全くおさまらない。

「調子に乗るなって言ったよね? 聞こえてたよね? 理解できないの? アホなの? ん? そうなんでしょ?」

「すみません……はい……はい……僕はアホです」

「ナイトメア一頭捕まえたくらいじゃ諸々チャラになってないからね」

「はい…アホを治して姫の期待に応えられるように精進します!」

「期待なんかしてないわよ」

「うぐぅっ! で…では期待してもらえるように頑張りますっ」

「あんたはあんまり頑張らないで。迷惑だから」

「姫ぇ…」

 なかなか酷い事を言われているのに何故か緊張感の足りないカラビウ。ササも深刻にならないように雑な攻め方をしているようだ。


「どうせならその【未開の森】に寄ってみようか。魔力回復の果物ならストックしておいて損はないだろう」

「そうだね、アイテム作りにも使えそう」

「他にも美味い食材が採れるぞ…っと、言い忘れるところだった。そのマグマの食った果物だけどさ」

「うん?」

「ソイツ、食われる危機を察知すると食いに来るから気をつけろよ」

「…うん?」

「うんうん! ガパッて来るぞ! ガパッて!」

 マグマが大きく口を開けて見せる。

 真似してセシルも大きな口をパクパクさせた。

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