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置土産

「村人を保護しろー! 魔法を発動させるなー! 騎士は地上へ降ろせー! 」

「おおーっ!」

 ジェイマーの声に討伐軍が動く。

 王宮の魔法使いは同僚に「魔法が使えなくなる魔法」をかけまくる。

 魔法の書を持てないように両手のひらをくっつけてしまうという魔法だ。とても怖い。

 戦士たちは騎士を馬から力ずくで引きずり下ろして縛り上げ、騎士は乗り手がいなくなった馬たちを非難させる。竜騎士は近づいてくるたびに浮遊石を取り付けられて空へ舞い上がっていく。

「目を見なければ俺たちは勝てるぞー!!」

「ぅおおおおおー!」

 一度スキルを食らってしまった失敗を取り返したいのか、誰もがやる気を見せている。

 参加している退魔師たちの中にも復活した者も出てきた。

「ぶちのめしてやるぅっ!!」

 洗脳者の壁が拓けたところに斧を持った戦士が一人でナイトメアの横腹目掛けて突っ込んでいく。

 しかし狙ったナイトメアの後方にいた個体数頭があらゆる角度から黒炎を放ってくる。

「ぐっ」

 避けようとバランスを崩した戦士に、狙われていた1頭がヌッと顔を近づけたと思ったら後方にピョンピョンと跳ね、他のナイトメアたちの背後に回った。

 見つめられた戦士は仲間らしい退魔師たちにすぐに囲まれて斧を没収され縛り上げられる。

「単独での突入は無理だー! どうしても一撃かましたい奴は後方の処理班に参加しろーっ! 忘れるなー、優先順位の第一は村人の保護ーっ!」

「おーっ!」

 声を掛け続けるジェイマーに、声を上げて正気だと知らせる討伐軍。

「ジェイマーって統率力あるよな」

「人が多いと黙ってられないのよねー」

「ササ姫ーっ要るものある~っ?!」

 技工士の割合が少ないのでフィリーアは復活した兵士へのアイテム補給に忙しく走り回っている。

「だいじょうぶだよー」

 ササが手を振って答える。フィリーアは頭の上に手で大きな丸を作ってから捕縛ロープの配布に戻っていった。

「師匠、奴らは目を塞ぐと暴れるから注意してくれ。俺たちはもう少し前に行くよ」

「分かった。気をつけろよ」

「アデギウスーっ、戦える人が増えてきたからちょっと前に出よーう!」

 少しだけ上昇して真上のセシルを見上げる。

 後方で一発デカい破壊音がしたから、ちょうど飛ばし終わったところだろう。

「分かったー!」

 返事を返すアデギウスも、その後ろのカラビウもまだ大丈夫そうだ。

 でも何か違和感がある。なんだろう。

 それは、見上げた竜の更に上……。

「っ、避けろ!! 上だ!!」

 叫んだものの、向こうの方が速かった。

 二人が見上げて確認しようとしたところに、急降下してきたナイトメアの体当たりを食らってセシルの体が大きく傾いた。

 アデギウスは堪えられたがカラビウがグラリと傾き、その手から魔法書が零れ落ちる。

 そしてそれを慌てて掴もうとしたが踏ん張り切れずにセシルから体が離れてしまった。

 先に落ちてきた本はマグマがパクリと口でキャッチしたけど……

「っィィィィィ?!!!!」

 頭から真っ逆さまに落ちてくる。

「マグマ!」

「ング!」

 本を咥えたマグマがカラビウの落下地点に位置を調整する。

「…背中は受け止めるすき間がないよ! どうしよう!」

 あの速さでぶつかってこられたらササは分からないけど俺は確実にダメだ。

 けど迷ってたらカラビウが……。

「慌てすぎー」

 ササがそう言うと、もう諦めて顔を両手で覆って大人しく落ちてくるカラビウがビタっと止まってグルンと半回転し空中に直立した。

 振り返ると転送とは別の書も手にしていた。浮遊を発動させたらしい。

「魔法使いでしょー! それぐらい自分でどうにかしなさいよねー!!」

 何が起きたのかと見回すカラビウに、こんな時でもササは厳しい言葉を浴びせる。

「すみません姫~、この御恩は必ずや~……」

「いいから早くアデギウスの援護!」

「おっとそうだった」

 浮遊状態のからカラビウが元の位置まで戻ろうと駆け出した。

 浮かべてはいるが飛行出来るわけではないみたいだ。


 一発はもらったセシルだが、それからは突進してくる相手に突風をぶつけて隙を作ってどうにか躱していた。

 上体を浮かせ前足で踏みつけてくる攻撃はもう何度も目にしている。

 これには体勢を戻した後に後ろへ一つポンと下がるのがセットだ。

 腹を見せたナイトメアをセシルが突風で後退させる。

 僅かに距離が足りなくなったナイトメアが攻撃対象のいない場所に前足を下ろし……

 突然回転して後ろ脚でセシルの顎を蹴り上げた!

 不意を突かれたセシルが体ごとのけぞり、アデギウスも真上を向かされた。

「あっ!」

 そこに覆いかぶさるようにナイトメアがアデギウスに顔を寄せる。

「アデギウスっ!!」

 やられたか、と思ったその時。

 フワ、と金色に輝くベールがアデギウスとセシルを覆った。

「!! キン?!」

 その隙にマグマが水砲を放ちナイトメアを遠ざける。

 すぐさまササの回復魔法が飛んでいく。

 危険を回避したことを確認したベールはアデギウスの肩へ戻って行った。

「アデギウス!」

「……平気だ! 俺もセシルも問題ない!」

 空中を駆け上がりながらカラビウが手にしたのは転送の書とは装丁の異なる魔法書。

「……よくも姫のお手を煩わせたな! 許さないぞ!!」

 カラビウが何かやりそうなことを察知したアデギウスがセシルを少し下がらせた。


 その本を開くと、ナイトメアを囲むように三角形のガラス板が八枚出現した。

「あ、メルシア様からもらったやつだー。うわー、さっそく使うかー…」

「スゴイの?」

「金額がものスゴいやつだよー。面白いから見といた方がいいよー」

 ササはそう言いながら俺の先にいたナイトメアを1頭転送したようだ。

 処理班の方で破裂音の後で討伐兵たちのものらしき歓声が沸いた。

 地上の動ける人数が増えた事で他のナイトメアたちはそちらを先にどうにかしたいらしく、進路を変えていた。近くにはすぐに俺たちを襲って来そうな個体はなさそうだ。

「お前は…今から僕の奴隷だー!!」

 カラビウの叫び声とともにガラス板がナイトメアを閉じ込める。

 それにしてもセリフが悪者っぽいな…。

 暗黒の馬を中に詰めこんだ八面体はクルクルとその場を回り出す。

「閉じ込めて目を回す魔法…」

「だけじゃないよー」

 何が起きるんだろうとじっと見つめる。

 でもずっと回転し続けているだけで特には何も…

 …………ん?

 んん?

「移動してる?」

「してないよー。おんなじ場所で回ってるー」

 しかし違和感がある。なんとなくさっきよりも遠くにあるように……。

「! 小さくなってるのか?」

「正解ー。でもまだまだ途中だよー」

 ササが言うように、八面体は更に小さくなっていく。

 どんどん縮んでいき、今の距離では目視出来なくなってきてマグマに近づくように促す。

 クルクルと回って朝日を反射するガラスの八面体。

 次第に回転は遅くなり、やがて止まってカラビウの掌に収まった。

 小さなガラスの中では小さな暗黒馬が戸惑っていた。

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