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 雨のエリア外にいた竜騎士たちが湖に網を投入して掬い上げたり魔法使いたちが水ごと持ち上げて仲間を探し始める。

 しかしそうしている間にも次々と黒い雨に打たれた人たちが湖へ飛び込んでいく。

「カラビウ! 雨雲の下一帯に時間停止!!」

「はいっ」

 ササも本を持ち替えて時間停止を広範囲に発動させる。

 数十秒だけでも時間を止められた人々は拘束されたり檻に入れられたりして入水を阻まれる。

 しかし雨雲はナイトメア達とともに少しずつ移動していき、被害が着々と増えていく。

「きりがないな…ナイトメア達の前にいる竜騎士全部をどこかへやらないと…」

 浮遊石を付けてもらえれば楽になりそうだけど、ここからだとジェイマーが遠い。

 転送するか。でもササの時間停止の手を止めるわけにもいかなそうだ。

「僕があの中へ入りましょう!」

 カラビウが魔法を止めることなく叫んだ。

「僕、良いもの持ってるんで多分大丈夫です」

 そう言って本日の戦利品を見せた。

 なるほど、ナイトメアの技ならナイトメアには効果が無いはず。それに、

「ドラゴンが囲んでるのは外側だけ…中に入ってしまえば邪魔者はいない…?」

「よし、セシルに乗れ!」

「頑張って!」

「!! 姫……っ」

 ササのその言葉に、カラビウが一瞬止まり、嚙みしめてから悦びに身震いする。

「任せてください!!」

 アデギウスの後ろに再び乗り込むカラビウ。

「行くぞセシル!」

 竜騎士たちの壁を目掛けてセシルが速度を上げる。

 しかし接近してくるセシルに気づいた竜騎士たちが少しの隙間も作らないように密集してきた。

「マグマ! あの真ん中のヤツに氷をくっつけてやれ!」

 1頭のドラゴンの足首を目掛けて凍りのブレスを吐く。

 急に巨大な重い氷の塊を付けられてバランスを崩したドラゴンは傾き、周囲の仲間にぶつかった。立て直そうと身じろぐドラゴン同士が更に接触し陣形が乱れる。そこに出来た隙間をこじ開けてセシルがついに竜騎士の壁を抜けた。

「行けぇっ!!」

 セシルが半回転し、振り落とされる勢いも借りてカラビウが黒い雨の中へ突っ込んでいく。

「効かんぞおおぉっ!!!」

 カラビウの叫び声とともに一頭のナイトメアが消えた。

 そしてそれをきっかけに黒い雨が止む。

「やった!」

 雨を降らせるには数が足りなくなったナイトメア達はカラビウに迫る。

 しかしやる気に満ちたカラビウの方が反応が速い。

「次ィ!」

 また一頭。

「次ィ!」

 もう一頭。

 どんどん竜騎士の壁が崩壊し、外側からのササの転送魔法も容易に当たるようになる。

 一気に転送で送り出し、6頭のナイトメアがすべて目の前からいなくなった。

「フハハハハハ! 勝利ーっ!!」

「……ツラいー」

 まだ元気そうなカラビウと、かなりしんどそうなササ。

 どちらもやり遂げた満足感が表情から見て取れた。

「ルイス」

「ん?」

 マグマが話しかけてきた。

「なんか変」

「え…?」

 辺りを見回す。けどもうナイトメアは見当たらない。

「…下、あの雨の効果はやっつけても消えないみたいだねー」

 黒い雨を浴びた人々は未だに湖に向かおうとしていて、仲間たちが必死に引き止めている。

 マグマはそれの事を言ってるのだろうか?

「あたし限界かもー…フィリーアのとこ行って回復薬貰いたいよー」

「わかった、行こう。…マグマ」

「でも、なんかまだ変だ」

「あの雨が残ってるからじゃないか? ひとまず行こう」

「……」

 まだ気になる様子のマグマだったが何度かペチペチとたたいて催促すると、渋々進路をフィリーアたちの元に向けた。


「おーお疲れー」

 ジェイマーがいつものように出迎えてくれるが、やはりそれなりにくたびれている。

「フィリーアー、一番美味しいヤツ飲みたいー」

 フラフラとマグマから降りたササがそのままフィリーアに抱き着いた。

「はいはい、ちゃんとササの分残してあるよー。特性のイチゴ味~!」

 取り出したピンク色の魔力回復薬に飛びついたササがキュポッと栓を抜き一気に飲み干す。

「……っ、ぷはぁ~。たまらん~~~~」

「また作らなきゃね」

 まわりでは雨に濡れた人たちの回収、拘束が進む。

 被害を受けたのは全体の三割ほどだろうか。

「ナイトメアを倒したのに意識が戻ってこない」

「早めに病院に連れて行きたいよな。しかしレック様までこんなことになってしまうなんて」

 暗黒の雨に染められた人たちはその色が抜けずに黒いままだった。

 湖に飛び込んで引き上げられた人も水魔法で洗い流された人も変わらず黒い。

 カラビウも真っ黒いままだ。

「特殊な色素が入っているんでしょうか?」

 フィリーアがじっくり観察しながらカラビウの周りを一周回る。

「うーん……この感じだとスキルの効果を表しているんじゃないかなぁ?」

 ワフは雨が降り注いだ一帯の地面を見渡した。溜まっているのは黒ではなく透明な雨水のようだった。

 黒く染まったカラビウの衣服を絞ってみても、滴る水に色はついていない。

「あんな技を持っているなんてね。今回みたいに引き止めてくれる人がいなければ過去に目撃した人がいたとしても伝えることは出来なかったんだろうな」


 雨の被害者の囲い込みを終えても、討伐軍の混乱は続いていた。

「誰か騎士団長を見ていないか?」

「誰に聞いても知らないみたいなんだ。一体どこに行ってしまったのか……」

 討伐軍のトップが行方不明、補佐も指示を出せる状態じゃないとなれば頼りにされるのは元の騎士団の総責任者しかいない。ナイトメアを片付け終わったジェイコフの元には班を纏めていたリーダーや各職種の責任者たちが集まっていた。

「一度王宮へ戻りますか」

「騎士団長は今回島の捜索までを考えておりましたが」

「団長の捜索は如何しますか」

「黒い雨の被害者は王宮へ入れても良いものでしょうか」

「雨を免れた村人たちは……」

 一気に解答を迫られるジェイコフが顔をしかめる。

「……今回はここまでとして島への立ち入りは後日とする!」

 それを聞いた者たちから安堵の息が漏れた。

「まずは魔法使いの動ける者! 二名は王宮内緊急許可区域へ飛び早急に現状報告と総合病院への対応要請、同時に何人使ってもいいからガジャ村の住民及び黒い雨被害者を全員王都城壁外へ転送! 残った者は回復、応援退魔師の帰還、その他必要箇所の補助に回れ!」

「はい! 直ちに!」

「騎兵、竜騎兵は周囲を捜索し他に被害者が残っていないか確認、併せてジョセフ騎士団長の捜索を頼む。くれぐれも単独で島には近づかないように!」

「承知しました!」

「戦士、技工士、弓使いは原状回復を進めてくれ。黒炎や雨を受けた場所には浄化液を散布。終わり次第テントも回収を」

「分かりました」

 受けた指示を伝えるために仲間一斉に仲間たちの元へ戻っていく。

 先ずは黒い雨の被害者がごっそり王都へ送られたことでかなり人数が減り、地面に残る戦いの痕が目立つようになる。

「ご協力いただきました退魔師の皆様、王都への転送を行います。今回の報酬は組合にてお受け取りください。帰還の転送を行います…」

 魔法使いのグループの呼びかけを受けて退魔師たちが集合する。威勢の良かった戦士は何度も洗脳はされていたが最後の黒い雨は浴びなかったようだ。滅ぼされて復旧中のガジャ村の住民たちも無事を確認しあい、ホッとした様子だ。

「お前らも先に帰っていいぞ。今日はよくやってくれた」

 ジェイコフがロディの二の腕をバシンと叩いた。

「俺たちは最後までお手伝いしますよ。どうせこの後はこの先へ行くので」

「このまま旅に行くのか? 一旦戻って休んだらどうだ」

「俺たちにも色々予定がありまして」

「そうか、まぁ手伝ってくれるというなら遠慮なく頼もうか」

「じゃあみんな、俺たちでテントを片付けようか」

「うぃーす」

 先ずは自分たちの使ったテント……の布は引っぺがしたまま近くに落ちていたのを拾う。

「これ畳むのめんどくさいかもー」

 ササが早急にやる気をなくした。

「姫は休んでいてください。僕がかわりに頑張りますので」

「……ありがとー」

 ポイントが稼げそうな場面なのに全身真っ黒なおかげで相変わらずササのカラビウを見る顔つきが微妙だ。

「キンも頑張ります!」

 アデギウスの肩でキンが手を振ってアピールする。

「おおキンちゃん! 頼もしいね!」

 ジェイマーがキンに残りの金を差し出すとキンがそこへ飛び込んだ。ドロドロと形を変えて人間サイズに戻ったキンは、早速カラビウと一緒にテキパキとテントを折り畳んでいく。

 ロディとオザダで柱を抜き、ジェイマーが穴を埋め戻す。

 フィリーアはワフと共にナイトメアの残骸から使えるものを物色している。

「アデギウス、俺たちで先に布の回収をしようか」

「そうだな。纏めて持って来よう」

 俺たちは一番遠いテントまで向かうことにした。

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